文:ノア セレン/写真:南 孝幸、関野 温
ヤマハ「MT-03」VS KTM「390 DUKE」VS カワサキ「Ninja ZX-4RR」|特徴・スペック
熟成のMTシリーズは幅広いライダーを受け入れる
目新しい先進装備や、驚くべきスペックは無いけれど、十分にエキサイティングなエンジンとそれをしっかり受け止める車体の好マッチングで、ライディングの楽しさを堪能できる。抑揚のある洗練のデザインは色褪せない魅力を放つ。
見た目と中身が一致するアグレッシブなバイク
登場したばかりの新型は、125ccクラスの車体にレディ・トゥ・レースな400ccの単気筒エンジンを載せた、それ絶対速いやつ。前後WPサスペンション、電子制御もふんだんに盛り込みつつ、80万円を切る価格設定に心揺さぶられる。
令和の世にヨンヒャク1万5000回転の咆哮が轟く
ヨンヒャク4気筒の希望の星。190kgの重さとKRTエディションの価格115万5000円にやや怯むが、ラムエア加圧時には80PSのパワーですべて吹き飛ぶ。アシスト&スリッパークラッチやトラコン、クイックシフターと装備も充実。
エンジン形式が異なる3台のパフォーマンスに注目だ!
大排気量車に比べると気軽に乗れるからこそ、僕は趣味に振りすぎない汎用性や「使える性能」が大切だと考えてます。速いだけじゃ駄目よ! 使いやすくて、場面も選ばずにいつでも楽しめるってのが、400「らしさ」なんじゃない?
MT-03 | 390デューク | Ninja ZX-4RR KRT エディション | |
全長×全幅×全高 | 2090×755×1070mm | NA | 1990×765×1110mm |
ホイールベース | 1380mm | 1357mm | 1380mm |
シート高 | 780mm | 820mm | 800mm |
車両重量 | 167kg | 165kg | 189kg |
エンジン形式 | 水冷4ストDOHC4バルブ並列2気筒 | 水冷4ストDOHC4バルブ単気筒 | 水冷4ストDOHC4バルブ並列4気筒 |
総排気量 | 320cc | 398.7cc | 399cc |
ボア×ストローク | 68.0×44.1mm | 89×64mm | 57.0×39.1mm |
圧縮比 | 11.2 | NA | 12.3 |
最高出力 | 31kW(42PS)/10750rpm | 33kW(45PS)/8500rpm | 57kW(77PS)/14500rpm ※ラムエア加圧時:59kW(80PS) |
最大トルク | 30N・m(3.1kgf・m)/9000rpm | 39N・m/7000rpm | 39N・m(4.0kgf・m)/ 13000rpm |
燃料タンク容量 | 14L | 約15L | 15L |
変速機形式 | 6速リターン | 6速リターン | 6速リターン |
キャスター角 | 25°00′ | NA | 23.5° |
トレール | 95mm | NA | 97mm |
タイヤサイズ(前・後) | 110/70R17・140/70R17 | 110/70 R17・150/60 R17 | 120/70ZR17・160/60ZR17 |
ブレーキ形式(前・後) | ディスク・ディスク | ディスク・ディスク | ダブルディスク・ディスク |
燃料消費率 WMTCモード値 | 25.4km/L(クラス3 サブクラス3-2 1名乗車時) | NA | 20.4km/L(クラス3-2 1名乗車時) |
製造国 | インドネシア | インド | タイ |
メーカー希望小売価格 | 68万7500円(消費税10%込み) | 78万9000円(消費税10%込み) | 115万5000円(消費税10%込み) |
ヤマハ「MT-03」VS KTM「390 DUKE」VS カワサキ「Ninja ZX-4RR」|比較インプレ(ノア セレン)
3社3様の「400はこうあるべき」が見えてきた気がする
