文・写真:丸山淳大/モデル:mii
マフラーのプロにうかがいました!
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今回お話をうかがったのは三恵技研工業株式会社 執行役員 安濃工場工場長 浜松工場管掌 村井昭則さん(左)と三恵技研工業株式会社 執行役員 戸田工場 工場長兼 第四開発部 部長 新井賢一さん (右)
三恵技研工業とはどんな会社?
魅力的な純正マフラーを生み出してきた老舗部品メーカー

三恵技研工業は国内6拠点、海外10拠点を持つ国内有数の部品メーカー。国内の二輪、四輪メーカーのマフラーや車体の金属部品、樹脂部品の開発から生産までを手掛けており、我々が普段乗っているバイクの純正マフラーやハンドル、樹脂カバー、フレームなども手掛けている。
1948年に東京都赤羽で創業し、当初は自転車ハンドルのメッキを行っていた。1951年、故・本田宗一郎氏とともにホンダを世界企業へと成長させた副社長故・西田通弘氏が、たまたま工場の前を通りかかったことからマフラー部品のメッキ依頼を受注。そこからホンダとの付き合いはスタートしている。

仕上がりの美しいメッキは、美しい下地、つまりメッキ前の製品が重要になることから、1961年にバイク用マフラーの製造までを手掛けることになり、そこから四輪のマフラーや他の部品まで、取扱う製品が広がってきた。
自動車のマフラーやグリル、バンパーなど幅広い部品を開発

メッキからスタートした三恵技研工業だが、現在は多彩な部品を手掛けている。メッキを施したフロントグリルや樹脂バンパー、ホイールキャップ、ドアモールなど、四輪エクステリアパーツの生産も多い。

自動車用エキゾーストシステムも手掛けているのが三恵技研工業の特徴だ。四輪用で培った技術や部品などを二輪に転用できるのも同社の強み。新素材採用の試験など技術開発も進んでいる。
キャンプ用品の焚火台やステンレス真空ボトルなども手掛ける
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三恵技研工業が製造を手掛けるステンレス真空ボトルは、胴部をバルジ成形と呼ばれる工法で仕上げることで滑らかで美しいフォルムを実現。素材の接合部はレーザー溶接で仕上げられている。
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近年ブームとなっているキャンプ用品の製造も手掛けている。耐久性に優れたステンレスを使用した焚火台は、ジョイント部品の形状変更などにより生産性を向上。三恵技研工業の技術が詰まっている。
【Q&A】純正マフラーに関する10の質問・疑問
Q1.純正マフラーにはどんなことが求められるの?
A. 法規制への適合と安全性の確保が最重要項目です

まず、欠かせないのが法規制への対応だ。公道で走る以上、排出ガス規制と騒音規制をクリアすることがマストとなる。その上でエンジン出力を最大限に発揮させることや様々な環境下で使用された場合の耐久性、転倒時や事故が発生したときの安全の確保も必須だ。
また、できる限りの軽量化やコストへの配慮も必要だ。純正マフラーに求められる性能は年々高くなっており、そうしたハードルをクリアするために、三恵技研工業は自社で様々な技術開発を行っている。
Q2.純正マフラーの開発はどのように進むのですか?
A.車両開発の中では最後に設計が決まります
まずは、車両メーカーのデザイナーが主体となって車体のスケッチデザインをクレイモデルに仕上げ、形状が決定する。その中で、三恵技研工業を含むサプライヤー各社がゲストエンジニアとして加わり車両開発が進められる。
エンジンやサスペンション、フレームなどの位置やスペースが先に確定していく中、最後にラジエターとマフラーでスペース確保のせめぎあいがある。そのため、マフラーはフレームやエンジンなど各パーツの隙間を縫うように設計されるのだ。

ネオクラブームの先駆けとも言えるCB1100はクロームメッキのマフラーを採用。クロームの下地に3層のニッケルメッキを行うことでサビと熱に強く平滑で美しいメッキ表面を実現した。
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ネオクラブームの先駆けとも言えるCB1100はクロームメッキのマフラーを採用。クロームの下地に3層のニッケルメッキを行うことでサビと熱に強く平滑で美しいメッキ表面を実現した。

