文:丸山淳大/写真:関野 温
車体の潤いを取り戻せ! グリスアップ大作戦
フリクションの低減と部品の摩耗抑制
エンジンも足まわりもチェーンもペダルもレバーも、バイクの走行中は常に部品同士が〝摺動〟している。その摺動によるフリクションを低減させ、部品摩耗を抑えるのに欠かせないのが「潤滑」だ。
だが、オイル交換時期などは距離や期間によって判断できるものの、各部グリスアップのタイミングには明確な指針が無いことが多い。だから、動きの悪化や、異音の発生など不具合が顕在化して初めてグリス切れに気づく例が少なくないのだ。
そんな、愛車のグリス切れに突然気づいたのがハチ黒氏。いつものように、喉のグリスが切れたようなダミ声で電話してきて「おうおう、オレのバイクのクラッチレバーが重いから見に来いやぁ!」と、無駄なハッスル。ふんどしで和太鼓ドンドンドドンで男祭りじゃないのよ。旧いのはバイクだけにしてくださいよぉ。
かくして、今回は潤いゼロ&カッサカサ乗りっぱバイクの各部グリスアップ作業をすることになったのだ。
グリスアップで重要なのは作業前のクリーンナップ(清掃)である。古いグリスの上から新しいグリスを塗り重ねても潤滑性の向上は大きく望めないし、グリスは砂利やホコリを吸着するので、それが研磨剤となって摩耗を促進させることもある。また、適材適所でグリスを使い分けることも必要だ。
グリスの種類・特徴を解説
作業目的に合わせて最適なグリスを揃える
まず持っておきたいのはチェーンオイルと万能(リチウム)グリスだ。それに、長期潤滑性は望めないものの、サビたネジを緩めたりするのに効果的な防錆浸透潤滑剤もあると良い。
次におすすめなのがゴムと金属の摺動部に使用するシリコングリスだ。また、ワイヤーに粘度の高いチェーンオイルの使用はNG。専用オイルを使おう。さらに、油分はゴミを吸い寄せるので、鍵穴には鍵穴専用の潤滑剤を使いたい。
チューブとスプレーの2タイプがある!
万能グリス(写真①、④の中段)
レバーやベアリングなど金属と金属の摺動部に使う万能グリス。バイク用として販売されているリチウムやウレアグリスを選べば間違いない。
モリブデングリス(写真②、④の下段)
リアサスリンクのブッシュやミッションの軸受けなど、高温、高荷重部の潤滑に適している。メンテ初心者はあまり使わないかも。
シリコングリス(写真③、④の上段)
金属とゴムの摺動部に使用。サスペンションやブレーキキャリパーのピストンに塗布すれば、フリクションを低減し、サビ防止になる。
キタコ ブレーキパッドグリス(税込484円)
パッドのバックプレートに塗布することで鳴きを抑えることができる。耐熱性に優れるので、マフラーフランジなど高温部のネジの焼付き防止にも有効。
キタコ カーボングリス(税込462円)
導電性に優れるので、配線カプラー端子やギボシ端子に塗布することで、電気の流れを安定化させられる。特に旧車には有効だ。
そのほかスプレータイプのルブ
チェーンオイルや浸透潤滑剤の多くはスプレー式。写真右のCCIメタルラバーはサスやキャリパーピストンの作動性を大きく向上させる隠れた逸品だ。
車体の各部グリスアップ! 方法・ポイントを紹介
1.クラッチレバー・ブレーキーレバー
【使用するもの】
グリス切れで操作性が悪化!
レバー操作はライディングの要となるのでグリスアップは欠かせない。グリスが切れると作動が重くなるし、レバー各部の摩耗が進めば、ガタが増えて操作性が悪化する。
作業手順としては、レバーを外して清掃&グリスアップが基本だ。ここでは万能グリス(リチウムもしくはウレア)を使用する。また、浸透潤滑剤を汚れ落としクリーナーとして使うと頑固な古いグリス汚れも簡単にきれいになる。
作業工程1.レバーを外して清掃
作業工程2.各部をグリスアップ
【裏技】 ブレーキレバーのタッチが劇的に変わる!?
ブレーキがゴリゴリする?
