※本企画はHeritage&Legends 2022年2月号に掲載された記事を再編集したものです。
取材協力:スズキ/アサカワスピード
基本中の基本の洗車は、本当は寒い季節こそ大切
整備の基本中の基本と言えるのが“洗車”だ。季節を問わず大切なのはもちろんだけど、特に注意してほしいのが実は冬だ。おそらく沖縄を除けば、冬は日本中の道に融雪剤(凍結防止剤)が撒かれる季節。この融雪剤の主成分は、塩化カルシウム。略して“塩カル”は、腐食の原因になり、付着して乾けば、アルミは粉を吹いてしまうからやっかいだ。もちろん鉄や樹脂にも付着すれば、腐食や劣化につながる。まだ冬までは間があるけれど、頭の隅に置いておいてほしい。
凍結防止剤への対処は簡単で、できるだけ早く水で洗い流せばいいだけ。冬だって走る! というライダーなら、できることなら走行毎に洗車したい。走行毎にとは、たとえば土曜日にツーリングしたなら、日曜日に洗車する。1週間そのままだと、アルミパーツがむき出し(防錆処理もされていない)のエンジンなどは、それこそ白い粉が吹く。
その洗車の方法だけど、水は上からではなく、下回りを中心にかける。これは他の季節でも同様。泥はねは下からと前から来るものなので、その通りに下からと裏(フェンダー、リヤサスまわりなど)から水をかけてやる。フェンダーやカウルなど、外せるパーツは全部外した方が話が早いだろう。
水は下回り中心というのは、防水性を気にしてのこと。特に古いモデルは相当気を付けたい。最近のモデルは、露出するような箇所や、ここは危ないなと思われる部分の配線用コネクター(カプラー)は防水だけど、昔のモデルは通常タイプ。当然ジャブジャブ水をかければ、接点部まで水が浸入して電気のリーク(濡れている時)や、腐食による接触不良(乾いてから起きる)を起こしやすい。
でも、フューエルタンクやアッパーカウルが汚れたら、どうするのかというと軽く水をかけてから濡れたウエスで拭き掃除してやればいい。濡らしていないと、ゴミ、ホコリとウエスの摩擦でで紙ヤスリ状態になってしまうから。
水は上側なら優しくかけてやって、下側はブレーキキャリパーなど、場所によってはジャブジャブかけてやる。
乾燥は、ただ置いておいてというような自然乾燥ではダメだ。エアブローで水滴を飛ばしたりしてから乾燥させたいけど、エアブローの道具がなくても大丈夫。よく拭き取ること。最近は吸水性に優れたマイクロファイバーでできたクロスもあって、拭き掃除は意外に楽にできてしまう。
後は、エンジン暖機と実走で、熱と振動で乾かす。実走は30分、できれば1時間ぐらいかけたい。狭くて拭けない、手の届かないようなところは、エンジンの熱と走行の振動で乾かして汚れを落とすのだが、意外と時間がかかるもの。暖機だけでは、そこそこだ。ワックスはごく薄くでいいから洗車毎にかけておくといい。
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WASHING & CHECK/洗車・拭き掃除は現状を知るための第一歩
下回りもきれいにすれば異常や劣化が掴みやすくなる
希釈した洗剤をブラシに付け、タイヤのトレッドとサイドウォールを洗う。ホイールはスポンジで洗う。エアバルブやスポークの溝は汚れが溜まりやすい。
リヤはドライブチェーンからの油汚れがこびり付いているので、洗剤を原液で使う。さらに酷ければパーツクリーナーで(中には塗装を痛める物もあるので注意)。
チェーンケースとフロントフェンダーは外して表裏を、シートカウル裏も必ず洗う。
最後に念入りに水洗い。キャリパーもついでに丸洗いしてブレーキダストを落とす。
洗剤→水洗い→拭く、吹くで乾かす
乾いた布で水分を拭き取っていく。コットンなど吸水性が良くて毛羽立たない素材を選ぶ。化繊の中には吸水性の極端に悪い物がある。
乾燥は、暖機の後、30分~1時間ぐらい実走して熱と振動で乾かす。フューエルタンク、カウル、ホイール(ごく薄くでいい)にはワックスをかけておくといいだろう。
家庭用洗剤や道具はけっこう使える
ブラシ類やスポンジは100均で調達できる。本来は食器洗い用の丸いブラシはタイヤ専用に使える。グリップ部に洗剤を入れて、それを出しながら洗えるので使い勝手もよい。歯ブラシも必需品(もちろん新品でなくても可)。小型の金属磨き用パッドはエキパイにこびり付いた汚れ落としに使える。
