このモデルチェンジで追加されたバリエーションモデルがアドベンチャースポーツで、コーナリングヘッドライトや大容量タンクなどで、より長く過酷なツーリングに対応させたモデルという位置付け。さらに電子制御サスのEERAを標準装備したモデルがアドベンチャースポーツESだ。
2022年には、エンジンの排ガス規制対応、DCTの制御プログラムの見直し、ウインドスクリーン形状の変更といった改良を受け、さらにアドベンチャーツアラーとしての完成度が高められている。
文:濱矢文夫、アドベンチャーズ編集部/写真:柴田直行
ホンダ「CRF1100Lアフリカツイン アドベンチャースポーツ ES DCT」インプレ(濱矢文夫)
スポーツ走行にも向いている便利すぎるDCT!
1082ccの水冷パラツインエンジンは、特に低回転からパルス感をともなってグイグイと押し出していくのが気持ちいい。スロットルを開けていくと、よりレスポンスが良くなってトルクの谷もなくスムーズに高回転域まで吹けあがる。
好印象はエンジンだけにとどまらず、メインフレームは旧モデルよりレイアウトを踏襲するが、剛性バランスを変更して、前後方向の入力に対して強くした。モトクロッサーCRF450R譲りの新開発アルミスイングアームなどを採用し、速度を上げて走っている時の安定感があり、車体全体がシャキッとしっかりとした印象がある。
コーナーリング時の、強い減速からリーンして旋回、脱出にむけてスロットルを開けていく一連の動きが良く、ギャップなどがあってもサスペンションがしなやかに対応してくれる。純正タイヤにちゃんと合わせこんでワインディングが走りやすくなっている。
試乗したアドベンチャースポーツES/DCTは、目の前にするとスタンダードモデルの18Lから24Lと容量を増やした燃料タンクからなるボリュームに圧倒されるけれど、ローポジションで高さ810mmのシートにまたがると、身長170cmでも両足のしっかり力が入れられる拇指球あたりが届いて、怖気づいた気持ちがやわらいだ。
クラッチレバー操作がいらないDCTだから、右手親指で「D-S」と書かれたスイッチを押すとガチャっと音がしてギアが入る。あとはスロットルを開けるだけでスルスルと進む。
DCTの良いところは、どんなにゆっくり走ってもエンストしないところ。このシステムが誕生して以来、制御の巧みさがアップして、走行状況に合わせた判断の的確さは見事といえるレベルになった。
オートマチックから左手の+‐ボタンを使ったマニ ュアル操作にも切り替えられるけれど、個人的にはそうする必要を感じなかった。それはオートマチックモー ドであっても、+‐ボタンで能動的にシフトチェンジできるから困らない。ダウンしたギアからまたスロットルを開けると適正にシフトアップ。
この手軽な便利さはアフリカツインをより魅力的なものにしている。一般的なオートバイより人間がやる仕事が減り、ダートで重要な走行ライン選択やスライドのコントロールも集中できる。走る場所が舗装路に移ってもネガティブな要素がない。
長らくライダーをやってきたことで固まってしまった、スポーツ走行をするならマニュアル操作じゃなければいけない、という観念が溶け落ちてしまった。
車体バンク角や、車体減速度、全後輪のスリップ、ウイリーや急ブレーキ時のリアタイヤの浮き上がりなどを検知して、車体がどういう状態なのかを把握できるIMU(慣性センサー)を使って、コーナーリング時のブレーキや、ホンダセレクタブルトルクコントロールのスリップ抑制をしている。
路面が濡れている場合などグリップ状況が悪くなるほど介入してくるのが分かる。オフロード走行に慣れた人が、車体の動きを積極的に支配して走りたい時はトルクコントロールの介入を小さくするといいだろう。
ライディングモードが、ツアー/アーバン/グラベル/オフロードと自分の好みに各種設定ができるユーザーモード(2つ)あるので、これを切り替えるだけでエンジン特性は明らかに変化し、走りの状況に合わせたものになる。ABSの効きもそのライディングモードによって変わる。
「グラベル」と「オフロード」では何が異なるのだろうと思うモード分けだけれども、実際にダートで乗ってみると、「グラベル」がハイスピードなフラットなダート向けで、低回転域が穏やかになって急にテールが出ない設定。
「オフロード」は低回転でトルクのピックアップが良くなり、凸凹を乗り越えていくために前の荷重を抜いたりアクションがやりやすいから、より荒れ地向けということだろう。オフロードモードの時はリアのABSをオフにできるからオフロード好きにとってはありがたい。
フロントに21インチという大径タイヤを履いていることから、オフロード走行の性能についてクローズアップされることが多いけれど、それ以外でも完成度は高いのである。