ブレーキレバーのタッチがゴリゴリして、繊細なブレーキングができない! なんて時は、マスターシリンダーのピストン端面を確認してみよう。レバーとの接触面が摩耗で凹んでしまうと、タッチが著しく悪化する。
もし、凹んでいればオーバーホールが必要だが、応急処置的にマスターピストンを回転させ、レバーの当たり位置を変えることで、新車のタッチが復活することも!?
2.ワイヤーケーブル
【使用するもの】
ワイヤー破断を防いで操作も軽減
ワイヤーの注油に使用するオイルは、粘度が低い専用品を使用したい。チェーンオイルなど粘度の高いグリスではワイヤー内部に浸透していかないし、粘りで動きが重くなってしまうこともあるのだ。
注油には、専用工具の「ワイヤーインジェクター」を使う、先細ノズルで直接隙間からスプレーする、小袋をワイヤー端にセットして袋内とオイルで満たし、重力で徐々に行きわたらせる、という様々な方法がある。
整備後に検証!
吊りはかりでレバーを引く重さを計測
レバー操作が軽くなった!
グリスアップによる効果は、実際に体感できることが多いが、それをより分かりやすく数値化できないかということで、今回はデジタル吊りはかりを使用し、クラッチレバーを引く力を重さとして計測してみた。
はかりの精度やレバーを引く力加減などを鑑みるに、完全に正確な数値とは言い難いが、グリスアップ前後で比較すると、確実に操作が軽くなったのがわかった。しかし、カタナのクラッチレバー重すぎぃ…。
3.サイドスタンド
【使用するもの】
チェーンオイルの使用がおすすめ
グリスアップのポイントで見逃しがちなのがサイドスタンドだ。足で少し払えばあとはスプリングの力で自動で跳ね上がるのが本来の動きだが、グリスが切れると、とたんに動きが悪くなる。
グリス切れのまま使い続けると、ピボットの穴やフレームのスタンドの受けが摩耗し、ガタが増えてスタンドの傾きが大きくなってしまう。修理は大掛かりだ。そうならないためにも小まめなグリスアップが欠かせないのである。
【注意】
グリスアップと同時に増し締め必須
サイドスタンドのピボットボルト、ナットはかなりの確率で緩んでいるので、確認&増し締めしよう。緩んだままだとガタが増えていく。
整備後に検証!
動きのスムーズさを定点で観察
サイドスタンドの動きがグリスアップによってどれだけ改善したか、可視化するために定点撮影してみた。グリスアップ前はBEFOREの位置まで足で払う必要があったが、グリスアップ後はAFTERのところまで行けば、スプリングの力で自動で跳ね上がるようになったのだ。明確な効果が表れた!
4.サスペンション
【使用するもの】
ゴムと金属の摺動部はシリコングリスを使用
フロントフォークの「インナーチューブ」やリアショックの「ダンパーロッド」は、ゴム製のシールと常に摺動している。この摺動部にシリコングリスを塗布して潤滑すれば、フリクションを低減し、サスの作動性向上を図れるのだ。さらにサビの発生も防ぐことができる。
5.ドライブチェーン
【使用するもの】
シールチェーンでも注油は必要
現在主流となっているシールチェーンは、チェーンのピンとブッシュを潤滑するためのグリスをOリングで封入している。そのため、メンテナンスサイクルが長く、ロングライフが特徴だ。
だが、定期的なメンテナンスは欠かせない。チェーンのブッシュとローラーの潤滑が必要となるし、チェーンオイルによって、ゴム製のOリング表面を保護する目的もある。
裏技! ちょっとした工夫でグリスアップが効率的に!
技1.スプレーノズル先端曲げ
技2.段ボールでオイルの飛散をガード
技3."隙間"を狙って注油! サビを防止
整備後に検証!
ホイール回転の軽さを計測
チェーンのフリクションが減ってスムーズに
吊り下げはかりをスポークにセットし、チェーン注油前後でホイール回転がどれだけ軽くなるか計測してみた。結果は注油前1.18kgに対し注油後0.46kgとなり、0.72kgも軽くなった。
各部のグリスアップによってそれぞれの部分でフリクションが確実に低減する。それが積み重なれば、操作が軽くなって疲れづらくなったり、燃費が向上したりとバイク全体で大きな変化が現れるはずだ。
文:丸山淳大/写真:関野 温