ワックスと金属磨き剤は必需品。洗剤は台所用(中性)がメインで、台所用より強力な一般掃除用も併用する。
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POSITION ADJUST/ポジション調整は一番身近な整備項目だ
自然な操作ができるハンドル角度とレバー位置に調整
ブレーキレバーとクラッチレバーの“角度”調整は、実は重要だ。下向き過ぎると、操作する時に肩が力んで肘が上がり、結局ハンドルとレバーを握る手に力が入り過ぎてしまい、ハンドルで身体を支えるのに精一杯になって肝腎のレバーコントロールがおろそかになってしまう。特に手の小さい人は、下向き過ぎていると力が入れづらい。適正角度はだいたい路面と水平(ネイキッドなど)か、水平よりやや下向き(前傾ポジションのスーパースポーツなど)。メーカー出荷の状態は下向き過ぎている場合が多いのだ。バーハンドルの場合は、まずハンドルの角度調整から(ハンドルポストのピンチボルトを緩めて調整する)。レバー調整は、レバーホルダーの取り付けボルトを緩めて行う。マスターシリンダーのリザーバータンクのカップ面が路面と水平が設計値だが、多少傾いても構わない。
ペダルも高さ調整できる。リンクは90度が基本だ
チェンジペダルもブレーキペダルも高さ調整ができる。リンク付きチェンジペダルは、ロッド両端のロックナットを緩めてリンクロッドのアジャスターを回せばペダルの高さが変わる。履くブーツの厚み次第で調整する。リンクは各箇所が90度の時に最もフリクションが小さく、かつどちらに動いても同じ作動性になるので、90度からあまり外れないようにしたい。ブレーキペダルはマスターシリンダーのプッシュロッドにアジャスターが付いているタイプがある。調整後、必ずブレーキランプの点灯タイミングや、ブレーキの引きずりがないかを確認しよう。
遊びの量が操作性に関わるワイヤの調整は必須項目
ワイヤの遊び調整は、操作性や操作性に大きき関わる需要な作業だ(スロットルがフライ・バイ・ワイヤの場合は調整不要だ)。スロットルワイヤでは、引く・開ける側(OPEN・PULL)の調整が重要。遊びはハンドルがセンター時に数㎜あればいい。左右フルロックでも遊びがあるように。手元のアジャスターを回して、ロックナットで固定する。戻し側(CLOSE・PUSH)は、遊び多めで、割とダルダルでいい。張り過ぎるとスロットルが重くなってしまう。戻し側にアジャスターのないタイプもある。クラッチ側は切れるポイントではなく、ミートポイントを重視しよう。
スタンドフックは便利、フォークはピッチを出す!
「自然なフォークピッチ」とは、フロントフォークのボトムエンドがアクスルシャフト上を少しスライドして、一番自然に抵抗なくストロークする位置にすることだ。どうやるか? というと、ボトムエンドのアクスルホルダー・ピンチボルト(2本か1本。だいたい右側)を緩めて、車体を垂直にして数回フォークをストロークさせ、そのまま垂直状態を維持したままピンチボルトを締め付けるだけ。僅か数㎜だけど、これが肝腎。スイングアームスタンドを使うと垂直を保てるので作業が簡単。スタンドフックを取り付けられる機種は便利だからぜひ付けておこう。スイングアームに取り付けボスがある。
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ENGINE OIL/主な消耗品は適切なタイミングを知って交換だ
乗ってなくても時が経っていればエンジンオイルは交換
使用済みオイル=廃油を受けるパンを置くところには、新聞紙(数枚重ねる)などを敷いて、車体両サイドにもメンテナンスマットなどを敷くといい。こうしておくと、膝を突いたり、寝転んだりしての作業がしやすい。
ドレンボルトを緩める時は、メガネ/ソケットレンチ(ハンドルは固定式がいい)で行う。
ドレンボルトを取り外す時は、熱いけれど、指でつまんで落とさないように外す。
オイルフィルターレンチでオイルフィルターを回し、少し緩んできたら手で回して外す。プラスチックや段ボールを軽く曲げたとい(樋)を作っておくと、オイルパンに廃油を導きやすくなる。
