2024年10月18日から19日にかけて、スペインのヘレスサーキット・アンヘル・ニエトでFIM女子世界選手権(FIM Women’s Circuit Racing World Championship、以降WCR)の第6戦スペインラウンドが行われた。今年から始まった同大会も最終戦を迎え、初代チャンピオンが決定する。世界チャンピオンという大きな称号をかけた戦いがアンダルシアの地で決着した。

エレーラが逆転に望みをつなぐ優勝もカラスコが2位に入りタイトルに王手

画像: 優勝を狙うエレーラについていくカラスコ。

優勝を狙うエレーラについていくカラスコ。

マリア・エレーラ(KLINT FORWARD FACTORY TEAM)とアナ・カラスコ(EVAN BROS RACING YAMAHA TEAM)というトップライダー2人によって繰り広げられたWCR初年度のタイトル争い。第5戦終了時点で両者のポイント差は18とランキング首位のカラスコに有利な状況だ。

土曜日に行われたレース1のポールポジションは、前戦初優勝を挙げたサラ・サンチェス(511 TERRA&VITA RACING TEAM)が獲得。タイトルコンテンダー2人を相手に、母国スペインで見事初のポールポジションを奪ってみせた。

タイトルに最も近い位置にいるカラスコは2番グリッドを獲得、逆転タイトルを狙うエレーラが3番グリッドにつけ、フロントローに主役が揃う。

気温21度、路面温度23度のドライコンディションの中、レース1がスタート。2番グリッドスタートのカラスコがスタートを決めホールショットを奪い、エレーラも続く。

カラスコの前でゴールしなければいけないエレーラはオープニングラップのターン5でいきなりカラスコを捕らえトップに浮上。しかし、続くバックストレートではカラスコとベアトリス・ネイラ(AMPITO / PATA PROMETEON YAMAHA)がエレーラをオーバーテイクするなど、序盤から激しいバトルが展開される。

2周目からはカラスコ、サンチェス、エレーラ、ネイラ、そしてロベルタ・ポンツィアーニ(YAMAHA MOTOXRACING WCR TEAM)の5台による優勝争いに。

周回ごとにポジションが入れ替わる中、4周目に差し掛かるとポンツィアーニが遅れはじめ、トップ集団は4台による争いとなる。同ラップではサンチェスがトップに立ちレースをリード。前戦同様にブレーキングが深いサンチェスはエレーラの攻めを防ぎながら周回し、レースはこう着状態のままファイナルラップに突入する。

4周目以降、一貫してトップの座を守り続けていたサンチェス。先頭のままファイナルラップに突入するも、バックストレートエンドのブレーキングでまさかの転倒を喫してしまう。土壇場でエレーラがトップに立った。

続くターン9で2位につけていたカラスコがラインを外してしまいネイラが2位に浮上。残り半周を切ったところでエレーラが一気にポイント差を縮める可能性が出てきた。

エレーラはそのまま逃げ切り、トップチェッカーを受ける。注目の2位争いはカラスコが最終コーナーからホームストレートにかけてうまく立ち上がり、ネイラのスリップストリームを利用しコントロールライン手前で逆転。意地を見せたカラスコが2位の座を死守してみせた。3位にはネイラが入り、スペイン人3名による表彰台独占となった。

画像: 逆転チャンピオンに向けてまずがエレーラがレース1を制した。

逆転チャンピオンに向けてまずがエレーラがレース1を制した。

エレーラはこれ以上ない結果を残すもカラスコが2位に入ったため、両者の差は13に。つまり、エレーラはレース2で優勝したとしても、カラスコが4位以内でゴールすればカラスコのチャンピオンが決定する。

WCR第6戦 レース1結果

画像1: resources.worldsbk.com
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今季最も熾烈な戦いを戦い抜いたカラスコが初代WCRチャンピオンに!

日曜日に行われた運命の1戦。レース1の結果を元に、サンチェスがポールポジション、エレーラが2番グリッド、ネイラが3番グリッド、そして4番グリッドにカラスコがつけた。

気温23度、路面温度22度のドライコンディションの中、最終レース2がスタート。ターン1まで距離が短いながらも、エレーラがスタートを決めてトップに浮上し、カラスコも2位に続く。

3位にネイラが続き、6番グリッドスタートのクロエ・ジョーンズ(GR Motorsport)がスタートを決め4位に浮上する。最終戦はこれまでのトップ集団の常連組に加え、ジョーンズやパキタ・ルイ(PS RACING TEAM 46+1)も加わり、7台がトップ集団を形成。今までにない台数で激しいバトルが展開された。

3周目、ここまで素晴らしいパフォーマンスを見せていたジョーンズにジャンプスタートの裁定が下り、ダブルロングラップペナルティが科されてしまう。これでジョーンズが先頭集団から離脱。ルイも徐々に離されていき、優勝争いはエレーラ、カラスコ、ネイラ、ポンティアーニ、サンチェスの5台に絞られた。

