※本企画はHeritage&Legends 2024年3月号に掲載された記事を再編集したものです。
今のm-techが分かる近作のGSX-R2台
かつてはレースメカニックとしてJSBや鈴鹿8耐などに参戦、並行して’02年にm-techを開店した、同店代表の松本圭司さん。
「開店当時はまだカスタムブームの真っ最中で、当時の主流はRKや後期型、17インチを履く油冷のGSX-Rでした。時代は下って今はむしろ、油冷では18インチの前期型を、という声が多くなりましたね。いずれにせよウチは中古車を販売するにも、まずは極力スタンダードの状態を復元して、ベストコンディションで乗り出せる車両を作る。ウチは量販店ではないし、整備もカスタムも、そしてチューニングの相談にも乗る。そうこうするうちに純正部品の廃番化が進んで、あれが足りない、これが足りないとなって次々とリプロパーツをラインナップすることになった。それが実情なんですよ」と、松本さんは笑う。
そのように油冷GSX-Rの販売やカスタムが主体となっているわけだが、松本さんの“ウデ”を頼って現行車を持ち込むユーザーも少なくない。紹介してくれた’16年型GSX-Rもそんな1台かと思えば。
「いや、もともと油冷車に乗っていたオーナーさんなんですよ。今のGSX-Rに興味を持たれて、新車購入となったんです。
とにかくライディングに集中できるようにしたい、走る、止まる、曲がるを突き詰めたいとカスタムの相談をいただきましたが、まずエンジンは今どきのスーパースポーツですからパワーは十分。ブレーキもそこそこ止まりますから、最初は前後サスから手を付けました。走るし止まるから、“曲がる”から手を付けたわけです。そして、ブレーキ、ホイールの順。良いパーツもただ付けただけでは乗り味もちぐはぐになりますから、そこはきちんと順番を決めて、ウチがモータースポーツで培ったノウハウで、バランスを見ながらセットアップしていった車両なんです。
ただ、オーナーさんは走りにどん欲な方で、今は最終型のGSX-R1000に乗り換えて、この車両はFOR SALE(笑)。同様の指向の新しいオーナーが見つかるといいのですが」(松本さん)
そしてもう1台、ここで紹介する国内限定500台で販売された、’89年型GSX-R750RKの方は、油冷機に寄り添う同店のスタンスが読みとれる車両だ。
「このRKは業者オークションで落札した車両なのですが、オドメーターも7000km程度と、コンディションの良い1台だったんです。RKを探しておられた関東のお客さんが購入してくれました。相談の上、専用のFRP外装のリペイントに始まり、ウチで販売中のリプレイスパーツ群も全投入しながら、新車時の乗り味を再現するのがテーマ。実はようやく仕上がったばかりなんです。
この仕上げに合わせて、一旦休止していたオリジナルのチタンフルEXも復活させました。今回はエキパイをミラーフィニッシュ仕様として、オーナーが乗り込んで焼き色を付ける仕様としています。これもチタンEXを手にした人だけの特権ですから、ゆっくり楽しんでほしいですよね」(同)
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注目集まる前期型油冷機も直すならラストチャンス
そんなm-techが今、力を注ぐのが油冷GSX-R750。しかも’87年型までのいわゆる前期型だ。
「少し前から中古車の問い合わせや修理の相談が増えまして。やはりルーツモデルってことも人気に拍車をかけるのでしょうか。“もう一度、乗りたい”という声も多くいただいているんです。
ただし、当時あれほどの人気モデルだった750も、今となっては残存する個体は少ない。しかも良質な車両が手に入れられるかは推して知るべし」と松本さん。当然だが前期型750も純正部品の廃番は進んでいて、シャキッとした乗り味を取り戻す作業ができるのも、実は今がラストチャンスかもしれないと続ける。
「車体まわりはアフターパーツでしばらくはなんとかなるのでしょうが、気にしたいのはエンジンです。部品価格こそ高騰しましたが、バルブまわりもまだリフレッシュできる。問題はカムチェーンスライダーで、これはすでに廃番で代替パーツもない。この先は中古パーツを使い回すしかないんです。ウチでもダメージの少ないものをストックしていますが、それはウチから乗り出していただいたお客さまの修理や、これから仕上げる中古車ためのもの。
樹脂モノでいえばゴムパーツのインシュレーターももう出ません。これも困った問題ですので、なんとかリプレイスできないか、検討している最中なんです」(同)
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m-techが進めるパーツ開発の現在位置は
