視線を集めていた「ホークイレブン」。アフリカツイン系のパラツインを搭載した、ロケ
ットカウル付きのカフェレーサースタイルは、実は「裏Honda」がコンセプトらしい!
開発コンセプト「裏Honda」、シリーズ化求む
ホンダと言えばわりと真面目なバイクを作るイメージもあるかと思う。性能は間違いない、けれど、色気や個性は少なめか……!? 的なイメージを抱いている人もいそうだ。僕もなんとなくそんなイメージもあったりしたからこそ、今回のロケットカウルや、乗る人をある程度限定しそうなセパハンポジションなど「ホンダらしくない攻めっぷりじゃないか!」と思ったのだった。
コンセプトには「裏Honda」というテーマがあったらしい。いわゆる万人受けする、優等生のホンダとは違った、ちょっと攻めた裏のホンダ。今までのホンダからすると大きな方向転換というか、新たな道の模索が始まったのかな? という印象がありワクワクさせられる。
アフリカツイン、レブル、そしてNT1100と優秀な3兄弟に対して、このホーク11は明らかにちょっと路線が違う、どこかアウトロー的イメージも感じさせてくれる構成。まずはこんな遊び心を称えたいし、願わくば他機種においても「裏Honda」シリーズを展開してホンダの新しいイメージとして定着したら、さらに盛り上がると思わされた。
「アガリバイク論」の難しさ
さてこのホーク11、試乗前の説明会で「あらゆるバイクを乗ってきた、酸いも甘いも知り尽くしたベテランライダーが、最後に買いたくなる”アガリ“バイク」というコンセプトが伝えられた。購買層としては、ホーク11の前に乗っていたバイクは、CBR1000RRなどが想定され、速さとは違う所に楽しさを見出せるモデルとしたい、という想いもあるようだ。ただ、このアガリバイク論はなかなか難しいだろう。
最後に乗るバイクはカブ!なんていう話はよく聞く。まぁそうだろう、カブなら歳をとって体力が落ちても、自転車に乗る感覚で乗り続けられそうだ。そしてそのカブの一つ手前は、筆者としてはセローや、ホンダならSL230的な、軽くてシート高の低いオフ車じゃないかと思う。最近絶版になったばかりのトリッカーなど、ほぼカブ感覚で乗り続け易いだろう。そしてそれのさらに一つ前となると、例えばCB650Rのようなバイクが理想的だ。重すぎず軽すぎず、十分速くさらにカッコイイ。最後の大型バイクと言えばここら辺じゃないですか? とホーク11開発者に投げかけたところ「いや、特に今の50~60代のライダーだとやっぱりナナハン以上というのが一つのステータスだと思うのです。CB650Rは(私が開発したこともあって・笑)とても良いバイクですが、アガリバイクとしてはちょっと弱いかな、と」という話。
なるほど。そうなるとホーク11は、「アガリ4つ前のバイク」ということになるだろう。というのも、リッタークラスとしては重くはないものの、実車はそれなりに大きく重く、そして長くて、体力の衰えを感じ始めている人にとってはそれなりのハードルはあるのだ。「ライダー人生最後のバイク」ではなく、「乗れるうちに乗っておきたい、最後のリッターバイク」という感覚の方が正しいと感じた。
前傾ポジションに「これこれ!これよ!」感
またがるとやはりなかなかの前傾姿勢。ポジションは08年型CBR1000RRの着座位置・ステップ位置・ハンドル位置の三角形の、ハンドル位置だけを103mm上に上げたもの、とのことだが、それでも公道をファンライドするための乗り物としてはけっこう「ヤル気」のポジションと言える。これにしっかりした剛性感のある倒立フォークが組み合わされることにより、ハンドリングのダイレクト感はかなり楽しめる設定だ。そもそも今はヤル気のセパハン車がSSモデルを除くと少ない気がするためよけいこのポジションに懐かしさを感じるのかもしれないが、まさにターゲットとしている、レプリカ時代を生きてきた50~60代のライダーからしてみれば「おっ! これこれ! 懐かしいねこの感覚!」と刺さりそうなポジションである。
それでいて車体はロングホイールベースと低重心により神経質な所はなく、かつてのレプリカたちのように素っ頓狂なスポーツ性を持っているわけではない。あくまで優雅に、のんびりとした操作性の中で、セパハンがもたらす積極性を楽しめるというわけで、それとロケットカウルのカスタム感を同時に味わうことにより独自の世界観が出来上がっていると感じる。
速すぎないこと
「速いけど・速すぎない」というのもキーワードだった。1100ccもあるのだから当然ある程度は速いわけだが、CBRなど極限の速さを持つバイクから乗り換える層を想定しているのだから、同様に速くてはしょうがない。怖さを感じさせない包容力と、それでいてスポーツマインドも忘れない程度の動力性能を確保する、そんなバランスが求められたエンジンの設定である。
