文:山口銀次郎、ゴーグル編集部/写真:柴田直行/モデル:葉月美優
モト・グッツィ「V85TTトラベル」インプレ(山口銀次郎)
アドベンチャーライダーなら嬉しいアイテムを標準装備
伝統の縦置きVツインエンジンというレイアウトを踏襲し、853cc化されたエンジンを搭載し2019年にデビューを果たしたV85TT。その後、V85TTを追う様にV7シリーズも853cc化された。一見、853ccの同型エンジン搭載の兄弟モデルではあるが、試乗するとそのフィーリングやエンジンテイストが別物であることが解るはずだ。
「大らかで余裕ある豊かなトルク感」というのは、V7シリーズの個性を語る上で最もポピュラーであり、的を射ている表現であることは確かだ。だがしかし、V85TTに試乗すると更に上乗せされた「大らかで余裕ある豊かなトルク感」という感想に至るだろう。モト・グッツィのアッパーミドルモデルに搭載されている同排気量エンジンで、こうも個性が突出するものなのか? と正直に思ってしまった。
具体的にどういった印象の変化があったかというと、V85TTの試乗後にV7シリーズに触れると、軽やかに回る高回転型のスポーティなエンジンテイストに思えてしまう。もちろん、V85TTと比べての話だが、あれだけ大らかさを前面に押し出している設定にも関わらずに。
そういった印象を生む要因に、V85TTの持つワイルドな性格があるのかもしれない。V85TTデビューに際し新エンジンを用意するというのは、アッパーミドルクラスに於いてアドベンチャーモデルとしての確固たるポジションを築くという意気込みがあり、「アドベンチャー風」ではないモト・グッツィならではの、モト・グッツィが目指す「本格」に仕上げられたのだ。
単にオフロードモデルではない、アッパーミドルクラスならではのパワフルかつ包容力のあるエンジン、更に長距離走行や未舗装路での快適性も考慮した車体造り、他のアドベンチャーモデル同様の懐の深さを有している。
当然、ここぞという時のために鋭いパンチ力や突破力を備え、なかなか空冷縦型Vツインといったエンジン形態から想像できないパフォーマンスといえる。オフロード専用モデルと比べると巨体と言わざる得ない車格で、不整地を走破するには確かなパワーとセンシティブな操作にも対応する扱いやすさが必要とされるが、V85TTはその両面を待ち合わせる器用さがあるのだ。鋭いパンチ力が冴える最高出力を発揮するまでのエンジン回転数は7000~8000回転と低めの設定で、常用するエンジン回転数3000~5000回転とレンジが狭いのも特徴的だ。
不整地でのパフォーマンスに特化した様なエンジンキャラクターにも思えるが、その根底にある特性は「大らかで余裕ある豊かなトルク感」であり、むしろ排気量を活かし拡充させている観がある。高出力を発揮する領域ではパンチ力があるものの、エンジン回転数の低回転域から常用域では回転数の幅が狭いのだが、これでもかときめ細かい操作に反応する太く豊かなトルクが発生するのだ。
タイヤがブレイクすることのない舗装路では、太く豊かなトルクを生む低回転域のみでクルージングすることが可能なのだ。しかも、縦型Vツインエンジンが生む爆発の一発一発が、独特の鼓動感を演出し、タイヤが路面を蹴り上げる一連の過程は、電動モーターにはない躍動感溢れるドラマティックな側面も持ち合わせている。
そんなエンジン特性に合わせた車体は、足回りでショックストロークを多く確保しつつ、初期動作は極めてソフトであり、ストローク量が増えると力強く支え踏ん張るといった柔軟性に富んでいる。こだわりのエンジンを最大限に活かす車体パッケージは、結果として上質なラグジュアリーマシンの様な乗り心地を生んでいる様に思える。
さて、V85TTのバリエーションモデルとなるV85TTトラベルは、ベースデザインにフィットしアドベンチャーモデルの使い勝手を追求しチョイスされたアイテムを標準装備している。アドベンチャーライダーにとってはいずれ装備していくであろうアイテムが、最初から装備されているのは素人目にもお買い得の様に思てしまう。
誇らしげにメーカーロゴがあしらわれたサイドパニアケースは、容量も十分でありつつ無駄な張り出しを抑えたジャストサイズといえる。大型スクリーンは言わずと知れたハイウェイでの快適性を向上させるアイテムで、前面投影面積を考慮するフォルムでありつつ、より広範囲で上体を走行風からブロックする優れものとなっている。その他、旅をより快適にするアイテムを装備している。
アドベンチャーモデルを探している方に、モト・グッツィの伝統様式を活かしたテイスティな乗り心地と、機能性に富んだアイテムを標準装備するバリエーションモデル「V85TTトラベル」を選択肢に加えていただきたいと思う。