文:山口銀次郎/写真:柴田直行
KTM「RC 390」インプレ(山口銀次郎)
徹底的な軽量化を推し進めてなお、軽快さ一本槍ではない懐の深さを見せる
外装やフレーム、足回りと大きく刷新した新型RC390は、レーシングユースをはじめとするスポーツライディング愛好家の期待に応え得るパフォーマンスパッケージでリリースされた。先代モデルも他の追随を許さないエポックかつストイックなまでの作り込みで強烈に個性的なモデルだったが、新型はその性能をさらにブラッシュアップした内容となっている。
新作のフレームは、リアセクションがメインフレームと分割できるタイプに変化したことが見てとれるが、跨って両膝で車体を挟み込むと見た目以上にシェイプされている様に感じる。驚異といえる細身の車体は、同クラスモデルと比較すると群を抜いた軽さがあり、むしろ250ccモデル以下の軽量コンパクトさといっても良いかもしれない。
車重やボリュームのある車体は用途次第ではデメリットにならない場合があるが、サーキットユースをも視野に入れた「READY TO RACE」コンセプトのRC390にとっては、運動性能最優先の軽量化は絶対正義であり、スポーツライディングの深淵に迫るための重要なファクターとなっている。ただ闇雲に軽量化を推し進めるのではなく、エンジンパフォーマンスに合わせバランスさせている絶妙さに凄みを感じてしまうところ。
足回りを含め、タフな走行シーンを想定し組み上げられたパッケージは、高い速度レンジでも不安を一切抱かせないハイレベルな仕上がりをみせていた。今時、たとえ高速走行であったとしても“不安がる”という車両もないのだが、それだけ軽量化による手応えが如実であったので、思わず時代錯誤な表現をしてしまった……。とはいえ、実際の軽量化された数値以上にハンドリングや車体を翻した際の軽快さが、到底ミドルクラスのものとは思えないほどだった。
ただ軽快なだけではなく、思い切ったコーナリングや加減速、さらに上り下り坂での姿勢変化があったとしても、きめの細かい反応力や豊富なストローク量で得られる路面追従性など、足回りがハイレベルな仕事をしてくれる。不安定になりがちなアクションや路面状況であっても、前後のショック(バネ上とも)上の重量の大半を占める車体(ライダーも含め)部分の落ち着きさは格別であり、またしっかりタイヤが路面を捉えているというのも伝わってくる鋭敏さも持ち合わせている。
走行するシチュエーションや乗り方に合わせ、ショックアブソーバーの特性(伸圧調整)をコントロールすることで、キャラクターそのものの変化も大いに楽しめることだろう。今回、サーキット走行と起伏の激しいワインディングを走行したが、カッチリしたテイストで攻め込むも良し、ゆったり優雅に流すこともできる器用さを体感することができた。軽快さ一本槍のレーシーな車両とは一線を画す、懐の深さに感心してしまった。
軽量&軽快な車体と守備範囲の広い足回りのバランスを活かすエンジンは、単気筒ならではの歯切れの良いパンチ力があるものの、エンジン低回転域から太いトルクが湧き上がり、高回転域まで淀みない吹け上がりをみせる。ビッグシングルにありがちなとっつきにくさは皆無で、エンジン回転全域どこからでも息つくことなくスロットル操作に即座に応えてくれる。しかも、エンジンの振動が回転数問わず実にマイルドで、定速走行でもストレスなく優雅な気分でいられることだろう。
文:山口銀次郎/写真:柴田直行
※より詳しい記事は、2022年9月24日発売予定の『ゴーグル』11月号に掲載します。
KTM「RC 390」主なスペック・価格
ホイールベース | 1343mm |
シート高 | 824mm |
車両重量 | 約155kg(燃料除く) |
エンジン形式 | 水冷4ストDOHC4バルブ単気筒 |
総排気量 | 373cc |
最高出力 | 44PS/9000rpm |
最大トルク | 37Nm/7000rpm |
変速機形式 | 6速リターン |
燃料タンク容量 | 約13.7L |
タイヤサイズ(前・後) | 110/70ZR17・150/60ZR17 |
ブレーキ形式(前・後) | ディスク・ディスク |
メーカー希望小売価格 | 83万円(消費税10%込) |