※本企画はHeritage&Legends 2024年4月号に掲載された記事を再編集したものです。
普段から長距離までの快適性をしっかり出す
現役時代には堂々としたたたずまいや凄みを全面に湛えていたZZR1100/ZX-11。前期C型からはもう30年超、後期D型でも20~30年が経過している。でも、今回紹介する2台の車両には、そんな経年の感じはあまりない。
ともに手がけたのはK-2プロジェクトで、歴代カワサキ旗艦のオーナーが多く訪れるショップとしても知られる。同店・北村さんもZZR1100に長く乗り、多くの手法も試してきた。まずは赤い’01年型D9に目を向けてみよう。
「この車両は前のオーナーさんから当店で買い取ったものでした。ホイール換装ほかブライトロジックさんの手も入っていて、今ではもうめったにない、程度のいいZZRでしたから私自身がいじって乗ろうかと思っていたところ、近畿におられる現オーナーさんが来店して、購入したいとおっしゃられたので販売しました。
それでご自身の乗り方や体格に合うように、ポジションほか再カスタムを施しています。具体的にはステムを削り出しにしたりフロントブレーキディスクを当店オリジナルのレゾンに。それでだいぶ走行距離も伸ばされています。新しい点では、CTS製のドライクラッチキットを組んでいます。
今回は車検で入庫して、このタイミングで水まわりや燃料系など、ZZRで定期的に手を入れたい部分の作業メニューをひと通り、ほかに前後サスのオーバーホール、フロントマスターのビレット製への交換も行いました。
外観はYFデザインさんでD9純正スタイルアレンジでフルペイント、愛知のSDブロスさんでCR-1コーティングもしています。こちらまで足を伸ばせないときにはSDブロスさんでちょっとした作業はお願いしています」
K-2では車両買い取りや販売も行っているが、その中での目利きをきっかけにオーナーが付き、気に入って走行距離を伸ばし、さらに良さを引き出して楽しもうとしているという、ZZR冥利に尽きる好例と取っていいだろう。
もう1台は、ブラックのD型ZX-11。先の車両が見せたZZRらしい長距離性能の引き出しという感じに対して、ZZR1100/ZX-11が秘めていたもうひとつの側面、スポーツ性の引き出しを重視したような印象を受ける。
「長い付き合いをしていただいているお客さんの車両です。鈴鹿や筑波(サーキット)も長く楽しんできた方。ツーリング用にZXを選び、スポーツ感も持たせて快適という方向で手を入れています」
エンジンは他で手を入れたというワイセコ鍛造ピストンによる1108cc仕様。ヨシムラST-1カムも組まれ、FCRφ39mmキャブレター/チタン4-1マフラーを組み合わせる。点火系はTGナカガワのDIS=ダイレクトイグニッションシステムとHIR=ハイパーイグニッションリーダーをセットし、エンジンを生かす設定。冷却系も強化されている。
なお、このエンジンは今回の入庫で今後長く乗ることを前提としてオーバーホールを受けるということで、内容も改めて把握される。
対して車体側は前後サスをオーリンズとした上でフロントフォークのボトムピースを、フォーク全長が1.5cmほど短くなる仕様に変更して装着。これは後にも触れるが、K-2/北村さんがZZR1100/ZX-11で重視する適正車体姿勢を作るための仕様だ。
ハンドルも扱いやすさを作るバータイプとし、そのためにトップブリッジも変更。ステップは的確な入力が得られるアグラス製削り出し。シートは’90年代カスタムブームやZZR現役世代にも刺さるコルビン・ガンファイターを内部/表皮変更して装着。さらにこの車両でもロゴまわりも含めて純正カラーをフルペイントと、特別感をさりげなく作り込んでいる。先述した印象のようなスポーツ感は、作り込みでも裏付けできた。
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代わりがないからこそ良さを生かせるように
きれいな車両は時の流れを忘れさせそうだが、ZZR1100/ZX-11は年月も距離も重ねているから、そこを忘れずに整備をしてほしいです、と北村さんは続けてくれる。どのあたりなのか。
「皆さんもご存じのようにエンジンはニンジャ系ですから、まず水まわり。ウォーターポンプのシールからの水漏れ→エンジン内浸入。ウォーターパイプ内部サビやラジエーターホースの劣化(ひび割れや亀裂)に硬化、内部汚れ。4年をめどに換えておきたい。
ラジエーターキャップもシールラバーが変形(つぶれ)/硬化して圧力が下がって水温が上がりますから、定期交換。高くないものですし、2~4年で交換です。ラジエーターも下側のマウントラバーがなくなりやすいので確認します。その付近のコアがなくなってしまうこともあるので、注意です。
