文:小松信夫
絶滅危惧種の「空冷・2スト」、実用車としてはメリットばかり?
この連載でですね、「世界の片隅で、どっこい生きてる空冷2ストバイクたちの今」というのをやったのは、確か去年の秋のことだったでしょうか。70年代から何も変わっていない、深く切られた冷却フィンが共鳴して白煙をまき散らすような現役空冷2ストモデルを紹介したんです。
でも、世界的に環境に関わる規制が日に日に厳しくなっていく中では、排出ガス的にアレな空冷2ストは「まさに風前の灯なのです」とも書きました。事実、あの時紹介したモデルの中でも、スズキ懐かしの2ストトレール、ハスラーの空冷時代の姿をそのまま残すシーラカンス的モデル、TS185ERはどうやら消えたみたいですからねぇ。公式に発表されたわけじゃないけど。
このように、まさに空冷2ストのオートバイが終焉しよう(新世代の水冷2ストや、一部スクーターは置いといて…)かという最中にも、メキシコでは高らかに「2023年モデル登場!」をアピールして、空冷2スト単気筒エンジンを積んだスズキの実用車的ベーシックバイク・AX100が販売され続けてるのでした。
去年も「2022年モデルが出てるよ! 凄いなぁAX100」とか言ってはいたんですが。気がついたらすでに2023年モデルになってました。前回紹介した中で、こんなにちゃんと売られてるのはコレくらいだよ。1970年代のままのメカニズムもスタイルも健在です。まあ、何が変わったのかといえば値段くらいで。
2022年モデルから1000メキシコ・ペソ値上げされ、2万1590メキシコ・ペソになった。現在のレートで14万3000円くらい。メキシコが世界GDPランキング16位ということを考えると、これはすごくリーズナブル。公式ホームページもちゃんと作られてて、スズキも在庫があるから売ってる、とかいうレベルじゃない力の入れ方。それなりに売れてるみたい。
特徴は「コストダウン」「非常に魅力的な価格」「堅牢で高品質」。単に実用的なだけでなく、シンプルでオードソックスなメカニズムでランニングコストも非常に低い、ということ。そして、その中心にあるのがシンプルで熟成を極め、修理も簡単な空冷2ストエンジンだと。どうもこの辺がメキシコのビジネス・ユーザーの心を鷲づかむらしい。
スターターはキックのみだけど、公式のWebによると「バッテリーに依存することなく、どこにいてもスタートすることができます」と、アピールポイントの1つになってたりしてね。
スズキも2000年くらいまで日本でも売ってたよ、空冷2ストの原付2種のビジネスバイク。そうそうK90とかね〜、と思ってAX100と画像を見比べると、何も共通点がない。フレームはK90がプレスバックボーン、AX100はパイプバックボーン。エンジンもK90は前傾シリンダーだったけど。
対してAX100は、同じ空冷2ストでもシリンダーが立ってて全く別系統のエンジン。車体もエンジンもK90の発展型とかじゃあないのね。しかも整備しやすいピストンバルブだ、シリンダーにキャブがくっついてるのが見えるでしょう。60〜70年代、スズキの国内向け125cc以下にピストンバルブってなかったんじゃないか。多分コレのルーツは、輸出モデル用に整備性、信頼性重視で開発されたエンジンのような。
スタイリングもお国柄が現れるというか、K90は超オーソドックスな地味地味ベーシック路線なんですが。片やAX100は角型ヘッドライトに角ばった燃料タンクとかね。
小さなテールカウルが付くダブルシートとか、実用車とはいえスポーツモデルっぽい(思い切り70年代テイストだけど)。2023年モデルでもボディカラーが赤・青・黒の3色揃ってるしね。同じ2スト実用車でも、日本とメキシコはこれだけ違うんですねぇ。この勢いだと、メキシコのスズキはAX100をあと10年くらい売ってるんじゃなかろうか。
文:小松信夫