文:小松信夫
欧州でのハイホイールスクーターの立ち位置は少し変わりつつある?
今回紹介するのは、ヤマハがヨーロッパで売ってる125ccハイホイールスクーター「センター125」なんですけどね。これも日本の一般的なライダーの視界には入ってこないモデルでしょう。
まあ、そもそもがハイホイールスクーターへの注目度が日本は低いんですが。しかしね、なら「センター125」が、ヨーロッパでは大人気なのか? というと非常に疑問が残る。だって、ヨーロッパ周辺でヤマハの公式ホームページが存在している国で(40くらいはあるのかな)、この「センター125」を販売しているのは僅かに3カ国だけなのです。
えーとね、それはアイルランドと、チェコ共和国と、スロバキア共和国なんですけど。中央ヨーロッパのチェコとスロバキアは隣接してて、もとは連邦国家として1つの国だったから嗜好が近いのは分かるけど、同じヨーロッパとはいえアイルランドは海の向こうのイギリスの隣。地理的にも文化的にも直接の関わりはあんまりなさそう。「センター125」を渇望する理由となる共通点がなにかあるのか? 正直よくわかりませんねぇ。そもそもちょっと昔は、もっといろんな国でこの手のハイホイールモデルを売ってたような気もするんだけど。
現行モデルの「センター125」は、2019年モデルってことになってるようで。安定性の高そうな前後16インチ径のキャストホイールで、スタイリングは日本サイドの影響をあまり感じないちょっと異色なデザイン。スポーティさとかからは解脱した、基本的には実用一点張りな雰囲気。
メカニズムもモダンで、エンジンはブルーコアじゃあないみたいだけど、水冷単気筒で4バルブヘッド。リアサスはモノクロスサスを採用してるし、ブレーキだって前後連動だ。
装備だって、メーターはフル液晶で見やすくて機能的でスタイリッシュ。コンビニフックとか、小物入れとか、日常のコミュータ的用途で便利なものをしっかり装備しております。
シート下収納スペースもあるんだけど…大径ホイールを採用してるために大きなスペースが取れなくて、さすがにヘルメットが収まるほどの容量はないね。
ハイホイールモデルのお約束、便利で乗り降りも楽なフラットフロアも採用、シートは大きくてタンデムだってOKな余裕のあるサイズ、しっかりした造りで快適性も十分そう。収納力不足を補うためのトップケース装着にだって対応してるんだよね。全体にとっても良く出来てます、多分。
ああそれなのに「センター125」は、今やごく限られた国でしか販売されていないのです。最近はアップデートもされてない。それはなぜなんだ? どういうことなんだ一体。
無い知恵を絞っていろいろ考えましたが、これかなぁと思えるのは「トリシティ」の存在ですね。詰まる所、ハイホイールスクーターの最大のメリットは、大径ホイールのもたらす高い安定性なワケですよ。「石畳などが残るヨーロッパの道にはこれが最適」なんて、よく言われてましたもんねぇ。でも、「トリシティ」はフロント2輪+LMW機構で、ハイホイールどころじゃない万全の安定感と、2輪的な走りを両立させちゃった。ヤマハ的には、「センター125」とかのハイホイールのお客さんは、これからはこっち買ってくださいな、ってことなんじゃないか? と。それが証拠に、ほとんどの国でトリシティは売ってる。
というかね、他のメーカーも含めて、ヨーロッパでハイホイールスクーターの占めて来たポジションというのが、以前とは少し変わって来た気もする。昔はもう50ccからオーバー250ccまで、国内外のメーカーからこれでもか、ってくらい揃えてたような気がしませんか。
これ、普通のスクーターのホイールサイズが、ハイホイールモデルほどじゃないけど大径化されて安定感が高まった、というのも大きいんだろうね。昔はスクーターっていえば10インチが主流で、12インチだとおっきいなと思ったもんで。だからこそ、15インチとか16インチのハイホイールモデルに存在価値があった。でも最近は13インチが当たり前になっちゃってません? 今やホンダのPCXなんかフロント14インチだもの。ハイホイールモデルが消える、っていうか普通のスクーターとの境界が曖昧になってるってことなんでしょうか。よう知らんけど。
文:小松信夫