エンジンまわりだと、バランサーシャフトのオイルシール、スプロケットシャフトのオイルシールの劣化。ここはニンジャ系共通。内部だとコンロッドとミッションがなくて困る状態です。
また、ZZRで気にしたいのは燃料ポンプです。古くなって燃料が漏れるものもあって、引火の危険性もあります。まだ新品が出ますから、早めに換えることを勧めます。メインハーネスも決まった箇所の焼けがあります。純正がないので工夫して対応します」
エンジン本体も含め、入庫の際にはせっかくの機会なのでこうした消耗品を全交換することも多いのだそう。まだパーツが出るものは、出るうちにリセットすれば交換タイミングがいい意味で先伸ばしできる。今しなくても乗れるけれど、なくなってからでは交換できない。そのタイミングを無理を強いることなく遅らせたいからだ。
ツインスパーフレームで頑丈そうな車体まわりも、要チェック箇所はある。エンジンマウントだ。
「フロント側はラバーダンパーが入ってますが、これが経年で固くなり、ヘタリます。するとZZRはパワーがありますし、距離を重ねることも多いですから、エンジンが揺すられて、リヤ左側のエンジンマウント(フレーム)に力がかかって割れてしまう。最近見かけますから、確認を。当店ではダミーエンジンを治具にして、肉盛り再溶接で対応します」
このように隠れた劣化を見つけ出すのも、北村さんの多くの経験の賜物。この延長で、ZZR1100/ZX-11へのカスタムへのアドバイスも聞いていこう。
「ZZRは、車体姿勢をきちんと作ることです。ノーマルがいいので、パーツを換えたとしても崩さない。フロントフォークはφ43mmなので各社正立が選べますが、ノーマルルックで調整機構も充実させ、動きがとても良くなるインナーカートリッジをテクニクス特注で作りました。
ブレーキディスクはサンスター・ワークスエキスパンドディスクを車体に合わせて作る当店のレゾン。前後アクスルとスイングアームピボットのクロモリ化も効果大です。もう30年経ちますから、その分進化したタイヤの性能を受け止めるようにしてやるんです」
エンジン側はO/Hに加え、CTS製ドライクラッチも注目。ラジエーターの放熱を高める塗装も勧めたいそうで、上にも記した。
こうしたアドバイスやお勧めの提案は、1100に根強い人気があるからのようだ。手を入れることに楽しみがあり、その変化を感じやすいこと。長距離性能や運動性能も高い上に、キャブ車ならではの感覚も残されていること。
「代わりのないバイク」とZZR1100/ZX-11を捉える北村さん。だからこそ、今回紹介したような車両を例に、整備やカスタムでより楽しく、長く乗れるようにしたいとも言う。カワサキフラッグシップそれぞれの特徴を、多彩なお客さんの要望も聞き、よく見てきたからの車両作りやパーツオーダーとフォローだ。
「全部お付き合いしてくださる職人さん、メーカーさんの腕ですよ」と北村さんは言うが、どの作業にも寸法出しや性能への配慮やセッティングが必要だ。それができるから、車両が成立する。ZZR/ZX系で悩むことがあればK-2に相談するのは、お勧めだ。
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登場30年を前提として手を入れたいポイント
ZZR1100/ZX-11は初代C1の登場が1990年。最終D9でも2001年だから、現存する車両はどれも30年前後の時を経たものとなっている。スペックとしては現代のものと考えて十分だが、それを生かすためには時間経過への対策、そして定期整備が重要だ。主なものを見ていこう。
水冷でGPZ-R系発展型ゆえに水まわりは重点的にメンテナンスしたい
冷却性を保つラジエーターキャップは定期交換
放熱性をより高めておきたいのもGPZ-R系共通のポイント。ラジエーターキャップの定期交換も有効だ。長期使用によってキャップ裏のラバーシール(写真下)も硬化やへたり(潰れ)が起こり、抑えきれる圧力が低下して水温が上がるので、2年に1度を目安に新品交換。コストパフォーマンスの高い手法だ。
冷却水を循環させるホース類も定期確認&交換を
新しいと思えても、20~30年前の車両ということを前提にして、消耗品は換えたい。ラジエーターホースもそのひとつで、硬化したら内部に汚れが溜まることで冷却性が低下する。この車両では柔軟性もあるシリコンホースを使っている。ここも車検や点検のタイミングで交換するのがいい。
ウォーターポンプのシールは水漏れ注意
