文:小松信夫
プロモーション戦略が逆転の発想!? 中国のホンダ「NS110Q」
世界に冠たるコミック&アニメーション大国の我が国なんですが、最近はそんな作品の中にも実在のオートバイがきちんと描かれることが増えてきましたね。
メカが売りな作品とかよりは、むしろ萌え系というか、日常を題材とした作品の方がむしろオートバイの登場頻度が多いような気が。特に原付のスクーターとかが、等身大の存在であることを表現するアイテムとして出てきますな。
で、そんな流れをメーカーも無視できなくなってきて。コミックもアニメも人気のあfろさん原作の『ゆるキャン△』で、印象的に使われたヤマハの「ビーノ」。最近、実写ドラマ化されましたが、ヤマハがわざわざ作中でのディテールを再現した撮影用車両を提供してたし。
監督・脚本を新海誠氏が担当して大ヒットしたアニメーション映画『天気の子』の作中、主人公が乗ったピンク色のホンダ「スーパーカブ」は、実車には用意されていないピンク色のボディカラーが後に限定モデルとして販売されて話題になりました。まあ、他にもこいうい風にオートバイやスクーターが登場する作品、いちいち上げていけばキリがないような。
そんな中、すでに実在するモデルをアニメやコミックに登場させるんじゃなく、日本製アニメやコミックの醸し出す雰囲気、世界観のみを取り入れるという、ある意味斬新なプロモーション手法を採用したスクーターが中国では登場しているのでした!
それがこのホンダNS110Qです! 正確には新大洲本田製なのか。アニメやコミックを楽しむであろう、若い世代をターゲットにしたモデルということらしい。
そもそもこれが、カタログの表紙なんですが。アニメ風のユルフワ女子キャラクターがちんまりとNS110Qに乗ってる。背景も明らかにアニメっぽいテイストだなぁ。ここでNS110Qは、こういう作品世界の中に溶け込むようなスクーターなんだ! ということを表現してると思われます。
表紙のキャラクター推しで展開されるのかと思えば、ユルフワなイラスト女子はトップページのみ。以降は、中国の4人の若者たちがコミック的世界のように楽しげにNS110Qと戯れている様子の写真メインになるんですけど、いまいち世界観がずれてるような。
手前に書き足された舞い散る落ち葉で無理やり世界をつなぎとめているのが涙ぐましい。あと皆さんのファッションも、なんというか微妙…。
しかもこれ、わざわざジャパニーズ・コミック的世界の再現をしてるんですね。若者たちがNS110Qに乗っているのが、どうやら日本という「設定」なんですよ。
見てください、街中でも見かける補助標識「自転車を除く」を、背景にこれ見よがしに再現してます。災害時避難場所の案内板とか、案外芸が細かかったりして。天王寺小学校まで330mですってよ。
こんなふうに面白がって重箱の隅を突いて喜んでますが、NS110Qそのものはちゃんとしたスクーターなのでした。メーターはコンパクトだけど遊びごころのあるデザインで、多彩な情報を表示できる液晶パネルだし。防水構造のUSBポートも装備されてる。
扱いやすさや軽快さを狙ったのか前後10インチ径のホイールで、フロントブレーキはディスク。前後連動のCBSも採用。
エンジンは空冷単気筒で108cc、最高出力は5.8kW≒7.9PS。103kgという軽量コンパクトな車体で、タンデムでも軽々と走らせることが可能なんだそうで。「省力50%」っていうくらいだから、燃費も良さそうですな。
LEDヘッドライトが目立つフロントマスクなど、スマートなスタイリング。雰囲気は日本で売ってるダンクにちょっと似てるかなぁ。ボディカラーは「星空灰、灰黑、焕彩白、薄荷绿、钛银灰/哑光橙」の5色が揃ってます。
中国向けのスクーターが、日本的オタク作品世界をバックボーンにして、ターゲットユーザーである若者にアピールするというのは、いろいろ考えさせられるものがあるなぁ。興味深い。既存のスクーターをアニメやコミックに登場させるんじゃなく、新しいスクーターありきでアニメに展開してプロモーションするとか企画しそう。中国なら売れる台数が日本とは桁が違うだろうから、今後はそういうことも本気でやったりしてね。
文:小松信夫