文:山口銀次郎/写真:西野鉄兵
ホンダ「PCX e:HEV」通勤インプレ
電動モーターのアシスト力を堪能、走り方を変えて燃費を2度計測
他のPCX兄弟車と区別するように、ホワイトとブルーを基調としたボディカラーデザインで、クリーンかつ先進的なイメージとなる。
フューチャー感漂う佇まいに、全方位疲れ切った中年感否めない私にとっては少々気恥ずかしい気が……。また、ワッセワッセと都心の雑踏をあくせく分け入る姿が似合わない気が。とはいえ、疲れ切った中年男性をもスタイリッシュにさせてくれるチカラが「PCX e:HEV」にはあると信じて、いつもと変わらない都心へ向けての片道30kmの通勤に漕ぎ出すのであった。
初歩からして上質。走りだしは電動モーターによるアシスト力を強く感じる。停止状態から最もエネルギーを必要する領域で、電動モーターの滑らかかつ太いチカラが大きな後押しとなり、とんでもなくスムーズかつ脅威のダッシュ力をみせる。そのインパクトさはスタート時のみエンジンが2丁掛けになるといった具合の上乗せ感だ。
先代のモデルと比べると電動モーターならではのサポート力が増しているように感じられる。レシプロエンジンならではの脈打つ鼓動感が極端に薄れ、電動モーターの駆動力が占める割合が大きく、それこそ電動バイクのような雰囲気なのだ。
スタートから数秒が経ち、ある程度の速度域に達すると、滑らかに電動アシストが解除される。ベースとなる4バルブ化されたeSP+エンジンは静粛性に富んでいるので、通常走行時においてもエンジンの振動は極端に少ない。これはこれで上質なのである。
このアシスト力の偉大さとインパクトは大きく、通常PCXとの価格差を鑑みると強烈にお買い得に感じてしまった。
体感のみならず視覚的にも電動アシスト時の様子は液晶メーターで確認できる。面白いギミックだ。減速時にスロットルを閉じると、エンジンブレーキ代わりに回生ブレーキ(減速エネレギーを電力チャージに変換する)が効き、「チャージしてます!」と、わかりやすくディスプレイされる。
実際に、バッテリーの充電状況も目盛り表示で把握できるので、走り方をトライアルすることも楽しさに繋がることだろう。これらの機能により、燃費や充電状況をコントロールするという意識の高まりは、日々の通勤走行路において確実に楽しみをプラスしてくれるはず。
ハンドリングは、フロント14インチのタイヤは直進安定性に富み、クランク走行でもクセのない車格とあったベストなバランスを生んでいる。小径タイヤのクイックさはないが、必要にして十分な旋回性があり、路地裏のUターンもためらいなく出来る。
得意なのは小回りだけではない。ストローク量が増えた前後ショックアブソーバーと相まり、深いバンク角を確保し高い速度レンジでのコーナリングも得意としている。また、タンデム走行でも落ち着き払ったショック吸収性と収束性をみせるので、ワンクラス上の車体造りをイメージさせる懐の深さがあった。
シート下のラゲッジスペースに鎮座するバッテリーなど、見るからに通常PCXと比べて重量増となりPCXならではの軽快なステップワークが損なわれるのでは? とも感じたが、それはとんだ思い過ごしだった。
実質4kgの重量増はハンドリングに影響を及ぼすことはなかった。むしろ、アシスト力の恩恵が大きく、逆に軽快さが増しているように思えることも。それだけ、低速域でのアシスト力はハンドリングにも絶妙に効果を発揮しているようだ。
リアブレーキはディスク化され、安心のストッピングパワーとコントロール性を確保している。前後ブレーキを思いっきり掛けなければならない状況でも、ロック寸前での繊細なコントロールが出来るというのは、125ccスクーターの装備としては豪華な設定だ。
さらに、フロントブレーキにはABSを装備するものの、意識してフロントのみをラフに操作しない限りABSは作動せず、前後同時にブレーキすることでスリップすることなく強烈な制動を可能にしてくれる。
アシストシステムは、スロットル中開度までアシスト力強めな「Sモード」、省燃費に貢献する設定の「Dモード」といった2モードを用意。2つのモードは明らかに異なった性格で、長い付き合いをしていく上で嬉しいシステムといえよう。
今回の試乗距離は400km弱だった。約半分ずつで、スタートや走り方を変えてみた。Sモードでスロットル開度お構いなしの全開スタートをしていた時の燃費は、34.3km/L。スタート時のスロットル開度を少なめ(全開の10分の1、いやそれ以下だったかも)にして走行した場合は37.4km/Lだった。
2パターンの加速力の変化は大きく、手応えとしては燃費に大きく反映されると思っていたが、意外や意外、とても派手さのない結果となった。