TeamエトワールがSSTクラス予選トップタイムを獲得
4月中旬のル・マン24時間耐久で開幕した世界耐久選手権。
F.C.C.TSRホンダフランス、ヨシムラSERT MOTUL、カワサキWebikeトリックスターといったチャンピオン争いをする日本勢と、今シーズンからフル参戦を開始した純日本人チームであるプライベートチーム、チームエトワールの参戦でいつも以上に注目度が上がっている選手権は、この週末に第2戦が行なわれました。
舞台はベルギーの伝説的名コース、スパ・フランコルシャン。かつて1990年頃までは世界グランプリも開催されていましたね。あの頃7km近くだったコースレイアウトはほぼそのまま。GP500のレースが最後に行なわれた1990年は、GP500クラスのポールタイムは2分23秒264。ポールシッターはケビン・シュワンツでした。
2022~23年には24時間耐久として行なわれたスパ戦ですが、24年は8時間耐久で行なわれることになり、決勝レースは現地時刻の土曜日13時スタート。21時に決勝レースが終わる、鈴鹿8耐とも違うタイムスケジュールとなっています。フランスの北、ドイツの西に位置するベルギーは、まだその時刻でも薄暮なんですね。ライトオンが義務付けられていない、スパ8時間耐久です。
木曜のフリー走行からはじまった公式スケジュールでは、まず23年のスパ24時間耐久を制した23年チャンピオンチームの#1YARTヤマハがトップタイムをマーク。2番手に#5F.C.C.TSRホンダフランス、3番手に#37BMWモトラッド、4番手に#12ヨシムラSERTがつける展開。
続いて行なわれた金曜の公式予選は、2回の走行セッションで、各チーム3人(TSRホンダはマイク・ディ・メリオを負傷で欠いて2人制でエントリー)ライダーのタイムのうち、速い順から2本のタイムの平均が予選結果となります。3人のライダーは、かつてのように第1/第2/第3ライダーとは呼ばず、腕章の色別にライダーブルー/ライダーイエロー/ライダーレッドと呼ばれるようになりましたね。
その公式予選では、#1YARTのライダーイエロー、マービン・フリッツがコースレコードを更新してトップタイムをマーク。タイムは2分18秒552――34年前の2ストローク500ccのグランプリマシンよりも5秒近く速い!
そして#1YARTは、フリッツのほかカレル・ハニカ、ニッコロ・カネパも2分18秒台に入り、37チームの全ライダーの中で18秒台に入れたのはYARTの3人だけ! #1YARTが、開幕戦ル・マン24時間耐久に続いて2戦連続でポールポジションを獲得し、2番手に2人ライダー制の#5TSRホンダフランス、3番手に#12ヨシムラSERT、4番手に#37BMWモトラッドがつけました。この4チームが、文句なく現在の世界耐久のトップ4ですね。
#11カワサキトリックスターは6番手、そしてこのレースがフル参戦開始2レース目となる#25チームエトワールが、総合10番手でSSTクラスのトップタイムをマークしました! ライダーは今回、渡辺一樹、亀井雄大、大久保光というエトワールのベストな布陣で臨んでいます。
スタートから飛び出すYART!
