文・写真:丸山淳大/モデル:mii
Q6.市販マフラーと純正マフラーはどんな違いがありますか?
A. 純正マフラーは耐久性や安全性のマージンが必須です

まず、エンジンや電装部品同様、メーカーの車両保証期間内に壊れたり、音量が規制よりも大きくなったりというようなことがないような耐久性が求められる。消音のためのグラスウールは9割ぐらいの純正マフラーに使われているが、アフターマーケットマフラーのような交換メンテナンスは不要だ。
さらに大事な部分は安全性である。転倒などによる破損時の想定や、枯れ葉など燃えやすいものが付着しても火事を起こさない構造など、安全のためにクリアしなければならない要件が複数存在する。
また、材料の違いもある。通常、アフターマーケットのマフラーメーカーは材料に規格品のパイプを使っているため、パイプ径は決まっている。一方の純正マフラーは、既製サイズ以外のパイプの径もオリジナルでオーダーできるため、よりその機種に合ったマフラーを作りやすい利点がある。
Q7.三恵技研工業ならではの特徴を教えて下さい
A. 四輪用マフラーからの技術や部品の転用があります
二輪向け純正マフラーメーカーのほとんどが二輪専門なのに対し、三恵技研工業は四輪用純正マフラーの開発・生産も行っている。そのため、過去には四輪用の排気デバイスの技術をバイク用に転用した事例があったそうだ。
また、生産ロット数の多い四輪用マフラーの部品を二輪用に流用することで、コストを低減させた例もある。メッキ事業からスタートした同社だけに表面処理を得意としており、金属メッキから樹脂メッキ、塗装まで多彩な仕上げにも強みを持っている。

CB1100のエキゾーストパイプは、排熱によってクロームメッキが変色しないように二重管構造となっている。

四輪はモデルチェンジごとにエンジンの仕様やマフラーレイアウトが大きく変わることがないので、バイクよりは開発期間に余裕があることが多いそうだ。

四輪はモデルチェンジごとにエンジンの仕様やマフラーレイアウトが大きく変わることがないので、バイクよりは開発期間に余裕があることが多いそうだ。
Q8.純正マフラーに特別なメンテナンスは必要ですか?
A. 車両の取扱説明書に準じたメンテナンスをしていただければ大丈夫です
基本的にマフラーは洗車時に車体洗浄用のシャンプーを使用して一緒に洗えばOK。詳細は車両付属の取扱説明書を確認していただきたい。また、三恵技研工業のブラックペイントのマフラーは、市販の耐熱ブラック(オキツモ製)が使われている。色が剥げて部分補修をしたい場合は市販品として手に入るオキツモ製の耐熱ブラックスプレーを使えば色の違和感が出ず、自然な仕上がりとなる。

マフラーは高温になるため、跳ね上げられた砂利やゴミが焼き付いてしまうこともある。だからこそ、小まめに洗いたい。排気口から水が入らないようにキャップの使用がおすすめ。

マフラーは高温になるため、跳ね上げられた砂利やゴミが焼き付いてしまうこともある。だからこそ、小まめに洗いたい。排気口から水が入らないようにキャップの使用がおすすめ。
okitsumo
one touch マフラー用スプレー
三恵技研工業で採用されているのが塗料メーカー「オキツモ」製の耐熱塗料だ。「オキツモ ワンタッチスプレー」は手軽にペイントでき、熱が入ることで硬化し塗膜が強くなる。
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Q9.三恵技研工業の歴史の中でも記憶に残るマフラーはありますか?
A. 2002年に登場したCBR954RRは弊社として初のチタンマフラーです

より一層の軽量化を果たすためにチタン素材の純正フルエキゾーストマフラーを採用し、大きな話題となったCBR954RRファイヤーブレード。この純正チタンマフラーを開発・生産したのが三恵技研工業だった。
チタンは溶接時に酸素に触れるともろくなってしまう性質を持つため、溶接部にアルゴンガスを噴射し続け、酸素に触れずに溶接できる生産設備を新たに構築。スーパースポーツファンの要望に応えて量産化に成功した。その後、チタンマフラーは純正採用例が増えたが、その生産にはこの当時培った技術が活かされている。

6代目の“FireBlade”となったCBR954RRは、2002年に登場。先代よりシリンダーボアを1mm拡大し排気量を増大。それと同時に採用されたのがフルチタンエキゾーストだった。マフラーには排気バルブ「H-VIX(ホンダ・バリアブル・エキゾースト)」が組み込まれていた。
Q10.純正復刻マフラープロジェクトの第二弾はないのですか?
A. 近日中に純正復刻マフラーの第二弾を発表予定!?

