※本企画はHeritage&Legends 2022年2月号に掲載された記事を再編集したものです。
取材協力:スズキ/アサカワスピード
ステアリングヘッドもチェーンもしつこく整備しよう
この後半ではちょっとだけ難しいメンテナンスに入っていく。今回特に注目したいのは、ステアリングヘッドとドライブチェーン。いずれもそのメンテナンスポイントは後述するけれど、いずれも整備してやるほどに愛車の“快走感”は増して感じられるだろう。いずれのメンテナンスもやり過ぎはない。納得いくまで手を入れたい部分なのだ。
まずはステアリングまわりとステアリングヘッドベアリング。どちらもハンドリングを左右する、それこそ要になる部分だ。ステムナット(スロッテッドナット)の締め付け具合で調整するのだが、その加減は、数値(回転数など)ではなくて、あくまで手による感覚に頼ることになる。本当に手で締めて、少し戻す程度。ガタが出ない範囲で、できるだけ緩くなのだ。
新車の出荷状態でも中には締め過ぎで、ステアリングの動きが渋く(重く)なってしまっているものがある。だから新車時から、ここは調整しておきたい箇所なのだ。渋いまま使い続けるとアウターレースがキズ付き、ベアリング自体もガタが出てきてしまう。経験が必要な箇所なので、プロにお願いしてもいいぐらいのパートだ。
一方のドライブチェーンの遊び調整と清掃・潤滑は、実は奥深く、しつこさが問われる整備だ。遊び調整は、アクスル位置を変えるので、アライメント調整の側面もある。アジャスターの目盛りに合わせれば……と言っても左右の目盛りが合っているとは限らず(製造公差がある)、スイングアームなんて左右で数mmは違っているもの。
前後タイヤの正立出し、アジャスターのガタ取り(Tレンチの柄をドリブンスプロケットに挟んでチェーンにテンションをかける)など、ここは実はやっかいな作業だ。最初はガタ取りして目盛り合わせができればそれでいい。
清掃の方は、しつこく拭くだけ。チェーンが汚いんじゃなくて、汚く使っているだけ。レーシングマシンのチェーンはキレイでしょ。
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BEARING & SUSPENSION/ベアリングのガタはないか、サスはスムーズか?
自然にステアリングが切れて、スムーズに前後サスが作動すること。当たり前のようで、実はそうでもないのが現実。古くても新車でも“起こる”こと。点検・グリスアップは欠かせない。
まずリヤをスイングアームスタンドで上げてから、前をフロントスタンド(写真の赤いもの)でアップさせる。次にメンテナンススタンド(鉄の棒を左右のスタンドで支えるタイプ)をステアリングの動きに干渉しない位置(ステアリングヘッドパイプ後ろなど)にかける。フロントフォーク単体のガタをチェックするには、フロントホイールを外す。
可動部のベアリングはスムーズか確認
ステアリングをそうっと切り、引っかかりやガタがないかチェックする。ステムナットを緩めて調整するが、正確に作業するためにはフロントホイール/フロントフォークを取り外して行う。ステムナットは手で締めて戻すぐらい緩めだ。潤滑は良質なベアリンググリスを使い、アウターレース、ベアリング本体に擦り込むように塗る。
ホイールベアリングのガタや渋さは操安性に悪影響
ホイールベアリングの点検は、フロントスタンドでフロントホイールを浮かせて行う。スムーズにホイールが回転するかはもちろん、ホイールを抱えて前後、左右、斜めにホイールをわずかに揺するようにして、ホイールベアリングのガタをチェックする。
ホイールベアリング自体のグリスアップはできないが、ダストシールは潤滑剤で潤滑する。シール材(ゴム)の抵抗は、かなりあるのだ。
フロントフォークのインナーチューブに浮かぶくすみは抵抗だ
フロントフォークのインナーチューブ表面に、くすみがあったら要注意。くすみはさらなるゴミを呼び、抵抗になるからだ。
マイナスドライバーでダストシールを持ち上げ手から、潤滑剤をダストシールのリップ、オイルシールのリップにたっぷり吹き付ける。
ダストシールを上下させてインナーチューブを潤滑し、余分な潤滑剤をインナーチューブ、オイルシールから拭き取ってやる。
