以下、文:ノア セレン/写真:関野 温
ホンダ「CBR650R」VS トライアンフ「デイトナ660」|比較のポイント
アイコニックな名前を現実世界に落とし込む
ホンダにとっての「CBR」、トライアンフにとっての「デイトナ」、いずれも歴史のある大切なブランドだけど、この2台、どっちも頂点モデルじゃないというのがミソでしょう。
フルカウルモデルではありつつも、高いサーキットパフォーマンスを大前提としたキンキンのスポーツモデルとはせず、ライディングポジションやエンジンの味付けなど、公道で楽しくスポーツができる設定としたのは時代の変化を表しているように思う。ストイックさよりもFUN! 個人的にはこの流れは現実的に思うし大賛成。
2台のもうひとつの特徴はネイキッドの兄弟車がいるということ。CBRにはストリートファイター的なCB650Rがいるし、デイトナはトライデント660をベースとしたチューンドマシンという位置づけ。
だからこそCBRもデイトナもフルカウルでありながらどこかフレンドリーさが残っているし、兄弟車がいるからこそ価格的にも抑えることができたのだろう。僕からはネイキッド版も絡めたインプレを記していこう。
ホンダ「CBR650R」VS トライアンフ「デイトナ660」|比較インプレ
より上質になったCBR! より荒々しくなったデイトナ
CBR650Rのネイキッド版のCB650Rについては過去のインプレでお伝えしたとおり、クラス唯一の4気筒、開いたアップハンドルがもたらす積極的な入力でファイター的なハンドリングも魅力だった。
対するCBRはずいぶんオトナの雰囲気! CBは活発でスポーティな印象があるのに対して、CBRはスッと落ち着いていて、セパハンフルカウルなのにむしろこっちの方がツーリング向けかな? と思わせるのが意外だ。
というのも、何だか全てにおいて上質なのだ。カウリング装着による重量増という面もあるだろうし、前傾姿勢により前後重量配分がより良いというのもあるだろう。加えてCBよりも幅が狭くタレ角のあるハンドルにより、バイクが本来持っている操舵感に身を任せられるような落ち着きもあった。
そんな包容力に身をゆだねツーリングに出かけると、「バイクにライダーの言うことを聞かせて楽しんでやるぜ」のようなスタンスだったCBに対してCBRはもっと対話を楽しむイメージとなった。バイク側に「こういう風に乗ると良いかもしれませんよ?」と優しく教えられているような感覚かな?
CBでは高回転域がもっとエキサイティングだったら……といった意見もあったのに対して、こちらは100km/h巡行からスッとアクセルを開けた時のトルク感など、本当に上質に感じられ、エキサイティングさは感じなかったのだから不思議だ。
なおCBRはサーキットでも走らせる機会も得たが、ここでも懐の深さや好バランスは光り、純正タイヤのままでもかなり突っ込んだスポーツ走行を楽しませてくれた。このCBRをCBR-RではなくCBR-Fだろうという人もいるが、このトータルバランスはまさにかつてのF的、そしてホンダ的。その点ではネイキッドのCBよりも上に感じる。
ニューモデルであるデイトナは、先代の675が純スポーツモデルとして大人気だったため、ユーザーの目線も厳しめな気もするが、新デイトナはストリートトリプル765の派生ではなくエントリーモデルとも言えるトライデント660ベース。
しかし、エンジンは81馬力から95馬力へと大幅パワーアップを果たしているし、足まわりもラジアルマウントキャリパーを備えるなどグレードアップされている。それでいて価格はわずか9万円アップに留めるあたりはかなり戦略的だ。
ベースとなったトライデント、これがまた素晴らしいモデルなのだ。765系に対してロングストロークで付き合いやすい660ccエンジンをはじめ、しなやかなスチールフレームや良く動く足まわりなど、ストリートユースからツーリング/ワインディングまで幅広くこなす。
対するデイトナは「チューニングマシン」感が漂う荒さはひとつの魅力かもしれない。エンジンからはハイパワー化やセパハン化に伴ってか強めの振動が出ていて、トライデントが持っていた総合性能をスポーツの方向に尖らせたのがよくわかる。
パワーとトルクのバランスも素晴らしく、2速ギア固定で走るような峠道はめっぽう得意。4気筒では「パワーバンドに入り待ち」といった時間があるのに対し、デイトナのワイドバンドトリプルはアクセルを開ければ即座に反応。車体姿勢の制御もやりやすい。
惜しいのはリアサスの設定だ。出荷時設定がプリロード全抜きなのだが、これでは腰砕けのフィーリングとなってしまいとてもスポーツバイクには思えないばかりか、頼りなささえ感じる。ところが適度にプリロードをかけていくと、とたんに輝きだすのだからバイクって面白い。
かつての675と比較して「これはデイトナじゃないだろう!」という厳しい気持ちがある人は、まずはプリロード調整してから再評価してほしい。