そんな厳しい環境下の一方で、m-techでの油冷GSX-R向けリプレイスパーツ開発は止まることなく続いている。
昨秋導入した高機能3Dプリンターを駆使しての、樹脂パーツの多品種少量生産プロジェクトで専用カプラー部を再現することで、750J〜L(’88〜’90年型)と1100K/L(’89/’90年型)用のメインハーネスをいよいよ製品化。前期型向けの完成も近い。(※編注1・2024年7月末現在、GSX-R750/1100の前期型用もラインナップに加わっている)
また、アフターマーケットに対応のない前期型750向けリヤショックも、ハイパープロの扱い元・アクティブと開発の真っ最中。
「樹脂パーツのリプレイスは耐久性の実証テストもしなければなりませんから、しっかりと確実に進めていきたい。ハイパープロの油冷前期型用リヤショックに関しては、今さらサーキット走行もないでしょうから、ハイパープロが得意とするストリート向けのセットアップでの製品化を進めています。こちらの方が早く世に出せるかもしれません」(松本さん)
今回紹介した、m-techによるリプレイスパーツ群も、松本さんが思い描く構想のごく一部だ。「大好きな油冷GSX-Rを、ユーザーにも少しでも長く、安全に楽しんでほしい」。そんなm-techの今後の動向も注目されたい。(※編注2・こちらも、GSX-R750[F/G/H/RR]、GSX-R1100[G/H/J]用が同店の専売品として販売中だ)
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前期型GSX-R750のウィークポイントも対策しリプレイスパーツを用意する
純正ステダンは効力を期待すべきでない
その経年を考えれば純正装着されたステアリングダンパーがヌケてしまっているのは当たり前。ともすれば、ハンドリングに悪影響さえ与えかねない。m-techではハイパープロ製ダンパーを使ってのリプレイス品の開発を検討中だ。
ストリートでの乗り易さを主眼とした前期型ナナハン用リヤショック
ハイパープロの扱い元・アクティブと協力して油冷前期型750向けリヤショックを開発中。同ブランドが特長とするストリートでの扱い易さを重視。写真は試作のスチール製ボディだが、製品はアルミ製に。
商品化のため整備中だった油冷前期型GSX-R750。仕入れ時に付いていたリヤショックはビチューボ製ショックだったが、現在は対応品がない。上のハイパープロ製はそうした環境を打開するため開発しているわけだ。(※ハイパープロ製リヤショックについては前出、編注2を参照)
タンクを支持するゴム製のマウントラバーもすでに廃番
ステダン同様、経年劣化で硬化したフューエルタンクのマウントラバーも、もはや純正部品が出てこない。こうしたゴムパーツ(インシュレーターも廃番だ)も、油冷GSX-Rを維持するには頭の痛い悩み。製品化しても高額化は必至で「油冷に乗り続けるにも覚悟のいる時代になりました」と松本さん。
部品の劣化は普段は気が付かない箇所でも着実に進んでいる
オイルラインのスチールパイプと樹脂部品のカシメ部もオイル漏れが懸念される。同様の仕組みを持つ初期型HAYABUSAで修理の経験があるとか。「油冷機で経験がないのはが丈夫に作られていたということでしょうか」と松本さん。純正部品は廃番だ。
右手に持つのは過電流が流れたか、熱を持って溶けてしまったカプラー。放置すればショートのトラブルも懸念される。左指先のオルタネーターではICレギュレーターのパンクによる充電不良も多数散見される、“あるある”のトラブルなのだとか。
オルタ内のICレギュレーターがキモだ
上で紹介したオルタネーターの拡大写真(クラッチシリンダーの上)。中にはICレギュレーターがあり、これの故障で充電不良となる。m-techではGSX-R750(G〜M/WN〜SPR)、GSX-R1100(G〜N/W)に適応するリプレイスパーツを用意している。
人気のクロモリシャフトはリニューアル
m-techが古くから展開するクロモリシャフト(左からフロントアクスル、リヤアクスル、ピボット用の各シャフト)はこのほどリニューアルされた。油冷機向けから各車用をラインナップするが、一番人気はGSX-R1000のK9〜L6向けなのだとか。
高機能3Dプリンターを駆使してメインハーネスを製品化
最新作の、GSX-R750(J/K/L)、GSX-R1100(K/L)の 5機種に対応するメインハーネスで、先行予約がスタートした。その先行予約特典では、別売となるジェネレーターハーネスも付属する。そのデビューから40周年も近い、油冷前期型への早期対応にもファンの期待が集まるところだろう。(メインハーネスのラインナップは前出、編注1を参照)