リヤサスのリンクまわりもグリスアップしたい
リヤショック&リンクを取り外す時は、荷重がかかった状態で行う。
リヤショックのダンパーロッドには潤滑剤を吹き、ロッドをウエスで磨いておく。ダンパーのオイルシール部にも潤滑剤を吹いておく。
リンク(クッションレバー)、リンク内部にあるニードルローラーベアリングとカラー、リンクロッド(クッションロッド)は洗浄してグリスで潤滑。
スイングアームを外した場合はピボットシャフトも点検、潤滑しておく。
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DRIVE CHAIN/ドライブチェーンは伸びや固着がないか確認しつつ拭いて注油
本来ドライブチェーンは油分こそあれ、汚いものじゃない。使えば多少油汚れが手につくものの、拭けばすぐにチェーンもホイールもキレイになるはずだ(整備していればの話)。
チェーン整備はスイングアームスタンドで行うと楽。新聞紙や段ボールなどでタイヤをマスキングし、パーツクリーナーなどをまんべんなく吹く。マスキングは注油する時も使う。
キレイに拭き取る。黒い汚れがウエスに付かなくなるまで拭き取っていく。
チェーンルーブをたっぷり吹きかける。特に狙うのがシール部。外側だけなく、内側にも吹きかける。余分は拭き取る。
チェーンカバー裏は余分な油分にホコリが混じって溜まる箇所。外してきれいに。
ホイールまわりやスプロケットもきれいにしておくといい
パーツクリーナーか灯油、ガソリンなどを染み込ませたウエスでホイールを拭き、チェーンルーブ、ブレーキダストを落とす。最後に乾拭きして、ごく薄くワックスがけ。
歯ブラシは段差を掃除しやすい。細かい凹凸では綿棒が便利だ。
ドリブンスプロケットの歯もガソリンなどを染み込ませたウエスでひとつひとつ拭いていく。
ドライブスプロケットカバーはチェーンケースなどと同様に必ず外して裏側も清掃。ドロドロの油汚れで裏の部分だから、ガソリンを使っていい。汚いからとそのままにしないこと。ドライブプロケットも1Tずつキレイに清掃。クランクケース側も清掃。特にスプロケットシャフトのオイルシール部はキレイにしないと、最悪破損の危険性がある。
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BRAKE SYSTEM/ブレーキはパッドにフルードにダイヤフラムと確認箇所多し
ブレーキマスターのリザーバータンクは、日頃から大気開放してやることだ。かなりダイヤフラムの変形を抑制できる。また、ブレーキパッドは摩耗だけでなく当たり具合、ヒートスポットにも注意しよう。なお、ブレーキキャリパーの脱着やフロントフォークの脱着は、ご自身が車両使用者である場合以外には認証指定工場で行う必要がある。
パッドの残量、ディスクの溝状摩耗、フルードの劣化はまず見よう
ブレーキパッドを外しながら、パッドピンの摩耗、パッドスプリングの変形などをチェックしていく。
フロントパッドの摩耗限界は、規定では溝の底までだ。
リヤ側の摩耗限界は線で示されていた。でも摩耗限界まで使わず、前後とも半分くらいまで。キャリパーからピストンが出る量が多くなるとタッチが悪くなるからだ。
キャリパーは汚れていたら台所用洗剤+歯ブラシで丸洗いし、ピストンをもみ出す(出す・戻すを繰り返す)。
ディスクの厚み、キズ、偏摩耗をチェックする。筋状に減っている場合は直らないので交換することになる。
ダイヤフラムの変形はタッチを悪くしひきずりを生む
ブレーキのマスターシリンダーでは、リザーバーの中のゴムふた=ダイヤフラムが大切だ。使っていれば、だいたい中央が凹んでしまうけど、キャップを開けて大気開放することで変形が戻り、タッチが改善する。
使用済みのダイヤフラム。左がフロント用、右がリヤ用。多少ならブレーキフルードに浸けると直るが、ここまで変形しているとダメ。安いし交換だ。
これが新品。弾力性もある。ダイヤフラムが固まると変形が戻らなくなり、ブレーキのタッチの悪さや引きずりの原因になる。
左からダイヤフラム、インシュレーター、キャップ、手前に取付ネジ。整備用ペーパーの上に並べる。
