文:オートバイ編集部/写真:松川 忍、南 孝幸、井上 演
ヤマハ「XSR900 GP」デザイナーインタビュー
黄金期のGPヒストリーをより色濃く反映していきたい
2023年7月「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」で公開された「XSR900 DB Prototype」。カラーリングはモノトーンで、決して「当時」を感じさせるカラーではなかったが、ハーフフェアリングのその独特な姿は、1980年代の雰囲気を漂わせていた。
その後、正式に発表されたモデルは、YZR500を思い起こさせる決定的なカラーリング「レジェンドレッド」だった。このカラーリングをひと目見て1980年代グランプリレーサーがこのモデルの強力なキーワードであることを理解し、引き寄せられた人も多いはずだ。
「1980年代をフィーチャーしたモデルを造りたいという考えが以前からありました。欧州では日本の音楽をアレンジしたシティ・ポップなどがカルチャーとして流行った背景もありましたし、モータースポーツ史を振り返っても1980年代は黄金期。YZR500が繰り広げた名勝負というのは、今のヤマハを形成する重要なファクターだったわけです。当初は、レプリカを造る意見もありましたし、丸目のヘッドライトだったり、黄色/黒のストロボカラーだったりと、色々と検討した時期もありましたが、そういう話し合いの中で『GPレーサー』へとどんどんと意見が集約されていきました。意見が集約されてイメージターゲットが決まれば造るものは明確になっていくものなので、この段階で目指す形は実質決まりました(下村氏)」
いかにGPマシンのデザインを現代風に昇華させるのか
「デザインのコンセプトは1980年代のGPマシンをオマージュしながら、現代的な解釈を加えることでした。我々は決してレプリカが作りたかったわけではなく、1980年代のGPマシンが持っているイメージの良さだったりシルエットを、いかに現代風に昇華させたものを形作れるか、この思いで企画を進めてきました。最先端のレーシングカテゴリーとは違う形で、ヤマハのレーシングヒストリーを現在のモデルで表現するといったイメージです。2022年にモデルチェンジしたXSR900の段階で、かつてのレーシングマシンの機能や佇まいを現代風に解釈していまして、イメージや雰囲気だけのヘリテージモデルではないというのがヤマハの姿勢です。そして、今回のモデルが〝GP〟と名乗るのであれば、よりヘリテージレーサーとしての純度を高めることを考えました。ですから、ボディカウルやクリップオンハンドルは必然というか、デザインとしては引けないところでした(下村氏)」
純度を高めるというのは、いかに当時の車両のGPマシンを形成している特徴を分析し、組み込めるかということ。理解して分解して構築する。「Manners maketh man」。単なる模倣であるならば、きっと必要とされない「敬意を重んじる姿勢」がそこにはあった。
「我々が幸運だったのは、通常なら当時のあらゆる資料や写真を集めて、話し合わないといけないわけですが、デザイン的に迷うことがあってもコミュニケーションプラザに行けばGPマシンの現物が確認できて、ヒントを得られましたから。各年代毎に並べてあるので、グラデーションに見えると言いますか。平均値みたいなものも見えて、より特徴が明確になっていきました。カラーリングに関しては、この色にしてほしいというオーダーがあったわけではないですが当時のGPマシンを形成する特徴として『やっぱりこの色味だよね』というところもあって、要所要所のスケッチチェックの際には赤/白のカラーを挟ませていただきました(竹﨑氏)」
「通常ですとプロジェクトのスケッチは単色で書くことが多いんですがXSR900 GPに関しては、色も含めてコンセプトのひとつであると考えていましたので、色のついたスケッチも良しと言いますか、逆にお願いしているような感じでもありました。カラーリングは塗り方で予算が大幅に変わるのですが、このモデルに関してはカラーリングに特別な思いもありましたので、前もって通常より多くのカラーリングコストを予定していました。そのおかげでアイコニックなカラーの再現ができましたし、将来もこういうカラーリングを可能にする土壌が作れました。フレームの色にもこだわりがあって、MT-09と共通なので本来はブラックなのですが、デルタボックスアルミフレームの雰囲気を出すために、課題は多くありましたがシルバーに塗るという選択を行いました(下村氏)」