現地時刻土曜13時にスタートした決勝レースでは、ポールポジションから#1YARTが好スタートを見せるも、1コーナーまでに#12ヨシムラSERTが前に出てホールショットを獲得! ライダーはグレッグ・ブラックで、鈴鹿8耐でも見せたように、ブラックは本当にスタートが上手い! 出場レースのホールショット率、かなり高い数字じゃないでしょうか。このスタートでは、#5TSRホンダがエンジン始動に手間取り、大きく順位を落としてしまいます。
序盤の数ラップは、4番手スタートの#37BMWモトラッドが前に出て、#1YART、#12ヨシムラSERTとトップ争い。その後は#1YARTがトップに立ち、徐々に2番手以降との差を広げ始めます。レースが30分を経過する頃に、スタートで出遅れた#5TSRホンダが追い上げ、トップグループの後方につけ、一時はトップに浮上するほどの勢いを見せます。
#1YARTのピットインのタイミングが早く、正確な順位ではありませんが、レース開始1時間の順位は#1YART→#5TSRホンダ→#12ヨシムラSERT、その10秒以上後方に#37BMWモトラッドの順。
このあたりから#1YARTが2番手以降を引き離し始め、#12ヨシムラSERTと#5TSRホンダが2番手争いを展開するタイミングもありましたが、2スティント目の開始早々に#5TSRホンダが転倒! 再スタートしますが、ポジションを落とし、その後にピットイン。ボックスでマシン修復に時間をかけることになります。
2時間経過時には#1YARTが2番手#12ヨシムラSERTを13秒引き離し、この2台が同一周回。3番手以下は#37BMWモトラッド→#333ホンダビュリタス→#4TATIベルリンガーホンダ、#11カワサキトリックスターが6番手、ピット作業から再スタートした#5TSRホンダは24番手につけています。
#1YARTは早めのタイミングで給油する戦術で、ピットイン中に#12ヨシムラSERTがトップに立つことがあるものの、#1YARTが15秒以上、#12ヨシムラSERTを引き離す展開。8時間耐久といえば、鈴鹿では約1時間に1度ピットインして給油&タイヤ交換をする「7回ピット/8スティント」がトップチームの一般的な戦術ですが、おそらく#1YARTは早めのタイミングでピット回数を増やし、ピット回数=タイムロスが増えるデメリットよりも、燃費を抑えすぎる必要がなく、ラップタイムが期待できるメリットを採ったのだと思います。高速コースであるスパ・フランコルシャンでは、9回ピットよりも10回ピットの方が有利と踏んだのでしょう。
レースが折り返しとなる4時間ごろには、3番手を走っていた#37BMWモトラッドにマシントラブルが発生し、ピットインからマシンをボックスに入れ、修復作業。その後コースインするものの4時間過ぎにリタイヤ届を出しています。
さらに5時間過ぎには3番手を走行していた#11カワサキトリックスターもエンジントラブルでリタイヤ、23年にカワサキ+Webike+トリックスターという体制になって初めてのリタイヤですね。
そして6時間が経過する頃には、#1YARTのピットイン中に、毎回のようにピットインまでトップに立っていた#12ヨシムラSERTがトップに立つシーンがなく、#1YARTがトップのままコースに復帰。この時、#1YARTと#12ヨシムラSERTの差は約半ラップついてしまいます。さらに#12ヨシムラと後続の差は2~3周遅れという展開になってきました。
結局レースはこのまま#1YARTが独走。#12ヨシムラSERTは同一周回とはいえ約1分の差で2番手を走行し、3番手には今シーズンからマシンをホンダにスイッチした#4TATIベルリンガーホンダ、#5TSRホンダは順位の変動こそ激しかったものの、序盤1時間過ぎのタイミングの追い上げ中に大会中ベストラップをマークして5位フィニッシュ。#1YARTが23年大会に引き続き、スパ・フランコルシャン2連勝。2位40秒差で#12ヨシムラSERTが入り、3位には#4TATIベルリンガーが入賞したレースとなりました。
#1YARTはやはり#12ヨシムラSERTや#5TSRホンダよりもピット回数が1回多い「10回ピット」で優勝でしたね。この優勝で、シリーズポントでトップに立つ#12ヨシムラSERTに1ポイント差まで迫り、ランキング2位につけたレースとなりました。
次戦は7月21日に決勝を迎える鈴鹿8時間耐久レース。日本の強豪スポット参戦チームを相手に、ヨーロッパの耐久チームがどういった戦いぶりをするのか、という注目ポイントが増えましたね。
チームエトワール、目標へ一歩ずつ!
そして、純日本チームとして注目度の高い#25チームエトワールですが、SSTクラスポールポジションからのスタートだったものの、2スティント目にガス欠症状に見舞われ、約3ラップ分のタイムロス! それでも一時は30番手あたりまで落とした順位をラップごとに取り戻し、総合13位/SSTクラス6位まで追い上げてチェッカーを受けました。
「まずは24時間耐久を完走できるチームにして、トップ10やトップ6争い、そこから表彰台やSSTクラス優勝を狙うチームを目指したい」という、チームエトワールの市川貴志監督の言葉が、一歩ずつ実現しているように見えます。チームエトワールにも、鈴鹿8耐で会えます!
世界耐久選手権シリーズポイント(2戦終了時)
①ヨシムラSERT MOTUL 88P ②ヤマルーブYARTヤマハEWCオフィシャルチーム 87P ③TATIベルリンガーレーシングホンダ 54P ④BMWモトラッドワールドエンデュランス 53P ⑤ボリジャースイスカワサキ 43P ⑥カワサキWebikeトリックスター 39P
写真/EWC YAMAHA 文責/中村浩史