文:山口銀次郎/写真:井上 演
ホンダ「XL750トランザルプ」インプレ(山口銀次郎)
ハイテクを搭載し現代に甦るアドベンチャーモデル
1987年にデビューを果たした初代トランザルプは、ホンダの代表的デュアルパーパスモデルであるXLシリーズをベースに、パリ・ダカールラリー参戦で得られたノウハウを投入し仕上げられた新機軸のアドベンチャーモデルだった。そんな、初代トランザルプをイメージさせるカラーリングをまとった新XL750トランザルプは、当時と変わらぬアドベンチャーモデルとしてのコンセプトを引き継ぎ、現代技術とテクノロジーをふんだんに取り入れ、税込126万5000円にて5月25日に販売を予定している。
装飾を抑え駄肉感がなく、シンプルながらも流れるボディラインを形成するフォルムは、軽快感と機能美を前面に押し出したアスリート気質さを感じさせる。また、NC750Xや400Xにならったシェイプされたフェイスデザインは、洗練された次世代の走りを予感させるものとなっている。
アフリカツイン譲りの長いスイングアームや、ストローク量を200m確保したフロントフォークにフロント21インチ、リア18インチのホイールが組み込まれ、足の長さを強調するオフロードモデル寄りの佇まいが印象的だ。
オフローモデルを連想させるスタイリングとシート高850mmとしながらも、絞り込まれたシート形状のお陰で、身長177cmでは足着き性はかなり良好だった。210mmもの最低地上高を確保することで、自ずと重量物であるエンジンの存在感は高位置となるのだが、取り回しやハンドリングに影響を及ぼさない車体構成となっている。これは、排気量754ccを誇るエンジンユニットの存在感は確かに大きいが、ストイックなまでのマスの集中化と骨格の妙により、外乱を収束させる足回り等の衝撃吸収性能を最大限に発揮することが可能となっている。
舗装路を少し流しただけで、ツアラーとしてのラグジュアリーさを追求したモデルと対極といえる、オフロードモデルとしての個性が前面に押し出されているのがわかる。単に「オフロードモデル」といっても、不整地をいかに早く駆け抜けるかを競うモトクロッサーの様な性質とは異なる、目眩く変化する路面状況や環境&状態に対応し、柔軟かつ確実に前進させる突破力と高い快適性を併せ持つ、お手本の様なアドベンチャーモデルとなっている。
2軸バランサーの配置を最適化する等して、不快な振動や偶力をスポイルする工夫が施されたエンジンだが、程良くコロコロといかにも2気筒であることを主張するパルス感は確かに存在する。無論、不快かつ手の痺れを誘発する様なものではなく、タイヤが路面を掻き蹴るイメージを盛り上げてくれるレベルである。しかも、ある回転数でその振動が増幅したり消滅したりすることなく、エンジン回転全域において、あたかもその時々のエンジン回転数を伝える役割を果たす様に、コロコロとそのパルス感はフラットに存在し続けるのだ。とても心憎い演出は、フィーリングを重要視するライダーにとっては嬉しいことだろう。
低回転域から太いトルクはとにかく優雅に発生し、エンジンを回さなくても十二分なチカラが得られ、淡々とシフトアップを繰り返せば、高速道路であろうが法定内最高速度までノせることが可能だ。しかもトルクフルとはいえダルな雰囲気は皆無で、スロットル操作に淀みなく呼応し、スポーツモデルさながらの過激ともいえる瞬発力を発揮する。
オフロードモデル然とした足回りのセットにより、当然のことながら舗装路では大らかなハンドリング特性となる。エンジン回転全域に於いてトルクフルなパワー特性を利用し、メリハリあるスロットル操作をすれば、リズミカルにワインディングを楽しむことが出来るだろう。ただし、舗装路を攻め込む様なパッケージではないので、無理無茶は禁物だ。
前後ショックともに大幅なストローク量を確保し、車体姿勢の変化を伴う衝撃吸収力を秘めるものの、初期動作はきめ細やかな働きをみせ、小さなバンプや舗装の繋ぎ目などによる小規模かつ連続的に発生する衝撃を何事もなかった様に吸収&収束させてしまう。こういった極小さいな衝撃は長時間連速的に続くことで地味にストレスとなるが、ある意味懐が深いサスペンションが実に良い仕事してくれるので、長距離巡行もお手のものとなっている。
林道などの未舗装路では、安心かつ快適な走破力を発揮する。転がる石の大小や枯れ木等々予期せぬ路面状況の中、見事なまでに電子制御が介入し、適正化されたパワデリバリーや制動性によって生まれる安定感と安心感は格別である。勢いで駆け抜けてしまう瞬発力も秘めていることだろうが、一歩一歩しっかり踏み進められる器用さは、大いに甘えるべき武器であると実感した。
ダイナミックな操作に応える足回りは、ラフロードを想定したといえる運動性能を備え、安定感がありつつも軽快さすら感じる走破性を演出することできていた。また、倒立タイプのフロントフォークを採用していることが嘘の様なハンドル切れ角を確保し、車格に見合わないタイトなターンを可能にする。さらに、深いハンドル切れ角のお陰でスリップさせながらのタイトターンのアプローチもしやすく、一連の動作の軽快さは車格を感じさせないものとなっている。
最後に、4つのデフォルトのライディングモードに加え、任意で調節設定可能な「USER」モードが用意されており、シチュエーションや好みにアジャストできるのもトランザルプを楽しみ尽くすためには重要なファクターといえるだろう。実際に、限りある走行時間だったが、「USER」設定が簡単なので、モード設定も含め不整地走行をより深く楽しむことが出来た。