SSTR(サンライズ・サンセット・ツーリング・ラリー)が人気イベントへ成長したのを皮切りに、新たなツーリングラリーイベントが続々と開催される昨今。そこに富士山(静岡県)、立山(富山県)、白山(石川県)を繋ぐ「日本三霊山ラリー」が新たに加わった

富士山5号目から、山伏が吹く法螺貝の号砲と共に始まる新ラリー

日本三霊山ラリーは2024年10月26日(土)〜27日(日)に開催される。日本人には馴染みの深いこの山々をつないだ三角形のルートを「中部トライアングルルート」と名付け、そのトライアングル内に設定されたWP(ウェイポイント)を経由しながら走るツーリングラリーだ。もっとも、ダカール・ラリーなどのWPとは異なり、どれを辿るかは参加者自身が決める、フリールートラリーである。

他にもSWP(スペシファイド・ウェイポイント)と、立ち寄りが必須のポイントなどもあるが、詳しくは公式Webサイトなどをみていただきたい。

今回、私、風間晋之介は、このラリーイベント開催に先駆けて、ヤマハが誇るアドベンチャーバイク、テネレ700でルートを巡ってみることにした。立てたスケジュールは以下の通りだ。

スケジュール
日程:2024年7月26日(金)〜27日(土)

【1日目】
6:00 自宅出発

7:30 富士山御殿場口駐車場着
・登山口で入山料納める(1000円:三霊山ラリーの参加費が3776mの富士山の標高にちなみ、3776+各山1000円の入山料という名目で加えて6776円としている)
・5合目から徒歩15分ほどの茶屋まで登る

9:30頃 雲海を眺めながらスタート

●浅間神社を巡り、湧き水を汲む

11:30 うなぎパイファクトリー(立ち寄りのみ)

13:00 天竜二俣駅立ち寄り

152号を北上、設楽、恵那、下呂、高山を抜けて富山まで

【2日目】
富山駅付近からスタート

●石倉町の延命地蔵の水を汲む

北前船主廻船問屋

旧馬場家

雄山神社 前立社壇

立山駅

●白山比咩神社 水汲み

★ゴール地点:白山一里野温泉スキー場 到着
山頂で各山三山の水でコーヒーを淹れてフィニッシュ!

1日目

画像1: 1日目

富士山御殿場口新5合目、ここが日本三霊山ラリーのスタート地だ。ラリーのスタートは午前7時30分と早めに予定されている。

前夜まで仕事に追われ、何とか予定時刻までに辿り着いた僕はスタート地の絶景にしばし息を呑んだ。そこから徒歩で10分も登れば、森林限界を迎え、樹木はほとんど姿を消す。先ほどまでの緑豊かな景色が一変し、視界は火山岩に囲まれた灰色の風景と、どこまでも続く青い空、そして真っ白な雲で満たされる。

標高1450m、雲海が広がる富士山の裾野を見下ろし、朝焼けのなかでスタートを待つ気分はきっと格別に違いない。そもそも個人的なツーリングなら、こんな時間にこの場所へ来ることすらないのではないか。

画像2: 1日目

普段の生活ではそうそう目にすることができない風景に秘境の趣を強く感じる。これほど手軽に日常と異なる風景を味わえる場所は他にないだろう。

せっかくなので登山口で1000円の入山料を納め(任意の金額)、その先の大石茶屋まで登った。日本三霊山として知られるこの三つの山は、古くから山岳信仰の象徴として、多くの人々に敬われ、そして畏怖の対象ともなってきた。「霊山」と聞くと少々身構えてしまうが、要するに人知の及ばない偉大な自然の象徴である。だから、常に自然と向き合いながら走っている我々ライダーが、山々のエネルギーに惹かれるのは、ごく当たり前の心情なのかもしれない。霊山はライダーにとってもリスペクトの対象なのである。

富士山を出発してまず訪れたのは、富士山本宮浅間大社だ。

画像3: 1日目

三霊山の恵みの最たるものが湧水。今回の旅はその水を汲むこともテーマである。いずれの山にも湧水スポットがあり、浅間大社もそうした場所のひとつ。境内にある湧玉池では誰もが富士山の恵みを口にすることができる。冷たい湧き水は身も心も芯から癒す、まさに自然からの贈り物である。

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湧水スポット巡りは早くも1/3をクリアした気分だが、旅はまだまだスタートしたばかり。参拝を済ませて先を急ぐ。一路、西へハンドルを切り、静岡県内を走ってみることにした。時間の都合上、海岸線の道には出なかったが、余裕があれば海沿いを走るルートを組むのもいいだろう。

画像5: 1日目

駿河湾、大井川を横目に西へ走り続け、浜松周辺のWPをいくつか巡っているとあっという間に昼時だ。浜松といえば当然あれだろう。そう、浜松名物の鰻だ。一緒に茶羊羹なるものもいただき、既に満足しきった心持ちで天竜川を上流に沿って走る。川沿いのワインディングと自然豊かな風景に心がおどる。

