以下、文:太田安治
「東リベ」で活躍する“バブ”、発売時には苦戦を強いられていた
ホークの発売当時の印象と周りの評判
映画やテレビドラマに登場したオートバイがにわかに注目を浴びて伝説化する、なんていうのは昔からある現象。『ローマの休日』のベスパ、『大脱走』のトライアンフTR6、『西部警察』のカタナ1100、『トップガン』のニンジャ900、『ビューティフルライフ』のTW200……と、挙げ始めたらキリがない。そして昨今話題になっているのがホンダのホークCB250T。『東京卍リベンジャーズ』という漫画・アニメの影響だという。
ホークの市販開始は46年前の1977年。子供達はブラウン管テレビの中で歌って踊る沢田研二やピンク・レディーに熱狂し、お父ちゃんはスナックで歌詞本をめくりながら8トラックテープのカラオケで憂さを晴らし、学生はアップルIIの登場で「これからパソコンとかいう電子計算機が世の中を変えるらしい」とワクワクしていた時代だ。
その頃オートバイ編集部で車両運びや撮影手伝いのアルバイトをしていた僕は、ホークにも何度か乗っている。でも正直なところ、これといった印象は……ない。
当時は免許制度の関係から400ccモデルが圧倒的な人気で、250ccモデルは400cc車をベースにエンジンのボア×ストロークを縮めて排気量を減らす、という造り方が主流。現代の250ccロードスポーツモデルとは生い立ちが異なり、400ccモデルの「弟分」とか「お下がり」なんて言われていた。
ということで、「ホークII」のペットネームで登場したCB400Tに続いて登場した弟分が「ホーク」ことCB250T。初期型はホークIIが「コムスター」と名付けられたホンダ独自のホイールを履いていたのに対し、ホークは1インチ小さいスポークホイールだったから、さらにお下がり感が強かった。
初代のホークシリーズは丸みを帯びた車体デザインが不評で、「やかんタンクに大根マフラー、殿様乗りハンドルに座布団シート……。ホーク(鷹)じゃなくてポーク(豚)だろ!」と、さんざんな言われよう。あえてCB400Fourのカフェレーサースタイルとは異なるイメージを打ち出したメーカー側も、市場の反応に「やっちまった!」と思ったんだろうね。わずか10カ月後にマイナーチェンジを行ってタンク形状をガラッと変え、ホイールもコムスタータイプに替わった。
ホークIIの走行性能は4気筒エンジンのCB400Fourを大きく越えていて、実に乗りやすくて意外なほど速かったけれど、250ccのホークは26PS/10000回転で、車重180kg(この頃はガソリンやオイルを抜いた乾燥重量表記)。お世辞にもスポーティとは言えない運動性能。現代のレブル250が26PS/9500回転で車重171kgだから推して知るべし。「速さ」が求められた時代だけに、ハッキリ言って売れなかったね。
ホークが一部で「バブ」と呼ばれる理由
「東リベ」の作中でホークが「バブ」と呼ばれているのは、その吸排気音が特徴的だったからなんだろう。ちょっと難しくなるけど、並列2気筒エンジンの場合、クランクシャフトの位相角は180度、270度、360度の3パターン。現在の並列2気筒エンジンを見ると、250ccは高回転まで軽やかに回る180度クランク、650cc以上では鼓動感とトラクションを得やすい270度クランクという不等間隔燃焼の位相角が主流。ホークが採用している360度クランクは、等間隔燃焼により低回転から安定したトルクを出せるのがメリット。
ただし2個のピストンが同時に上下する(単気筒エンジンを2個並べたイメージ)ので振動が大きく、これを打ち消すためにはエンジン内にバランサーと呼ばれる「重り」が必要。高回転/高出力化には不利だけど、市街地で扱いやすい特性なので現行車ではヤマハTMAX、カワサキW800、ベネリTNT249Sなどが採用している。
で、360度クランクは等間隔燃焼だから排気音が揃う。スロットルを開けると「バ~ッ!」と弾ける音、閉じると「ブ~」とこもった音になり、スロットルを開閉すると「バァ~ブゥ~」って感じに聞こえるというわけ。
しかも当時は騒音規制がユルユルで、ノーマル状態でも吸気・排気とも音量が大きかったし、東リベに登場するような仕様なら、さぞかし「バァ~ブゥ~」サウンドが際立ったことだろうね。ホーク/ホークIIの発売当時は誰も「バブ」なんて呼んでいなかったはずだけど、今聞くと妙に納得できちゃいます。
文:太田安治