同じスポーツモデル、同じ排気量でシングル、ツイン、4気筒が揃ってるって、けっこう贅沢なハナシじゃない? しかも3台ともメーカーが違って、KTMとヤマハは同排気量で他の気筒数は作っていないという、「ウチの400はこの形式で勝負するんだ!」という意思、方向性、コダワリのようなものが感じられるのもアツイじゃないか(ちなみにカワサキのパラツインのニンジャ400/Z400も名車ですね!)。
なんといっても注目はZX-4RRでしょう。唯一無二の4気筒でしかも77PSという前人未到の超ハイスペック。レプリカ時代を知るベテランライダーも納得の性能かつ、600ccがトゥーマッチと感じていた人にもフィット。400cc枠ではあるものの、そのスペックゆえに枠にとらわれない新たなスポーツバイク像すら提案してくれている。
乗ってもやはりクラスレスだ。シングルやツインが一般化したこのクラスにおいては重めの車体は安定志向に感じ、それでいて高回転まで回していった時の突き抜け感は完全にライバル不在。一般的な峠道では十分すぎる動力性能で、400ccでも「ちょっと速すぎないか? 」と思ってしまうほどだ。一方で常用回転域はかつてのCB-SF系のような豊かなトルク、という感覚ではないため、ツーリングというよりはサーキットも視野に含めたスポーツラン向けだろう。
対照的なのはKTM。シングルを突き詰めるのが得意な同社は今回のモデルチェンジで排気量アップを果たし更なるスポーツ性を追求。高回転型のシングルは回り切る領域でシングルらしからぬ伸び切りを見せ、軽量な車体を怖いぐらいの速さで次のコーナーに到達させてくれる。ブレーキも超強力でライダーの意図以上の超減速が可能。非常にストイックで、公道ワインディングですら、サーキットのように頭を使ってコーナリングを組み立てていくことが求められるほどだ。
実は乗用回転域も使いにくくはないし、今回、シート高も下げられてフレンドリーさが向上してはいるものの、その性格はやはり尖ったもの。軽量さゆえ日常的にも、あるいはツーリングでも接しやすさはあるとは思うが、いつの間にかライダーのスイッチが入ってしまうという、レディ・トゥ・レースなのである。
良い意味で旧くさいのがMT-03だ。こんなに先鋭的なルックスなのに、シートがとても低くて車体の重心が近くに感じられる絶対的安心感がある。低い重心からちょっと遠くに感じられるフロントまわりがクニャリクニャリと行きたい方向に自然と向いてくれ、安心感を持ってアクセルを開けていけるのは、かつてのネイキッドモデルのような親しみやすさ。
ツーリングでもスポーツでも街乗りでも、ライダー側のテンションにいつでも寄り添ってくれるような懐があり、その証拠に疲れが出始めた撮影終盤にはみんながMTに乗りたがっていたほどだ。これは排気量もキッチリ400にして、バリッとテコ入れしてほしい名車だ。
3車3様のスポーツ400ジャッジメント。みんな違ってみんな良いけれど、「日本車らしい」もしくは「400らしい」と思える汎用性とスポーツ性の好バランスを持っていたのはMTかな? この方向性のナイスバランス400が増えて欲しいと思う。
ノアセレンが選ぶ 3モデルの “極品” ポイント
フルアジャスタブルでサーキットもOK!
フルアジャスタブルサスペンションが標準装備されるZX-4RRならスポーツを突き詰められる! なおZX-4Rはプリロード調整機能のみだけど、それでも公道では十分だ。
シングルディスクながら超強力!
ラジアルマウントキャリパーを使っているとはいえ、シンプルなシングルディスク構成。ただコレが車体の軽量さと相まってかものすごく効く! 最初は止まり過ぎちゃうほど!
バイクの重心とライダーの重心が近い!
シートは低くて、サスも沈み込むからものすごく低重心に感じ、バイクとの一体感が高い。サスはちょっと動きすぎるぐらいだから、好みに合わせてプリロード調整してみよう。
文:ノア セレン/写真:南 孝幸、関野 温