海外からやってきたライダーが日本をツーリングすると、その豊かで変化に富んだ自然風景を誰もが口を揃えて絶賛する。川に沿って走ったかと思えば、山間部を抜ける道に変わり、あるいは田畑を超え、あるいは海を望み……。緑が与える空気の変化も魅力のひとつらしく、ある女性ライダーはその湿度が最高と話していた。

そんな日本の自然の深部へ分け入り、富山を目指してアクセルを開ける。

道中の景色は素晴らしく、あらためて日本の良さを全身で感じながら走り続け、富山に着くころにはもう日が暮れていた。ここを1日目のゴールとしたが、路面電車が走る駅周辺の風景がどこか懐かしく、いい旅を演出してくれる。

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2日目

2日目の朝は水汲みから始まった。富山駅から程近い延命地蔵の水という水を汲みに行ったのだが、僕が到着して間もなく、大勢の人が水汲みに現れた。聞けば毎日汲みにくる人や、大きな容器を持って1週間に一回は来るという人など、大人気の水場だった。

画像1: 2日目

延命というありがたい水をいただき、一旦、立山と逆方向の日本海へ出てみる。歴史ある北前船の船問屋が並ぶ富山湾を巡ると、当時の建造物からその時代を生きた人間の思考に触れた気がした。後ろ髪をひかれながら先に進む。

立山では、標高を上げるほどに気温の変化をダイレクトに感じられる。そして匂いも変わる。これぞバイク旅という気分で、立山駅まで一気に登ってしまった。ケーブルカーの駅である立山駅はハイキングを楽しむ観光客の車ですでに一杯だった。立山駅の真横には湧き水があり、そこでも立山の大自然の恵みをいただいた。

画像2: 2日目
画像3: 2日目

スーパー林道ならぬスーパー農道、そんなものを走ったのは実は初めてである。田畑の間を抜ける非常に走りやすい道路が立山から白山の間にはあったのだ。

いよいよ最後の石川県に入ると、これまでとはまた別の風景が広がる。兼六園や近代美術館、金沢城など観光名所多い金沢だが、今回はそのまま通り過ぎ、石川県の中でも少し南にある白山市を目指す。

幹線道路を避け、山側の道路を進む。日本海までかなり距離があるのに山側の少し小高い場所だと日本海が望める、こうした景色はこの場所ならではだろう。

白山比咩神社、ここで最後の湧き水をいただく。

画像4: 2日目

山岳信仰には、山登りを行う登拝(とうはい)と、眺めて拝む遥拝(ようはい)がある。いつか自分の足ですべて頂上を極めながら巡りたいものだ。

遥拝の中にも、富士山では周辺の風穴を「あの世」と定め、風穴に入ることで一度その魂をあの世へ連れて行き、再び「この世」に戻ってくることで「生まれ変わる」とする遥拝の方法があるという。

霊山巡りは、自分を見つめ直し、心機一転、新たな歩みを始める旅なのだ。昔ならば歩いて三霊山を巡るしかなかったのだろうが、僕たちはバイクという文明が生み出した最高に楽しい乗り物で巡ることができる特権がある。

話はそれたが、日本三霊山ラリーは走る人によって楽しみ方はさまざま。ポイントを楽しむラリーにするか、生まれ変わる思いを達成するラリーにするか、はたまた各地の恵みをいただきながらのありがたいラリーにするか、そして、田舎道を走ることで見られる日本の古き良き生活や、自然との暮らしを学びながら走るラリーにするか。十人十色で楽しめるのだ。

そして迎えた旅のゴールは白山一里野温泉スキー場。緑広がるゲレンデで辿り着いた喜びを噛み締める。スキー場の頂上まで舗装された道路が続いているので登ってみる。山頂で今回の旅の土産、三山の湧水でコーヒーを淹れることにした。実際に各地を巡って汲んだ水で淹れるコーヒーは格別の味だ。あえて味の比較はしないが、こうして自分の足で得たモノの味や満足感は何にも勝るものである。こんな楽しみ方もぜひ挑戦してみていただきたい。

丘の上でバイクにまたがっている人自動的に生成された説明
草の上に置かれた水のボトル低い精度で自動的に生成された説明
屋外, 草, 山, 水 が含まれている画像自動的に生成された説明

画像5: 2日目

ゲレンデ中腹にはキャンプ場もあり、大自然のど真ん中でテントを張り、満点の星空を眺めながら眠りにつくのも至高の時を過ごせるだろう。ホテルやペンション、民宿などもあるため、思い思いの夜を過ごし帰路に着くのもよし、SSTRのゴール地である千里浜なぎさドライブウェイを快走して帰るのも良いだろう。

各チェックポイントをどのように組み立てて走っていくか。富士山・立山・白山を一気に駆け抜けるという巨大な目標をどのようにクリアしていくか。ルーティングの時点で楽しみが多く、バイクという乗り物の奥深さと、自然豊かな日本のフィールドの深さに唸りつつ、生涯続くバイクライフの無限の可能性を更に広げた旅であった。

総距離:約720km

自宅〜富士山(60)
富士山〜浜松(170)
浜松〜下呂(170)
下呂〜富山(130)
富山〜北前船(7)
北前船〜立山(40)
立山〜白山(140)

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