文:太田安治/写真:南 孝幸/モデル:平嶋夏海
アライヘルメット「ツアークロスV」テスト&レポート
アドベンチャーツーリングからオンロードスポーツまでマルチに対応
オートバイ用ヘルメットは顔が見えるオープンフェイスタイプ(ジェット型とも呼ぶ)と、頬から顎部分までカバーするフルフェイスタイプに大別される。さらにフルフェイスタイプにはシールドを備えたオンロードスタイル、オンロード用にバイザー(ひさし)を加えたアドベンチャースタイル、ゴーグルの使用を前提にしたオフロードスタイルの3種類がある。
普通は車種や用途に応じてそれぞれのヘルメットを被り分けるが、複数揃えると出費がかさみ、置き場にも困る。そこで徐々に増えてきたのがバイザーとシールドを着脱することでスタイルを変えられるタイプ。アライの新製品『ツアークロスV』は、それぞれの機能に妥協することなく、簡単にスタイルチェンジできるマルチパーパスモデルだ。
歴代の「ツアークロス」はオフロード用フルフェイスをベースにシールドを装備し、アドベンチャーモデルやオフロードモデルでツーリングを楽しむライダーから高い評価を得てきた。ただしオフロード用がベースのため、チンバー(帽体先端のアゴを覆う部分)がやや突き出し気味で、バイザー、シールドを外して使うことも想定外。対してツアークロスVは丸みを帯びた新帽体に一新し、シールドの曲率も緩やかに。全体にオンロード用をベースにバイザーを装備したデザインになっている。
その理由は一にも二にも安全性の向上。衝撃を受け止めるのではなく、滑らかな帽体形状で路面への引っ掛かりを防ぎ、衝撃を「かわす」ことでダメージを減らすというアライのフィロソフィーに基づいている。シールドシステムを低い位置に下げられるVAS機構、アライ独自の最新グラスファイバー素材、部位によって硬度を変えた一体型多段発泡ライナーの採用も安全性追求の結果だ。
僕はツアークロスの「3」を使っているので、後継モデルの「V」との違いを探るべく市街地から高速道路までで1週間テスト。結果、違う部分が随所にある、というよりも似た部分が少ないことに驚いた。
被り心地は「3」よりもチークパッドがアゴの下側から支える感触が強まり、ホールド性が高まっている。特に横方向に首を振ったときのブレは明らかに減った。バイザーが受ける風圧も見事に逃がしていて、高速道路の120km/hクルージングでも首への負担は感じなかった。
市街地で感じたのは視界の広さ。「3」ではチンバー部分が視界を遮ってメーター類を見にくいことがあるが、「V」はチンバーの存在を意識させず、左右方向の視界も文句なしに広い。ベンチレーション性能は「3」よりも若干弱い印象だが、これは帽体下側からの風の巻き込みが減っていることも影響していると思う。実際、静粛性が上がっているし、目の乾きを感じることもなかった。
オンロードスタイルでテストしても、着用感は通常のフルフェイスと何ら変わりなし。僕はロードスポーツモデルとオフロードモデルを所有しているが、これ1個で対応できるのは嬉しい。スタイルチェンジは簡単だし、インカムを取り付けやすい工夫も施されている。「マルチパーパス」の標榜に相応しい仕上がりだ。
テスター太田安治の欲張りリクエスト
バイザー/シールドともに工具不要で簡単に着脱できるが、シールドホルダーの着脱にはプラスチック製ネジを回すためにコインが必要。着脱頻度は少ないはずだが、どうせならコインも不要になると便利。
文:太田安治/写真:南 孝幸/モデル:平嶋夏海