80年代はじめ、突然巻き起こった「ターボ」ブーム。
先鞭をつけたホンダCX500ターボにヤマハXJ650ターボが続き
スズキはGS650Gの空冷4気筒エンジンにターボを搭載したXN85を発表。
85PSエンジンを搭載したチャレンジングなモデルだった。
ついに軽くて速いターボ登場
メーカーが製造したカタログモデルとしては初のターボバイクとなったCX500ターボは、ベースモデルがツーリングバイクGL500だったこともあって、「ターボ」から連想されるスピードや速さとは一線を画したモデルだった。ヤマハXJ650Tも、ヨーロッパでウェルバランスと評されたモデルにターボを搭載したモデルで「ターボ」から連想される尖ったイメージとは少し縁遠い場所にいたのも確かだ。
速さやスピードを想起させるモデルがタブーだった時代だったとは言え、やはり物足りない――そして、そこから一歩踏み込んだのが、スズキだった。82年、スズキはドイツ・ケルンショーにGS650ターボをプロトタイプして出展。その名の通り、GS650Gをベースとしたターボモデルで、発売時にはXN85と改称されていた。車名の「85」は、このモデルの最高出力を表わす数字だ。
XN85のトピックはやはりエンジン。空冷4気筒DOHC2バルブエンジンをインジェクション化。ターボユニットはホンダCX500ターボと同じIHI(石川島播磨重工業)製で、サージタンクやインテークマニホールドはMIKUNI、インジェクターやコントロールユニットはDENSO製を採用。エンジンの味付けは、低~中回転トルクの太いベースエンジンにターボを組み合わせることで、ターボが効く高回転のパワフルさを狙ったもの。この点で、CX500ターボとは狙いが違ったモデルだといえるだろう。ベースとなったGS650Gが234kg、それにターボユニットを追加して15kg増に抑えたことで「軽く速い」ターボモデルを作り上げたのだ。ちなみにCX500ターボは、ベースとなったGL500から約40kg増だった。
今にしてみれば、XN85はスズキの次世代モデルの車体を先取りで採用していたことがよくわかる。当時の大型モデルがまだフロントホイールに19インチサイズを採用していたのに対し、XN85は16インチホイールを採用。スズキが次にフロント16インチホイールをビッグバイクに採用したのは、翌83年のGSX750E4とGSX750SⅡだった。
2型カタナのGSX750SⅡはリアがツインショックだったのに対し、E4はフロント16インチホイールにリアにフルフローターサスと、明らかにXN85の系統だということがわかる。もっともE4はさらに一歩進んで、角パイプフレームを使用していたが。
さらにエンジンにも「少し先」の未来を見据えた技術がトライされていて、それが85年に登場したGSX-R750で一気に知られるところとなったオイルピストンクーラー。XN85は、吸気を圧縮して吸気温が上がる→加給されて出力が上がる=エンジン発熱量が増えることを防ぐべく、ピストン裏側にオイル噴射を実施。後にはピストンジェットクーラーと呼ばれるようになるが、このXN85期にはその呼び方は見当たらなかった。
結局このXN85も、後継モデルが開発されず、一代限りのスズキ製ターボバイクとなってしまったが、XN85発表からちょうど30年、2013年の東京モーターショーにXN85の蒔いた種が芽を出した瞬間があった。それがコンセプトモデルのリカージョン。600ccの並列2気筒エンジンにインタークーラーターボを組み合わせ、コンパクトなターボバイクというコンセプトで、市販が期待されたが、残念ながらいまだ実現には至っていない。
最高出力や最高速という絶対性能については他モデルに任せて――という土壌が出来上がりつつある今、ミドルクラスのダウンサイジングターボという武器は「アリ」だと思うが、今後スズキのリカージョン計画が陽の目を見ることはあるのだろうか。
<つづく>