リザーバータンクの縁まわりもよく拭いておく。
ブレーキフルードの量に気を付けながら新品を装着。密着していないとフルード漏れを起こす。
リヤブレーキは意外と使っているものだ。それでリヤパッドもディスクも減りやすいので注意して見ておきたい。
キャリパーピストンは指で押し戻せればいいが、固くて無理なら特殊工具のブレーキピストンスプレッダーを使う。手でも特工でもまっすぐに押すのが肝腎。
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OTHER PART/ほかにもやりたいことはたくさんあるけど……
やりたい整備はほかにもいろいろあるけれど、バッテリーの補充電は冬こそ欠かせない。メンテナンス機能付き充電器があれば簡単。エアクリーナーもけっこう汚れる。
操作系のゴムパーツは減って感覚が変わってしまうから早めに交換
チェンジペダル先端のゴムは消耗品。減っていると気持ち良く変速できない。
ハンドルグリップも消耗品。部分的に摩耗する。減ったらケチらず交換だ。
手の力が入っている人ほどグリップが減る。スロットル側は、スロットルホルダー(スイッチボックス)とグリップ(つば)の干渉にも注意すること。
レバーは外してピボット部をきちんと清掃し、その後グリスアップしておく。スロットル/クラッチワイヤーもワイヤルーブや万能潤滑剤で給脂しておく。
エアクリーナーや点火プラグも車検スパンより早く換えたい
エアクリーナーは汚れる。左が使用済み、右が新品。エアブローするか交換。
エアクリーナーボックス下部にはドレン(ピンク色チューブ)が付いている。
ドレンは1年毎に開放し中の水を抜く。この例では幸い、何も出てこなかった。
エアクリーナーボックス内も汚れているものだ。ウエスで丁寧に拭いておく。
フィルターは洗えるアフターマーケット品に換えるのも手。STDは洗えず交換のみ。
ちょっとしたことが調子の維持につながる
ヒューズはどこにあるかを確認しておく。予備も含めて点検しておくこと。
バッテリー電圧は、特に冬は低下しやすいのでチェック。補充電しながら使いたい。鉛バッテリーはフル充電で使うことが前提。FI車で電圧12.5V以下だと、セルは回るが燃料ポンプが作動しない、燃料を噴かないということもある。
クーラント(冷却水)の量のチェックも。リザーバータンクの目盛りで確認。
冷却系の配管は意外な盲点だ。液漏れがないかをよくチェックしておく。
ボルトナットは頭がナメれきたり、ネジが甘くなっていたら新品に交換する。
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できることから焦らずじっくりやっていこう
気温が下がる冬になると、バッテリー電圧の低下に注意が必要だ。バッテリーを長保ちさせるコツは、補充電しながら、常にフル充電(満充電)状態で使うこと。季節を限らず鉛バッテリーは乗らない時には、可能なら常に充電器につなげておきたい。難しいなら、1〜2週間毎に充電。頻繁に乗っているという場合でも、冬は補充電しながらがお勧めだ。
リチウムバッテリーの場合は、使わないのなら100%(フル充電)ではなく、60〜70%ぐらいの方がいいとされていて、リチウムバッテリー専用充電器は、自動的にそうなるようにメンテメンス機能が付いている。リチウムバッテリーは、自然に放電しないので端子を外しておけばリークしない。
電気系では、スパークプラグが定期交換部品の代表選手だったけれど、最近のモデルでは外して点検すらやらないで、非常にロングスパンな交換部品となっている(イリジウム電極で高価でもある)。
ただし、キャブレター車は別だ。高性能プラグを使ったとしても3000〜6000km毎に交換したい。点検は小まめに。点火系も弱いし、汚れ、劣化が早いからだ。
エアクリーナーは、長い目で見たら洗ってフィルターオイルを塗れば何回も繰り返し使えるアフターマーケット製に交換しておく方がいい。吸気効率も上がるしね。
まあ、紹介したメンテナンスはどれも、焦らず、じっくりが基本。ただし、信頼できるプロにメンテ作業を頼むのは確実だし、それはそれでお勧めだ。愛車をしっかり整備して、調子よく行こう。