Honda
DREAM CB400 FOUR
1974-1977年
エンジン形式:空冷4ストSOHC2バルブ並列4気筒
総排気量: 408(398)cc
最高出力:37(36)PS/8500rpm
乾燥重量:185kg
1974年に登場したホンダ ドリームCB400FOURは、当時としては革新的だった4in1集合マフラーを純正採用していた。そしてこのマフラーを開発・生産したのが三恵技研工業なのである。その開発は非常に困難を極めたそうだ。そして2023年、三恵技研工業はCB400FOURのマフラーを復刻し再生産した。
当時、CB400FOURの車体デザインを担当した田中誠一氏は、自分の理想形を実現させてくれた三恵技研工業への感謝の気持ちを込めて、CB400FOURのロゴと同じデザインで今も同社で使われている「SANKEI」ロゴを贈った。そんな縁の深いCB400FOURマフラーの復刻は、現代の技術力を持ってしても容易なものではなかったようだ。

「SANKEI」のロゴをよく見てみれば、ヨンフォアマニアならずともピンと来るはず!? サイドカバーの「400FOUR」と同じ書体である。CB400FOURの集合マフラーは同社としても記念碑的な製品なのだ。

「SANKEI」のロゴをよく見てみれば、ヨンフォアマニアならずともピンと来るはず!? サイドカバーの「400FOUR」と同じ書体である。CB400FOURの集合マフラーは同社としても記念碑的な製品なのだ。
生産のための金型はすでに廃棄されていたことから、プロジェクトは社内に残るマフラーと設計図を基に3Dスキャナーを用いた金型製作からスタート。集合部の微妙な形状などは最新鋭の3Dスキャナーでも再現できず、手作業による金型修正まで加え、当時と全く同じ厚みの材質、メッキ、構造、寸法で復刻したのである。つまりは音質や音量も新車当時を完全再現させたのだ。
三恵技研工業ではこのCB400FOURの復刻マフラーの好評を受けて、現在第二弾のプロジェクトを進行中。絶版車ファンにとって非常に気になる車種の発表はもう間近とのことなので、正式お披露目を楽しみに待ちたい。
絶版車オーナーが歓喜したCB400FOUR復刻マフラー

地上最低高を確保するために4本のエキゾーストパイプが横一列に並んだ独特のフォルムを持つCB400FOURのマフラー。美しいメッキに焼け色が付きにくいようにエキゾーストパイプが二重管構造になっている。

1970年代の当時のマフラーは消音効果が気づかぬうちに低下しているため、新品マフラーを装着するとアイドリング付近では排気音が静かに感じるそうだ。しかし、高回転では乾いたサウンドを響かせる。
RC213V-S用マフラーの開発・製造も手掛ける

Honda
RC213V-S
2013年・2014年のMotoGPにおいて2連覇を達成した「RC213V」。それを『一般公道を走れるMotoGPマシン』として市販化したのが「RC213V-S」である。RC213V-Sは、MotoGPマシンと同じく、徹底したマスの集中化とフリクション低減、軽量化および部品の加工精度を追求し、RC213Vに採用されている制御技術も搭載されている。

この、RC213V-Sのマフラーを開発したのが三恵技研工業なのだ。公道走行を可能とするためレーサーには無いキャタライザーをカウル内にレイアウトし、さらに前バンク、後ろバンクのマフラーそれぞれに排気バルブを設けるなど相当な苦労が伺える。マフラーは、チタンの風合いを持つショット仕上げのステンレス製で、社内の技能士の手による手溶接で生産された。

文・写真:丸山淳大/モデル:mii