廃油は、金属粉、劣化(粘度が極端に落ちていないか、濁りはないか)をよくチェックしておこう。
ドレンボルトは再使用してもよいが、傷み次第で新品に換えよう。
シーリングワッシャーはオイル交換ごとに交換しよう。左はSTDで、右はアルミ平ワッシャー(使用可)だ。
オイルフィルターに交換日と距離を記入する。
フィルター取り付けは最初は手、最後はレンチで締め付ける。
廃油パンをそのままにしておいて、エンジンやエキパイなどに付着したオイルを、パーツクリーナーで清掃する。
下回りをよく点検しておく。オイル漏れ、排気漏れ、タールなどの妙な汚れは原因を特定しておくことが大切だ。
下回りの点検ではライトを使い、必要なら手で触ってみる。膝を突いたり、寝転んで行うのだが、そのために最初に敷いておいたマットが役立つのだ。
フィラーからオイルを注入。オイルフィルター交換時の容量を確認してこう。今回使ったオイルはEPL製PLO-203(10W-40)+オイル添加剤PL-500(3%)だ。
暖機し、エンジン停止後2~3分で点検窓でチェック。FULL以下に。
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タイヤは生き物。保管も稼働もひと工夫しよう
ブレーキダスト、融雪剤に雨、いろんなゴミやホコリはタイヤを劣化させる。特に冬などはタイヤに優しくはない季節。さらに劣化という視点で言うと、同じ期間使ったとしても、ひと冬越したタイヤと、そうでないタイヤでは、全然違ってくる。言うまでもなく、ひと冬超えたものの方が劣化(弾力性が落ちる)している。やっぱり寒さ=低温はコンパウンドを固くしてしまことを覚えておこう。
タイヤの主成分と言えるゴム、その硬化・劣化は、紫外線やオゾンなどにも起因する。だから保管中の車体には直射日光が当たらないようにしたい。
それに物は使わないよりも適度に使った方が劣化しない。タイヤも同じで、寒い冬でもちゃんと温めて、ゴムを動かしてやった方が、ひと冬越えてもコンパウンドの弾力性を保っておける。
そして、街乗りの宿命なのだが、リヤタイヤの角減りがある。フロントの段減りも含めて、その原因には、空気圧の不足や、無理な急加速・急減速もある。
だから適正な空気圧を保つのは当たり前。空気圧チェックは毎日または走行毎。要するに、出かけるときは必ずチェックする。昨日やったばかりだから、というのではダメなのだ。その間、何かが起こっているかもしれないから、乗り出そうとする今、チェックする必要があるのだ。
タイヤは生き物。上手く使えば、良い状態で長く使える。
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TIRE/タイヤに溜まるダメージは突然表面化する
出かける前に必ず見ておきたい空気圧
エアゲージに「+0.1」(黄色いテープ部)とあるのは、マスターゲージで公差を計測し、0.1kg/cm2足して入れるのが正しいという意味。マスターゲージとは大型圧力計でプルドン管式。通常使うタイプはバネ式がほとんどだ。
エア充填後はバルブに指を当てて漏れを確認する。また、ムシ回しでバルブのムシを締めておく。ムシのゴムも劣化していないか確認しよう。
左は携帯用ながら正確なミシュラン純正指定WILDER製VIGIL。右はエアコンプレッサーにつなげてエア充填・調整が可能な中型ゲージ。ショップで使うタイプだ。
左は小型ながら精度が高い旭産業製ダイヤルタイプエアゲージだ。
押して弾力確認、表面もきれいにしよう
フロントはサーキットで使わない限りトレッドの端まで使い切れない(ブレーキングとコーナリングでつぶし切れない)。対してリヤはガンバレばエッジが接地する。
トレッドの異物に注意。特に鉄片、釘、ネジなどは貫通していればパンクだ。
トレッドの弾力性を調べるにはツメを立てて感触を確認しよう。走行ごとに確認していると1~2年で限界で固くなってくるのがわかるはずだ。
タイヤ整備にはガーデニング用のゴム手袋が便利。これをはめてトレッドを擦ると摩擦でキレイになって黒々としてくる。
左がガーデニング用ゴム手袋で擦る前で白っぽい所もある。右が擦った後で、ゴミが取れ、未接地の部分のツルツル感も減る。
タイヤに紫外線は大敵。屋内保管であっても布などで車体全体を覆うのがいい。車体にほこりもつかないからなおよしだ。