文:小松信夫
海外で「農作業用」モデルとして現在も活躍する、かつてのデュアルパーパス
国内メーカーの海外で販売している車種を見ていると、日本と大きく違う点の一つに「農作業用」モデルってのがありますね。この連載でも何度か紹介してきましたが、大抵はでっかい牧場とかプランテーションとかで走り回るためにオフロード車ベースなんですけど。
モトクロッサーみたいに飛んだり跳ねたりする必要はなく、いつでも誰でも乗れるようにタフで扱いやすく、壊れても修理がしやすいシンプルな構造、さらに低価格も求められるんで、必然的に昔から造り続けてるモデルが多い。止まってもその場でエンジン開けて直せる空冷2ストがまだ生き残ってるくらいだから。
さすがに空冷2ストは消えつつあるけど、超ロングセラーで今だに現役、おそらく今後もしばらく造り続けられるだろう「農業用」モデルとして挙げられるのがスズキの「DR200SE」でしょうかね。
アフリカ諸国とか中南米なんかで売られてます。仕向け地によっては「トロージャン200」とかいう名前だったり。写真のモデルはアフリカ中央部のコンゴ民主共和国で販売されてるもの。とはいっても、他の国でも全く同じみたい。
大っきなリアキャリアとかパイプガード付きヘッドライトとかは置いといて、タンクやシート、前後フェンダーのデザインなんかは、もうなんというか80年代オフロード車の香りがプンプンしますね。どっかでみたことのあるような空冷エンジンとか。というか、昔日本で売ってたよねコレ?
えーと、「DR200SE」のルーツを辿るとコイツに行き着きます。1985年にデビューした「SX200R」。エンジンとかフレーム、ほぼ同じでしょ? 当時はバイクブームでオフ車も速いのが受けたんで、扱いやすさを重視した地味なモデルとして陽の当たらない感じだったそうで。でもタンクが大きくて燃費良くて扱いやすかったから、ツーリングライダーには支持されたと。
そんな「SX200R」をベースに、ツーリング適性を伸ばしたジェベルシリーズの一員として生まれ変わりまして、1993年に「ジェベル200」になり……。
1997年には、大型リアキャリア、フロントキャリア一体のヘッドライトガード、前後のマットガードを追加し、迷彩カラーを採用してヘビーデューティさをプラスした「DF200E」になりましたっけ。というか、これはボディカラー以外はほぼ現在の「DR200SE」そのまんま。
海外向けにDRが開発されたから、これに統一しちゃえ、ということなんだろうけど。ただし国内向けの「DF200E」は2002〜2003年頃? にカタログ落ちしちゃったんですけどね。
ほーら、これが「DR200SE」のキャリア機能も備えたヘッドライトガードだけど、上の「DF200E」のと全く同じでしょ?
エンジンも「SX200R」からほぼ変わってないキャブ仕様の空冷の2バルブシングル。そもそものベースは1982年の「DR125S」だっていうから40年物ということで、もう枯れきってて信頼性は抜群。「ジェベル200」以降はクランクケースの前面にセルモーターがついてるけど、「DR200SE」ではキックペダルもそのまま残されてるのが過酷な用途を物語ってるね。
この大きくて泥はねを抑える効果の高そうなマットガードも「DF200E」と全く同じなのね。セルモーター付近を保護するパイプガードもそうだ。
「DR200SE」のエンジンは確か「バンバン200」でFI化されてたし、排ガス規制が厳しくなっても新たにFI化すれば乗り切れそう? 「農業用」モデルまでが電動化されるその日まで、「DR200SE」は延々と作り続けられたりするんだろうか。
文:小松信夫