文:太田安治、オートバイ編集部/写真:南 孝幸
カワサキ「Ninja e-1」インプレ(太田安治)
eブーストのダッシュは250cc車なみの速さ!
ニンジャe-1の車体はニンジャ400をベースにしているとあって、見た目は至って普通のロードスポーツ。EVを誇張するようなギミックもなく、マフラーがないことに気付かなければニンジャのグラフィック違いに見える。しかし車重は140kgと軽く、125ccロードスポーツ車と同等の車格だ。
走行モードはデフォルト設定の「ロード」と出力を絞って電費を稼ぐ「エコ」の2種類が用意される。さらにキルスイッチ下にある大きめの「eブースト」ボタンを押すと、連続最大15秒間限定で出力が上がる仕組みになっている。
最初に驚かされるのが動き出しの力強さ。オートマチックなのでスクーターのつもりでスロットルを大きく開くと、ギュン! と鋭くダッシュする。ゼロスタートから最大トルクを発生するモーターの特性に加え、クラッチ/ミッションといった駆動系でのロスもないから、とにかくダイレクト感が高い。
スロットル開け始めの出力特性はEVバイクの乗りやすさを左右する重要なポイントで、過去に試乗したEVの中には鋭すぎたり、鈍すぎたりして扱いにくいものもあった。だがこのe-1はスロットル操作を丁寧に行えば穏やかに発進でき、スロットルの微妙な開閉による速度調整もやりやすく、市街地ではマニュアルミッション車やCVTオートマチック車よりもイージーかつ快適に走れる。
ちなみに、電費優先のエコモードは出力が大きく制限されるため加速が鈍く、最高速も60km/hをやっと超える程度。排気量50ccの原付一種スクーターよりは速いかな? という感覚で、電池残量が厳しいとき以外はあまり使うことがなさそうだ。
特に驚いたのはeブースト。走行中にボタンを親指で押すとギュワ~! と後ろから押し出されるように加速する。ピーキーな特性のエンジンがパワーバンドに入ったときやターボが効いたときの加速とも異なり、レースゲームでダッシュボタンを押したような感覚。250ccエンジン車に匹敵する速さだ。
ただ、面食らうようなダッシュ力を発揮するのは2~3秒で、その後は排気量が増したような力強さを維持して速度を乗せ、15秒後にeブーストが切れる。最高速はロードモードで88km/h、eブーストを効かすと105km/hと発表されているから、市街地の流れをリードすることもたやすいだろう。
モーターのパワーに興味が集中してしまいがちだが、操縦性はフルサイズロードスポーツらしい安定感があり、路面のうねりや段差超えで怖さを感じることがない。ややフロントヘビーな感はあるが、コーナリング中のスタビリティも高く、ミニバイクコースのような場所で遊ぶのも楽しそうだ。
実用上の課題は航続距離と充電時間。60km/hの定地走行で航続距離55kmだから、現実的な移動範囲は近場に限定されるし、11.5kgのバッテリー2個をゼロからフル充電すると8時間近くかかるので、日常的に使うなら駐車場所に100V電源がないと厳しい。
もちろんカワサキはこれらの課題を承知のうえで市販に踏み切ったはず。このチャレンジ精神はさすがカワサキ。プレゼンス向上に貢献することは間違いない。
補助金を使えばe-1がグッと身近になる?
このニンジャe-1とZ e-1は、次世代自動車振興センターの補助金(CEV補助金)対象車。東京都に住民票がある人の場合、2023年12月8日現在、CEV補助金が12万円、東京都電動バイク普及促進事業補助金が46万円となり、計58万円の交付を受けることができ、実質的な購入価格がガソリンエンジン搭載の125ccスポーツにかなり近いものになる。このほか、独自に補助金制度を適用している自治体もあるので、詳細は各地方自治体に確認してみよう。