文:佐川健太郎(ケニー佐川)
MVアグスタ「エンデューロ ベローチェ」インプレ(佐川健太郎)
ワインディングも林道も得意なエレガントな万能マシンだ
MVアグスタは20世紀初頭に航空機製造からスタートし、1950~1970年代には世界グランプリで数々のタイトルを獲得したイタリアの名門ブランドだ。その後一時休眠状態となっていたMVアグスタをイタリアのカジバ社が復活させた1990年代には、カジバ・エレファント900でイタリア人ライダーのエディ・オリオリがダカールラリーで2度の優勝を遂げている。
その偉業を称えた「LXPオリオリ」がMVアグスタ初のアドベンチャーモデルとして2023年のミラノショーで発表され話題を呼んだことは記憶に新しいところだ。そして、今回新たに登場した「エンデューロ・ベローチェ」は、そのスタンダード版として登場。デザインはかつてオリオリがダカールの砂漠で駆ったカジバ・エレファント900をオマージュしたもので、MVアグスタ伝統の鮮やかなレッドとシルバーのカラーリングが特徴になっている。
エンジンは新型の水冷3気筒で排気量931ccから最高出力124PS/10000rpmを発揮。また3000rpmで最大トルクの85%を発揮するなど、高回転パワーと豊かな低中速トルクの両立を実現している。一方では、車体は高張力鋼管と鍛造部からなるメインフレームにスチール製サブフレームを組み合わせた堅実な作り。
足まわりは前後210mmのホイールトラベルを持つザックス製の全調整式サスペンションを採用、ブレーキにはブレンボ製の最高峰スティルマを装備。ホイールはエキセル製チューブレスタイプに前後21/18インチのブリヂストン製A41タイヤが標準装備するなど本格的なアドベンチャー仕様となっている。電子制御も最新スペックだ。
4種類のライドモードに8段階のトラコンと2種類のコーナリングABS、アップ&ダウン対応クイックシフターなどを標準装備。また、MVライドアプリ連携によるカスタマイズが可能で、フルカラーTFTディスプレイでこれらの機能を包括的にコントロールすることができる。
試乗では地中海に浮かぶ美しい島、サルディーニャのワイルドなワインディングで存分に走りを楽しむことができた。新開発の3気筒エンジンは低中速域から高回転まで力強く、2000rpmでも粘るし10000rpmでピークアウトしてからも伸びていく。MVアグスタのスーパースポーツ「F3」シリーズに比べると、同じ3気筒でも排気量拡大とともにロングストローク化されたおかげでエンジンにゆとりがある感じだ。
最高に素晴らしいのがサウンド。エモーショナルな鼓動感に溢れ、回せば昔のF1マシンのような高周波サウンドが響き渡る。ハンドリングも秀逸だ。「F3」シリーズでも実装しているMVアグスタ独自の逆回転クランクがフロントの浮き上がりを抑え、減速時は逆に後輪が路面に押し付ける効果があるという。
明確に実感できるほどではないが、サスペンションのストローク量からすると車体の挙動変化が穏やか。フロント21インチのどっしり感があり、しなやかな前後サスによって車体の姿勢変化を作ることで、タイトなワインディングでも快適な走行が楽しめる。またクイックシフターはスムーズな作動感でコーナリング中でも躊躇することなくギアチェンジできるのが快感。
また、リアサスペンションのプリロード調整は手で簡単にできるため荷物積載時やタンデム時にも便利だ。ライドモードも試してみたが、モード切り替えによりABS、トラコン、エンブレなどの設定が自動的に最適化されるのが美点。高速道路では大型スクリーンと一体化したカウルが効果的に空気を切り裂き、200km/h近くでも快適にクルーズできるし、街中に戻れば軽い車体と快適なライポジによりリラックスした走りが楽しめた。
そして締めくくりはオフロードへ。けっこうな勾配の林道を3気筒パワーでグングン登り、小さな岩が転がるガレ場やクレバスが散在するダートをふわりと飛び越えていく。フルサイズの前後21/18インチホイールと専用セッティングのザックス製前後サスペンションによる走破性はアドベンチャーバイクとして満足できるレベルだ。
ワイドトルクなのでトコトコ走る低速域でも扱いやすく、車体の動きがしなやかで安定しているのでライン取りもコントロールしやすかった。今回はワンデーでの試乗だったが、きっとオフロードを含むロングライドを優雅に快適に楽しめると思う。