ヤマハ「XSR900 GP」の思わず目を止めてしまう、そのスタイリング。懐かしくもあり新しくもある、XSR900 GPの魅力的なデザインはどのように生み出されたのか。担当デザイナーの2人に話を聞くことができた。
文:オートバイ編集部/写真:松川 忍、南 孝幸、井上 演
画像3: ヤマハ「XSR900 GP」デザイナーインタビュー

デザインしたのはXSR900 GPが生み出す世界観

「実は今回、XSR900 GPのデザインをフルデジタルでやっていまして、このクラスでは珍しくクレイモデルを造りませんでした。この時代(1980年代)のデザインは、今のシャープなエッジのバイクとは違って、かなり表情豊かな面を持っていますので、それをデジタルのみで再現するのは困難が付きまといました。このプロジェクトに取り組んでいる当時はコロナ禍で、東京と磐田という距離があるなかで現物を見ながらやるというのは困難だったため、どうしてもデジタル上で完結しなきゃいけないという状況でもありました(竹﨑氏)」

「データで作ってみたものを発泡スチロールで削ってみるとどうも印象が違う。多分、それはデータ云々というよりも、見る側の力がまだなかったんです。ですので、いかにリアルな状況で見ているように出来ないかと、CGを作りそれをVRを使って1/1のサイズで確認するという手段を選択しました(下村氏)」

「実車とモニター越しの画像との違いはどうしてもあって、画像は基本的に水平もしくはちょっと斜め上ぐらいがかっこよく見えるんですけど、実際、人間というのは立って上から見ることが多くて、バイクって結構低い位置なんです。なのでVRを使って改めて少し上から見下ろす角度でちゃんと造形が成立しているかを確認することが必要でした。デザインし過ぎないというのもポイントで『Less is more(レス イズ モア)』(※少ない方が豊かである。ドイツ出身の建築家、ミース・ファン・デル・ローエの言葉)の考え方はXSRシリーズを通してあって削ぎ落しの美である台形形状に収まるようにしました。これは足まわりがしっかり見えて、ボディがコンパクトに見えて、モーターサイクルの力強さを表現するためです。また、現実の車両というのは塗装のよれや、ボディラインの歪みはあるのでデジタルを活用しても綺麗に見えすぎないようにしました。サイドカウルの端面の薄さもこだわりで、通常は折り返しや蓋がつきますが、再現という意味でぼろ隠しは最小限にしています(竹﨑氏)」

「単純なラインも微妙なニュアンスを追加していくことで『味わいのある』デザインに繋がります。今のデザイン基準で言ったらステーも作ってる途中かなと言われちゃうかもしれないですけど(笑)。このような当時は野暮ったいと思われていた部分も今なら『丁度良い』『かっこいいな』となるところを体現したいと思っていました(下村氏)」

「1980年代GPマシンと言っても単一年式には絞っていませんし、イメージするヒーローライダーも決めていません。実はテールカウルは、マシンや年代によって特徴がありすぎるのでデザインもぼかしています。断定しないことで、ご贔屓のライダーが乗っているところをイメージしてもらえたら良いと思います。1980年代にヤマハのレーシングヒストリーを体験した世代だけでなく、レースの知識はなくても190年代の雰囲気に興味がある若年層にも、この世界観は楽しめると思います(竹﨑氏)」

画像: 終始楽しそうに話をしてくれたお二人からは自信が伝わる。「当時の質感を再現しつつ、現代の機能性とクオリティを両立させた1台です。ぜひ、楽しんでください」。

終始楽しそうに話をしてくれたお二人からは自信が伝わる。「当時の質感を再現しつつ、現代の機能性とクオリティを両立させた1台です。ぜひ、楽しんでください」。

モチーフはGPマシン・YZR500

画像: YAMAHA YZR500

YAMAHA YZR500

もしかすると、どこのメーカーなのかも乗っている人が誰なのかも分からない、でもエネルギッシュでエキサイティングだったレースシーンが浮かんでくる、そんな「あの頃」を具現化するために、モチーフとして選ばれたのが1980年代のGPマシン・YZR500(1983-88)。

「コミュニケーションプラザに1980年代の世界GP車両が並んでいたのは我々にとって幸運でしたね。気になる点があれば、当時のGPマシンが現物ですぐに確認できましたから(竹﨑氏)」。

画像1: 【デザイナーインタビュー】ヤマハ「XSR900 GP」|雰囲気で形作るのではなく細部にまでこだわることで生まれたGPマシン感

イメージスケッチには、ヘッドライトを隠してレーシングイメージを高めるデザイン、1980年代GPマシンをオマージュしたセパレート式ナックルガード、アンダーカウルの存在を意識させるカットラインなどが描かれている。