冷却水を送り出すウォーターポンプは軸部のシール劣化での水漏れ→外へのにじみ、エンジンオイルへの水混入が起こりやすい。純正は廃番だがZRX1200DAEG用が使える。まず見ておきたいポイント。余談ながらこの車両ではウォーターパイプをチタン製に換装して錆予防策も行っている。
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経年した今だから出る症状にも独自の構造に配慮しながら対処
エンジンマウントはフロントダンパーの硬化やリヤマウントの割れに注意
フロント側に入るエンジンマウントのラバーダンパーが経年で硬化し縮み(上写真)、クリアランスが出てエンジンがパワーオンオフで揺すられる。その影響でフレームにリジッドマウントとなるリヤ側、つまりフレーム一体のマウント部に割れが生じてしまう(中写真指示部)。左側が当該部で、下写真は位置の参考に。K-2ではダミーエンジンを載せた上で肉盛り溶接することで補修対応する。
タンク裏に入る電磁ポンプからの燃料漏れに注意
ZZR1100はダウンドラフト吸気で高い位置に置かれるキャブレターに、燃料タンク裏に配される電磁ポンプで燃料を送る。このポンプが古くなり、燃料が漏れて引火する危険性がある。純正で対策品(写真下)が出ていて、新品が入手可能なのでホースとともに交換推奨だ。
電気系やホース類の劣化にも配慮する
配線類やホース類も劣化(左、外から見えなくても裂けている)するので交換で対処。メインハーネスはダイナモの付け根(上写真指示部)など決まった箇所が焼けやすい。新品はないが、再配線等で対処する。エンジンのバランサーやスプロケットシャフト部のオイルシールも定期交換を勧める。
スイングアーム側ピボットカラーも注目
ZZR1100/ZX-11のD型のスイングアームに多い例を教えてもらったが、ピボット部に入るスリーブ(上写真指示部→下写真の単体)が摩耗し、ガタが出るケースだ。まだ新品が出るので、早めの交換を勧める。合わせて、前後アクスルとともにピボットシャフトもクロモリ化するとより良いとも。
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ベースらしさを生かしパーツの進化も取り込むお勧めカスタム手法
時間の経過は劣化だけでなく、パーツの進化も取り込める優位な要素を生む。ZZR1100/ZX-11のらしさを生かしつつ、今K-2でお勧めという各部へのカスタム提案も見ていこう。
ノーマルルックの落ち着きに上質な走りの性能を加えるフォークカートリッジ
純正の落ち着いたルックスのままでサスの性能を高めたいという要望に対してK-2PROJECTではフロントフォークカートリッジキットを用意。テクニクスのTASCをK-2/ZZR1100のデータで特注製作するもので、特別なものは使わずに車体姿勢もK-2推奨でまとまり、雑味のないフィーリングになるという。右はカットモデルで、上はノーマルに準じたカートリッジレス、下がTASC。右下写真で分かるように伸び/圧減衰力、初期荷重も調整可能。依頼はK-2へ。
クラッチメンテナンスを楽にしながらオイルまわりにも配慮するドライクラッチ
注目の一品と言えるのがドライクラッチキット。CTSの製品で、削り出しのクラッチカバーや、クラッチバスケット/ドライクラッチユニット、オルタネーターテンショナー、写真にはないがクラッチプレート等が同梱される。ドライらしい切れの良さに加え、エンジンオイルとクラッチが分離されることでエンジンオイルへの熱の影響を低減できるなどのメリットも見込んでいる。上で紹介した赤いZZR1100の車両に装着されたのもこのユニットで、詳細はK-2PROJECTへ問い合わせを。
ラジエーターは新品交換時に高放熱塗装をプラス
冷却系への新提案もある。ラジエーター/オイルクーラーへのHDP=放熱型セラミックコーティングがそれで、ラジエーター/オイルクーラーを新品にする際にこの放熱コーティングを加えて放熱性を高める。同時にラジエーターコア下のマウントラバーも新品にするとしっかり固定され振動吸収性も高まる。このラバーが紛失することやこの周辺のコアの欠損もあるので、交換ついでに見てほしいとも。
アクスルやリンクボルトのクロモリ化も効く
フロントアクスル、リヤアクスル、スイングアームピボットの3つのシャフトをクロモリ鋼製にすると足まわりがしっかりし、かっちりしたフィーリングが得られるのでお勧め。リヤサスのリンクアームボルトもクロモリやチタンにするといいとのこと。登場時から20~30年のタイヤの進化を受け止めるという意味でもお勧めのようだ。リヤのタイヤサイズはD型純正の180/55ZR17を標準と考えていい。このあたりの構成についても相談するといい。