発進から停止までクラッチ操作が不要、というホンダEクラッチシステム。外観上はエンジンの一部を除いて普通のMT車なので、ビジュアル的には違いもスゴさも分かりにくいが、乗るとそのイージーさ、走る楽しさがよく分かる! ということで、ここでそんなEクラッチについておさらいしてみよう。
文:太田安治

【解説】ホンダEクラッチ(Honda E-Clutch)の特徴

画像: ▲ホンダ 「CB650R Eクラッチ」 のエンジン周り。

▲ホンダ「CB650R Eクラッチ」のエンジン周り。

誰でもスムーズな走りを実現できる革新的機構!

注目されているホンダEクラッチだが、個人のブログやSNSを見ると、自動遠心クラッチやオートマチック、クイックシフターと混同している人も少なくないようだ。

オートバイのクラッチはエンジンで発生した動力をミッションに伝達/遮断する役割を担う。クラッチユニットはエンジンのクランクケース内にあり、円筒の中に素材の異なる円盤を交互に複数枚重ねて収めた構造。通常はクラッチユニットに留められたスプリングが伸びる力で円盤同士を押し付けてクラッチが繋がった状態を保っているが、クラッチレバーを握るとスプリングが縮んで円盤の間に隙間が空き、クラッチが切れる。

クラッチが動力を100%伝達している状態を「繋がる」、0%を「切れる」とすると「半クラッチ」は1%から99%の状態。レバー操作とエンジン回転数のバランスに慣れるまでは発進時にエンストしたり、逆に急発進してしまうこともある。Eクラッチは0~100%までのクラッチ操作をモーターで制御し、誰でもスムーズな発進/加速、シフト操作が行える革新的な機構だ。

画像: 【解説】ホンダEクラッチ(Honda E-Clutch)の特徴

カブ系モデルやダックスが採用する自動遠心クラッチはエンジンの回転数に伴って増減する遠心力を利用し、クラッチユニット内のウエイトを移動させて機械的にクラッチを断続させる仕組み。シンプルな構造がメリットだが、変速時はシフトペダルの操作が必要。クラッチの断続を遠心力に頼っているため、緻密な半クラッチ制御はできない。

DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)はクラッチの断続とシフトアップ/ダウンをすべて制御する完全なオートマチック。発進から加減速まで必要なのはスロットル操作だけで、感覚的には自動車のATに似ている。遠心クラッチとDCTは共にクラッチ操作不要(クラッチレバーがない)で、これを搭載するモデルは当該排気量のAT限定免許で乗れる。

クイックシフターはクラッチの作動には一切介入しない。シフトペダルの操作を検出すると瞬間的に点火や燃料噴射をカット、駆動力が途切れることでギアの噛み合いが緩み、素早くスムーズなシフトを可能にする。

対してEクラッチは通常のマニュアルクラッチにモーターによる制御機構を加えたもの。クラッチを握る必要がなく、操作の流れは自動遠心クラッチと同様だ。

画像: 【Honda Technology】Honda E-Clutch クラッチ制御作動イメージ www.youtube.com

【Honda Technology】Honda E-Clutch クラッチ制御作動イメージ

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クラッチレバーがなくても機能するが、マニュアル操作による「操る楽しさ」が目的なのでクラッチレバーも装備している。CB650R/CBR650RのEクラッチ仕様はシフトアップ側のクイックシフターも組み合わされている。

Eクラッチはエンジン回転数や車速、ギアポジション、スロットル開度、そのほかの運転状況を検出してMCU(モーターコントロールユニット)が最適なクラッチ操作を行うので、発進はシフトペダルを踏み込んでスロットルを開くだけ。慣れるまではついレバーを握ってしまうが、レバーを握ればアシストが一時的にキャンセルされて普通のクラッチとして機能するので何ら問題はない。

CB650R/CBR650Rの場合、2200回転あたりからクラッチが繋がり始めて穏やかに発進し、微速でのUターンもやりやすい。そしてスロットルをワイドに開けばパワーの出る回転域をうまく使って猛然とダッシュする。この半クラッチ操作の巧みさには感心させられる。HSTC(トラクションコントロール)も備えており、全開加速でもウイリーやホイールスピンの心配もない。

シフトアップではクイックシフター+微妙な半クラッチ制御で変速ショックをほとんど感じさせない。CB/CBRはシフトダウン側のシフターを持たないためブリッピングが入らないが、半クラッチ制御が変速ショックを低減し、車体の挙動が乱れにくい。

発進/停止の多い市街地やツーリングならEクラッチに頼り切っていい。電子制御による違和感がなく、走り終わってから「そういえば今日はクラッチ操作をしなかったな」と気付くような仕上がりだ。

あえて弱点を挙げるなら、半クラッチ制御の介入でシフト直後のダイレクト感が薄れること。しかしスイッチ操作でオフにすれば通常のマニュアル車とまったく同じになり、サーキットライディングも存分に楽しめる。

オートバイを操る楽しさを一切スポイルせず、ライダーの負担を減らしてくれるEクラッチは革新的な技術。今後、搭載車種が増えることを大いに期待している。

画像: 【Honda Technology】Honda E-Clutch www.youtube.com

【Honda Technology】Honda E-Clutch

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【図解】Eクラッチの構造

下図がホンダEクラッチシステムの概略図。CB650R/CB650Rの場合、通常のMT車同様、ケーブルを介してクラッチとレバーが繋がっているが、そのクラッチの操作を行なうレリーズ部分にモーターが付加され、そのモーターをコンピューターで操作する仕組みだ。

画像1: 【図解】Eクラッチの構造

手動時は普通のMT!

これはEクラッチをOFFにした完全手動モードの時のシステム概略図。ECU、MCUの制御が入らない、普通のマニュアルミッションだ。

画像2: 【図解】Eクラッチの構造

発進から停止までクラッチを制御

EクラッチがONになると、ECUからの車両情報をもとにMCUがモーターを制御してクラッチレリーズを動かしてクラッチ操作を行なう。

画像3: 【図解】Eクラッチの構造

クラッチを握れば即座にOFF!

ライダーがクラッチレバーを握るとシステムに強制介入してモーターが停止、即座にクラッチ操作をMT車と同様に手動で行えるようになる。

画像4: 【図解】Eクラッチの構造
画像1: ホンダ「Eクラッチ」徹底ガイド|クイックシフター・DCT・自動遠心クラッチとの違い、仕組み、使い方、メリットまで一挙紹介

Eクラッチ作動時はメーター右端の緑のインジケーターが点灯。あらかじめシステム自体をOFFにして、完全なMT車としても使える。

【一覧表】各トランスミッションとの操作の違い

画像: 【一覧表】各トランスミッションとの操作の違い

EクラッチとDCT、自動遠心クラッチとの違いが分からない、という人は上の表を参照してほしい。操作する方法に関しては、Eクラッチは自動遠心クラッチとまったく同じだが、Eクラッチの場合はクラッチをマニュアルコントロールできるのが一番の違いだ。

文:太田安治

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