文:山口銀次郎(ゴーグル編集部)/写真:柴田直行
ハスクバーナ・モーターサイクルズ「ノーデン901エクスペディション」インプレ(山口銀次郎)
ワイルドロード走行を想定したアップデートが標準設定!
『ノーデン901エクスペディション』は、スタンダードモデルにオプションパーツを装着しただけの様に見えるが、純然たるノーデン901のバリエーションとして設定されているモデルだ。その内容は、ワイルドロードの走破性を高め、よりロングランの快適性を向上させるもので、ノーデン901の魅力を大幅に引き上げている。
スタンダードモデルのノーデン901はストリート7割:オフロード3割の比率でバランスされていたが、それでもかなりのラフロードを分け入ることが出来る印象だった。しかし、ストリート5割:オフロード5割の設定比率となっているこのエクスペディションは、佇まいだけでなく跨った時の印象もオフロードモデルそのものだ。
前後共にアクスルトラベルが240mmも確保することにより車高が上がっている。オフロードでの走破性をかなり意識している部分だ。装着される標準タイヤは、ピレリ・スコーピオンラリーSTRで、これはブロックパターンながらオンロード志向のADVタイヤ。このチョイスは、ストリートでの使い勝手までも考慮されていると感じるポイントだ。
舗装路を走行すると、ストローク量がありソフトな足まわりと、フロント21インチ特有の緩やかに弧を描く様なコーナリング特性と相まって、優雅で大らかなハンドリングだ。純粋なストリートモデルに慣れた方にとって違和感を感じるかもしれないが、少し走れば特に問題もなく個性として受け入れられるだろう。
一般的にオフロードモデルでは「ソフトな足まわり」という印象だが、このエクスペディションのWP製Xplorサスペンションは、衝撃吸収や沈み込みに対するダンピングの許容が大きく、スプリングの反発などの乱れを確実に収束させることが出来るのが特徴。この「確実に収束」させるというのは、アッパーミドルサイズの車格や車重、そして運動量をカバーし得るショックユニットが装備されているからこその最大の恩恵と言えるだろう。もちろん、細かなロードノイズなどの振動から、舗装の繋ぎ目通過時の鋭い衝撃等々も何事もなかったかの様に吸収し至極快適な空間をも作り上げてくれるのも魅力だ。
舗装路では走行シーンを問わず上質な乗り心地を提供してくれる上に、大型のウインドシールドの効果も相まって、長距離&長時間移動での快適性は抜群だ。また、ロングツーリングで長い時間身を委ねることになるシートは、絞れている所は絞れているが、大判の座面を有しどっしりと落ち着いた姿勢を維持することが可能となっている。さらに、容量十分なサイドバックとキャリアも装備されているので、数泊に及ぶ旅にも応えくれるパッケージであることは間違いない!
オフロード走行は、夏季のゲレンデコースを走行した。走行路を横切る深めの排水溝や草地、ぬかるみやウッドチップ路など路面状況が多岐にわたるコースで、前述したストリート志向のタイヤでは走破に難ありと判断する状況だった。しかし、軽快なオフロードモデルと異なる重量級のアドベンチャーモデルなのにも関わらず、ズンズンと悪路の上り坂を登っていってくれるのである。それは、トルクコントロール機能が介入するライドモード設定がとてもよく機能していて、走行困難と思われる傾斜も着実に前進させてくれるのだ。
スリッピーな路面では、ワイドオープンなスロットルとは裏腹にトルクコントロールによって低回転域を維持し続けてくれる。試しにこのトルクコントロール機能を解除してみたが、その瞬間にタイヤは空転し前に進まないという事態に。自分が車体とエンジンパワーとグリップ力を把握していないのに加え、見当違いなコントロールをしているという現実を突きつけられ、結果として「進まない」という解りやすい答えになってしまった……。このことからも全てを掌握しているノーデンの電子制御に任せるのが一番であると実感した。
足まわりにおいては水を得た魚の如く、大ストローク&ダンピング性能がフルに発揮され、初めて走行する区間でもナーバスになることは一切なかった。この頼り甲斐のある車体と足まわりのバランスは、林道レベルではもちろん、さらに険しい獣道レベルでも突き進むことが出来るだろう。
標準装備でスペシャルパッケージになっているというエクスペディションは、ビギナーにとっては大きな支えとなり、未知なる道へのチャレンジも躊躇することはない玄人ライダーのリクエストにもしっかり応える、ワンランク上のアドベンチャーモデルとなっている。