デザインコンセプトは“Manners maketh man” 1980年代への敬意と現代の誠意

ベースとなる「XSR900」のバーハンドルからセパレートハンドルへと変更されたことで、ライディングポジションも全面的に見直された。ハンドルの垂れ角や絞り角はコンマ数度単位の変更を繰り返しトライ。それに合わせてシート形状やヒップポイントもミリ単位で調整して最適な位置を探った。ステップの高さや前後位置も同様にバランスを図り、走行時、体の一部に負担が集中しないようにも工夫されている。もちろん、人馬一体となった乗車姿勢の美しさもポイントだ。

画像2: 【デザイナーインタビュー】ヤマハ「XSR900 GP」|雰囲気で形作るのではなく細部にまでこだわることで生まれたGPマシン感

デザインのオマージュとしてGPレーサーはあるものの、車体そのものはレースやサーキット走行を中心にイメージしたモデルではない。そのため。セパレートハンドルでありながら過度な前傾にならないように位置が決められた。あくまでもツーリングやワインディングをメインとしたシチュエーションでの軽快な走りを演出している。

画像3: 【デザイナーインタビュー】ヤマハ「XSR900 GP」|雰囲気で形作るのではなく細部にまでこだわることで生まれたGPマシン感

ライディングポジション(XSR900と比較) 
ハンドル:93mm 前方へ/114mm 下方へ 
座面:12mm 前方へ/27mm 上方へ 
ステップ:26mm 後方へ/26mm 上方へ

画像4: 【デザイナーインタビュー】ヤマハ「XSR900 GP」|雰囲気で形作るのではなく細部にまでこだわることで生まれたGPマシン感

すべてのパーツが1980年代を感じさせる要素

画像5: 【デザイナーインタビュー】ヤマハ「XSR900 GP」|雰囲気で形作るのではなく細部にまでこだわることで生まれたGPマシン感

今のスーパースポーツと違い丸みのある形状が当時のカウルの特徴で、ナックルガードは1970年代にはなかったが1980年代の進化で生まれたもの。アンダーカウルの存在を意識させるハーフカットなボディカウルやステー先端のアルミナットやカラー、カウルを留めるベータピンの採用など、それら全てが1980年代を感じさせる要素となっている。燃料タンクは現行XSR900から採用されているが、こちらも1970〜80年代にかけて活躍したレーシングマシンと直接比較して作り込まれたものだ。ただし、カバーの形状はXSR900 GP専用だ。

画像6: 【デザイナーインタビュー】ヤマハ「XSR900 GP」|雰囲気で形作るのではなく細部にまでこだわることで生まれたGPマシン感
画像7: 【デザイナーインタビュー】ヤマハ「XSR900 GP」|雰囲気で形作るのではなく細部にまでこだわることで生まれたGPマシン感
画像8: 【デザイナーインタビュー】ヤマハ「XSR900 GP」|雰囲気で形作るのではなく細部にまでこだわることで生まれたGPマシン感

コクピット回りのデザインにもこだわる

画像9: 【デザイナーインタビュー】ヤマハ「XSR900 GP」|雰囲気で形作るのではなく細部にまでこだわることで生まれたGPマシン感

比較的無骨でありつつも現代風にステーとして使えるように穴を空けたメーターステーや、トップブリッジ上面のボルトデザインなど所有者が最も目にすることになるコクピットまわりにアイデアがつまっている。フルカラー5インチTFTメーターを採用しているが、アナログ風のタコメーターを中央に配したXSR900 GP専用画面を用意。当時の雰囲気を忠実に再現するために、メーターに使われている文字フォントはあえて昔のものを採用している。

画像10: 【デザイナーインタビュー】ヤマハ「XSR900 GP」|雰囲気で形作るのではなく細部にまでこだわることで生まれたGPマシン感
画像11: 【デザイナーインタビュー】ヤマハ「XSR900 GP」|雰囲気で形作るのではなく細部にまでこだわることで生まれたGPマシン感

ヤマハ「XSR900 GP」主なスペック・燃費・製造国・価格

全長×全幅×全高2160×690×1180mm
ホイールベース1500mm
最低地上高145mm
シート高835mm
車両重量200kg
エンジン形式水冷4ストDOHC4バルブ並列3気筒
総排気量888cc
ボア×ストローク78.0×62.0mm
圧縮比11.5
最高出力88kW(120PS)/10000rpm
最大トルク93N・m(9.5kgf・m)/7000rpm
燃料タンク容量14L
変速機形式6速リターン
キャスター角25゜20′
トレール量110mm
ブレーキ形式(前・後)ダブルディスク・シングルディスク
タイヤサイズ(前・後)120/70ZR17M/C(58W)・180/55ZR17M/C(73W)
燃料消費率 WMTCモード値21.1km/L(クラス3・サブクラス3-2)1名乗車時
製造国日本
メーカー希望小売価格143万円(消費税10%込)

文:オートバイ編集部/写真:松川 忍、南 孝幸、井上 演

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