カラスコはリスクを犯すことなく5位で周回を重ねていくも、この順位のままエレーラが優勝した場合、1ポイント差でタイトルを逃してしまうことになる。

しかし、これまでと違い複数台による激しいバトルを展開するトップ争いにおいてカラスコは順位をあげることができずにいた。

次第に周回数が減っていき、レースはついにファイナルラップに突入。1番の勝負所であるバックストレートを通過した時点でエレーラがトップ、カラスコは5位であり、エレーラの逆転チャンピオンが現実味を帯びていく。

そして、これまで数々の名シーンを生んだ最終コーナーで今回もドラマが待っていた。エレーラがなんとサンチェスと接触し転倒。大きくなりつつあった希望の光が最後の最後で消えてしまったのだ。

エレーラと接触したサンチェスがトップチェッカーを受ける中、ネイラが2位、そして3位に入ったカラスコがFIM女子世界選手権の初代チャンピオンに輝いた。

画像: 3位でチェッカーを受けチャンピオンを決めたカラスコ。

3位でチェッカーを受けチャンピオンを決めたカラスコ。

2018年にスーパーバイク世界選手権と併進されているスーパースポーツ300世界選手権において、女性で史上初の世界チャンピオンとなったカラスコ。今年から始まったWCRでも初代チャンピオンに輝き、モーターサイクルの歴史において語り継がれる存在になった。

そしてカラスコを最後の最後まで苦しめ、同クラスで屈指のスピードを誇ったエレーラのWCRにもたらした功績も大きい。開幕直前に参戦を決めたエレーラだったが、彼女が参戦していなければチャンピオン争いもこれほどまでに白熱しなかっただろう。

名実ともに女性ライダーのトップ2名が選手権を引っ張ったことは、参戦している他のライダーの実力を底上げしたことにつながったように見受けられる。レースを重ねるたびに各ライダーのギャップが縮まり、バトルも増え、転倒の数も減っていった。

今回はエレーラにとっては不運だったが、サンチェスとの接触はレーシングアクシデントであり、最終コーナーでカラスコは4位のポンツィアーニをオーバーテイクをしていた。転倒していなくてもカラスコのチャンピオンは揺るがなかっただろう。

タイトル防衛、リベンジのためにカラスコとエレーラが継続参戦するかはまだ不明だが、来年はよりエキサイティングなシーズンになる予感のする最終戦だった。

WCR第6戦 レース2結果

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世界デビュー初年度を走り抜けた平野ルナ

WCR最終戦、平野ルナ(TEAM LUNA)は今季で一番厳しい週末を送っていた。前戦エストリルではハイサイドを喫し転倒。身体を強く打ちつけた上に、衝撃を受けた際に舌を噛んでしまうなど、満身創痍の中最終戦の地ヘレスに足を運んだ。

初めてのサーキット、そしてセッティングが全く決まらずスーパーポールは23番手と苦戦。朝のウォームアップでセッティングを詰めることができず、レース1は19位、レース2は22位で終えた。

難しいサーキットでセッティングが決まらないという状況の中、当然勝負することはできなかったが、きちんとマシンをゴールに運び完走。苦しみながらも最終戦のチェッカーを受けた。

画像: 初めてづくしの世界選手権デビューを戦い抜いた平野。 x.com

初めてづくしの世界選手権デビューを戦い抜いた平野。

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今回チャンピオンに輝いたカラスコやチャンピオン争いを繰り広げたエレーラはEVAN BROS RACING、KLINT FORWARD FACTORY TEAMとワークスと言っていい充実した体制で参戦している。

それほどではなくとも、他のライダーも体制を整えた状態で1年間を戦った。一方、単身乗り込んだ平野はメカニックのマヌ氏と二人三脚で1年を戦い抜いた。サーキット、マシン、タイヤと何もかも未経験、なおかつマシンを壊してはいけない状況だっただけに、おそらく平野は1年を通して1度も全開で攻めることはできなかっただろう。

そんな中、平野は開幕戦からマシンを壊すことなく周回を重ね、決勝でも粘り強い走りを見せポイントも獲得してみせた。平野の凄さは「Best Finish Award」を見ればわかる。この賞は、スタートグリッドの位置に対して最も高い順位でフィニッシュしたライダーにポイントが与えられるというもの。レース中のパフォーマンスやスキル、戦略を評価する指標となるが、平野はこの「Best Finish Award」で堂々の2位を獲得している。

圧倒的に経験値が少ない分、予選では下位に沈むも、決勝ではポジションを大幅に上げているためだ。平野は他のライダーに比べ制限がある中で可能な限りの結果を残したと言える。

来季、平野が継続参戦するかはまだ未定だ。しかし、この1年の挑戦はライダーとして大きなものをもたらせたはず。今回のWCRでの実績は他のカテゴリーへの挑戦も今まで以上に可能性を高めてくれるはずだ。平野の動向に加え、新たな挑戦者が現れる可能性もあるなど、来季のWCRからも目が離せない。

レポート:河村大志

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