基本的にはアフリカツインやレブル1100、NT1100と同じエンジンなわけだが、しかしこちらは兄弟車に比べるとポジション的により人車一体感が高く、バイクの重心とライダーの重心が近い設定。これにより、アフリカツインではかなり活発に感じる性格のエンジンでも、ホーク11ではよりコントロール下に置きやすいと感じる。大排気量ツインがバララッ!と加速しても、セパハンにしっかりと掴まっているがゆえ、上半身が持っていかれるなどということはない。結果、怖がらずに積極的にアクセルが開けられ、ライディングモードでは最も元気のある「スポーツ」に入れておいてちょうど良いぐらいだ。より少ない排気量からステップアップするライダーからすれば「おおっ! さすがリッターは力があるな!」と感じられることだろうし、よりパワフルなバイクから乗り換えるライダーなら「これなら安心して開けていける」と感じるはず。速くもないが遅くもない、懐の深い設定と言えるだろう。それをゆっくり走らせるのか、それともアクティブに走らせるかはライダー次第だ。
細かいこだわりを楽しむ
スペック的に惹かれてホーク11を買う、という人は少ないはずであり、ということは感性に訴えかけるスタイリングや乗り味がこのバイクの魅力となるだろう。
その点、細かな所のこだわりはなかなか楽しめるポイントが多い。例えばFRPで作られたロケットカウルだが、内側はまるでレーサーのようにFRP繊維のテクスチャーが残されていて、それを隠すようなインナーパーツが装着されていないところが潔く、またカスタム感性をくすぐられる。カウルの中には円形のシンプルなメーターのみが鎮座し、そのスタイルは「かつてのRCレーサーなどをイメージした」とか。なるほど雰囲気がある。またスクリーンをカウルに留めるビスが通常ではプラス頭のネジだが、ホーク11ではスタッド(リベット)のようなものが表から押し込まれ、裏側から留め金でおされられている仕組み。仕上げがとても上質だ。
ロゴに関しては、「かつてのホークIIをイメージしてホーク11」としたのですか? と聞くと、やはりその想いはあったそう。加えて猛禽類のホーク(鷹)をイメージして、イレブンの「11」は1の上の所をクチバシイメージで尖らせたとか。「鷹の目も書いちゃおうかという案もあったんですけどね(笑)」という裏話も飛び出した。アフリカツインのエンジンやフレームを使ってのバリエーション展開、という制約の中で、こんな遊び心もしっかりちりばめられているのは嬉しいことであり、「裏Honda」的にもステキなことに思った。欲を言えば、かつてのホークIIは360°クランクであることが
一つのキモであったため、ホーク11もまた、敢えて兄弟機種の270°クランクと差別化する意味でも360°クランクとしたら面白かったのに! と思うのは言い過ぎ、もしくはマニアックすぎる注文だろうか。
他と違うホンダが欲しいアナタに
タンクにHONDAと書いてあるから間違いなくホンダではあるが、知らない人が見たら国産車にすら見えないのではないかと思うホーク11。このクラスに全く新しいものを提案したのは間違いない。個性的でありながら、同時に国産車であることの、そしてホンダであることの安心感やサポート体制があるのは素直にありがたい。
どんな人に薦めたいかといえば、このように「他とは違う」バイクを探している人、ということになるだろう。個性的でありながらも付き合いにくくはない、そんなバイクの需要は確かにあるはずだ。セパハンを握りしめ、積極的にバイクとの対話を楽しみたい人はきっとホーク11を満喫できるハズだし、様々なウェアやスタイルで乗る楽しさもあるだろう。
一方でポジションはソコソコに厳しく、タンデムや荷物の積載性も限られるため、ツーリング好きの人にはハマらないかもしれない。また特別速くもないためパフォーマンスを重視する向きにもフィットしない可能性はある。
漠然と「何か面白い(興味深い)バイク、ないかなー」と思っているようなアナタに、是非とも検討・試乗してほしいバイクである。
ノア・セレン&平嶋夏海が対談形式で語るインプレは、動画でお楽しみください!
筆者紹介:ノア セレン
絶版車から外車まで、原付からリッターまで、バイクなら何でも愛する「バイク博愛主義」ジャーナリスト。ホーク11の新しい世界の提供は歓迎する一方、このエンジンとフレームで「普通のネイキッド」、いわゆる「表Honda」車が欲しいなぁ、と感じた。愛車はチョイ古アプリリアとトリッカー。金曜雑談生配信準レギュラー出演中。