2014年の初代NC750Xがクロームメッキのマフラーだったのに対し、2016年モデルではつや消しペイント仕上げのサイレンサーにカバーが付いたデザインとなった。エキゾーストパイプ内に二段構造のキャタライザーを組み込み、サイレンサー内にレゾネーター室を設けつつ2室構造にするなど、改良が行われ、前モデルからマフラーはまったく別物に仕上がっている。
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2014年の初代NC750Xがクロームメッキのマフラーだったのに対し、2016年モデルではつや消しペイント仕上げのサイレンサーにカバーが付いたデザインとなった。エキゾーストパイプ内に二段構造のキャタライザーを組み込み、サイレンサー内にレゾネーター室を設けつつ2室構造にするなど、改良が行われ、前モデルからマフラーはまったく別物に仕上がっている。

バイクのマフラーは機能部品であると同時に、車体デザインを構成する重要なパーツだ。開発はまずデザインが先行する。四輪マフラーの部品点数が1〜30点程度なのに対し、二輪は50〜60点程度になることもあり、構造も複雑になっている。
Q3.純正マフラー開発に際し、車両メーカーから音質や出力特性などの要望はありますか?
A. 音質や出力特性に関しては基本的に車両メーカーが決定しています

三恵技研工業では、過去に並列2気筒エンジンや並列4気筒エンジンで、V4エンジンの排気音を出すマフラーの試作を行い東京モーターサイクルショーに参考出品するなど、一定程度の成果を収めているが、音質に関しては基本的にメーカー側が決めるものとなっている。ただし、各社の音に対するこだわりは強くなってきており、メーカー側から音質へのリクエストがあることも。
また、バイクの場合、エンジンの細かな仕様は完全ブラックボックスの状態でマフラー開発が進められるため、性能評価のテストはメーカーによって行われている。そのため、三恵技研工業としてはメーカーの理想とするデザインの実現と、そのマフラーを安定生産することが主なミッションとなる。
Q4.純正マフラーの素材はどのようなものが使われますか?
A. 現在はスチール、ステンレス、チタンが使われています
素材の選定はデザインの実現性やコストなどを含めて検討され、スチールやステンレス、チタンなどの中から車両メーカーの意向により決定される。1990年代以前には一部アルミが素材として使われていたが、使用環境によってはマフラー内にたまった水分で腐食し、車両の保証期間内にマフラーに穴が開いてしまうおそれがあることから、現在は一部競技用車両のみに使われている。
最も加工が難しくコストの負担がかかるのはチタンで、その反対がスチール。三恵技研工業では小排気量車よりも中大型車のマフラーの製造が多く、その場合マフラーのカバー類なども樹脂ではなくステンレスやスチールが採用されることが多い。
表面処理はメッキ、ヘアライン、ポリッシュ、ペイント、ショット(マットな仕上がり)など、モデルの性格や車体のデザインに合わせた多彩な仕上げに対応。見た目の美しさと腐食の抑制を両立させている。
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ヘアライン仕上げ

1970年代以前のバイクの純正マフラーはクロームメッキ仕上げがほとんどだったが、近年は様々な表面処理が行われるケースが増えている。三恵技研工業では樹脂のメッキや、ポリッシュのあとに一方向に研磨痕を付けたヘアライン加工など高級感ある仕上がりに対応する。

始動直後の結露やサイレンサーエンドからの浸水など、マフラー内部に水が入った時のために、サイレンサー下側には水抜き穴が設けられている。ここがゴミやサビなどで詰まるとマフラー内に水がたまって腐食することもある。
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エアダスターで水抜き穴の通りを確認!
Q5.純正マフラーの開発期間はどのくらいですか?
A. ニューモデルの場合、開発期間は3年程度です
マフラーの開発期間は車両の開発期間とほぼ同じとなり、完全新設計のニューモデルの場合、約3年程度を要す。最初の1年でデザインやレイアウト、性能などを含めて様々なタイプが検討され、あとの2年で量産化に向けた準備が行われる。
ひと昔前は毎月のようにマフラーの試作が行われていたそうだが、コンピューターによるシミュレーションが高精度化した現在では製品化まで2回程度の試作で完成となるケースがほとんど。
特に開発期間がタイトな場合、マフラーの図面が決定してから最短で半年ほど経過してから量産品を完成させることができるそうだ。特にバイクの場合はモデルチェンジでエンジン仕様が大きく変わることが多く、その点ではバイク用マフラーの開発の方が過密になる傾向がある。