文:山口銀次郎、アドベンチャーズ編集部/写真:柴田直行
ロイヤルエンフィールド「ヒマラヤ」インプレ(山口銀次郎)
勢いだけで突破するのではなく、確実に安全に走破するために!
アドベンチャーモデルというのは、それぞれのスタイルやターゲットとなるステージ等が大きく異なり「これぞアドベンチャー!」と言い切れる定義が存在しないのも魅力のひとつとなっている。そこで、独自の路線を突き進むアドベンチャーモデル、ロイヤルエンフィールドのヒマラヤに試乗し、そのポテンシャルに触れたいと思う。
ロイヤルエンフィールドのラインアップといえば、クラシカルなロードモデルの印象が強く、ヒマラヤもそんなイメージを引き継ぎデビューした。しかし、開発コンセプトは「ヒマラヤ山脈を駆け抜ける」といった、異国の者にとってはハード路線とも言えるコンセプトで、いささか構えてしまったのを覚えている。ただ、コンセプトだけを聞くと、「ハードなモデル」といった印象を受けてしまいがちだが、実にこの印象の真逆にあるキャラクターがヒマラヤと言って良いだろう。
乗った瞬間から伝わる、穏やかで大らかな性格は、乗り手を選ばない優しさに満ちている。ラフなスロットル操作もなんのその、粘り強いチカラはどんなエンジン回転域からでもフラットに発生し、エンジン回転数を把握すること自体ナンセンスといった雰囲気になる。実際には、他のモデルでは低回転域と表現するような3000~4000回転あたりが常用する回転域で、むしろ6500回転から始まるレッドゾーンまで使うことはなかった。6000回転以下で心地の良いチカラが発生して事足りる。
1速1速がワイドな速度レンジをカバーしているので、今回ヒマラヤ山脈に見立てた飛騨山脈南部を通る国道158号を走行する上で、せわしなく加減速がある峠道にも関わらず、ギアを固定して走行していることが多かった。これは、エンジン回転域が狭いものの、粘り強いチカラがあるからこその芸当と言っても良いだろう。
極端なほどにマイルドなエンジン特性は、高出力化されたモデルとは真逆のキャラクターで、物足りなさを感じさせがちだが、大らかな中にも懐の深さを感じることができる。というのも、不整地に踏み込むと高低差や路面状況、傾斜や障害物などといった、普段とは異なる思慮を巡らせなくてはならず、バイクの操作が緩慢になりがちだが、ヒマラヤの大らかで粘り強い特性は、少々の慌ただしい操作でも、確実かつ安全に前進させてくれる頼もしさに溢れているからだ。
車体もエンジン特性に合わせたソフトな設定で、100km/h以下の速度レンジに対応する割り切った仕様となる。フロント21インチホイールに合わせたショックストロークを持ち、優雅に流す走行にマッチする落ち着いた走行を提供する。とはいえ、ライダー1人乗車時の前後ショックの初期の沈み込み量が大きいので、サスペンションは発進時からコシのある領域を使用するので、無駄にフワフワと落ち着かない感じにならない。その点は、他のオフロードモデルと異なる、味付けと言って良いだろう。
無骨でいてどことなくクラシカルな雰囲気をまとうヒマラヤは、ある意味本格的な突破力を備えたアドベンチャーモデルと言えるかもしれない。