カブF型のエンジンを搭載した市販モデル「カブスター」
ホンダの歴史に燦然と輝くカブF型。当時、多数あったメーカーの中におけるホンダの存在感を高めた伝説的モデル。自転車に装着する2ストローク補助エンジンで、低くマウントされた機能性、そして優れたデザイン性など、数々の特長を持っている。
くわしくはこちら。
カブF型はあくまで補助エンジンなので、自転車に装着するためのキットとして販売されていたんだけど、実はカブF型を搭載した完成車両も販売されていたらしいのよ。それが日研工業による「カブスター」。
製造メーカーは、現存しない上、ネットで調べてもほとんど資料の出てこない激レアモデル。
唯一見つけたのはこの海外の記事くらい。
そんな激レアモデルなんだけど、上記の記事で紹介したカブF型のオーナーさんが所有しているということで、取材させてもらったよ。
日研工業 カブスター
まずは外観から。
カブF型のエンジンを搭載したコンプリートマシン。ペダルを併用してはいるものの、この車格だしエンジンでの走行がメインじゃないかな。
レストアにともない、当時とは多少のパーツ変更がされているけど、フレームなどの基本構成は当時のまま。
シート下からテールまで覆うカウルは鉄製で、はね上げることでガソリンタンクへのアクセスが可能。
オーナーさんが入手したときは、走行できるような状態ではなかった上、当時のパーツは入手不可能。
そもそも資料があまりにも少ないため、こうして仕上げるまでの相当に苦労は多かったとのこと。
こうした当時の歴史を表す車両を現代でも見ることができるのは、なんというか歴史的な意義を感じてしまう。
カブスターの細かい部分をチェック
さて、細かい部分を見ていこう。
カブF型部分とガソリンタンク。リアはリジッドフレーム。
チャンバーはカブF型と基本的に同一。ただし、出口は蛇腹状のパーツを設けることで、排気方向を下に向けてる。
キャブは、以前取材したカブF型同様にアマル製。
クラッチについてはベースのカブF型とは、構造が変更されていた。
ワイヤーを引くことで、アームを動かして玉状のパーツを押し込む方式。
リアホイールは当時のものが使用不能だったため、郵政系カブのホイールを加工して装着。
ハブには始動用のためにペダルにつながるチェーンと、動力を伝えるチェーンの2本が繋がっている。
ステップ部分には、リアブレーキペダルも。
その左右にはアポロ製腕木式方向指示器を装備。
この腕木式方向指示器、アポロ社のシェアが大きかったため通称アポロウィンカーと呼ぶとか。
当時の腕木式方向指示器は、点滅するものと点滅しないものがあったらしい。
ただこのカブスターに装着されている腕木式方向指示器は、現代のウィンカーのように点滅もできるタイプ。
そもそも腕木式の動作なんて見たことなかったので動画を撮らせてもらったよ。
ヘッドランプはナショナル(現パナソニック)製。
ハンドル周り。操作系は、ほぼカブF型のまま。中央にあるのは方向指示器の操作スイッチ。
ハンドルはフォークに直接取り付けられたスマートな形状。
リアには、大型キャリア。
実用自転車的な大型のシート。内側にバネを設けたハンモック式。
まとめ
およそ70年以上前の車両が、こうして現代でも残っているのは本当に素晴らしいのひとこと。
200以上のバイクメーカーが存在した1950年代の空気感や、戦後のものづくりへの意気込みなど、さまざまなものを感じ取れる名車でした。
レポート:若林浩志