文:宮崎敬一郎
チューニングで新型に勝つZはヒーローだった

Honda DREAM CB750 FOUR
1969年
総排気量:736cc
エンジン形式:空冷4ストSOHC2バルブ並列4気筒
1960年代末から1970年代末のバイク界は、日本のマルチ勢がそれまで最強最速の代名詞だった英国製ツインたちを駆逐してしまった時代だった。きっかけを作ったドリームCB750フォアを世に出したホンダは直4エンジンを搭載するCBフォアシリーズを展開して直4の実用性を実証していく。
次に登場したカワサキのZ1は圧倒的な「力と速さの神様」になった。そのスムーズさと高回転性能、ハイパワーに世界が畏怖し、憧れたのだ。これで世界は直4(マルチエンジン)化と高速性能追求へと突き進む。

Kawasaki 900 SUPER4(Z1)
1972年
総排気量:903.2cc
エンジン形式:空冷4ストDOHC2バルブ並列4気筒
その頃、日本ではナナハンブームが巻き起こった。世界最高レベルのスポーツカーと同等の動力性能が軽自動車と変わらないプライスで手に入るのだ。それを世界をリードする日本の4メーカーがしのぎを削って乱発。若者からベテランまでがこれに群がった。
自分はこの当時高校生。唯一のバイク情報源だったバイク雑誌は全て読みあさり、憧れのナナハンに乗るために免許も取った。意中のバイクは当然Z2。当時、10年間ほどはZ1/Z2の時代だったのだ。

Kawasaki 750RS(Z2)
1973年
総排気量:746cc
エンジン形式:空冷4ストDOHC2バルブ並列4気筒
ヨシムラやモリワキを育んだ福岡にいたせいもあるだろうが、まわりに改造屋さんは山ほどあった。なので、当時は新車性能だけでなく、どこまで改造できるかということも強さの証しだったように思う。だから、ちょっとイジるだけで新型のライバルを蹴散らし、最強に変身するZはまさしくヒーローだった。
誰もが憧れたZだったが、金のない若者には絶対的な最強バイクであり続けたし、この頃、多くのZカスタマーは今に繋がる「伝説」を多く作った。排気量アップを前提としたチューンでZは無敵だったし、最高の素材でもあった。日本での異常なZ人気はそんなところからも来ているように思う。
直4勢が世を席捲すれば、当然アンチも生まれる。W系やXS650、CB450系といったビンテージツインの嗜好もこの頃急激に強まったように思う。ビッグシングルも切望され、1978年にはSR400/500が生まれた。

YAMAHA SR400
1978年
総排気量:399cc
エンジン形式:空冷4ストSOHC2バルブ単気筒
速くて安かった中古のマッハIIIの2型に一時乗ったことがあった。煙がスゴく、オイルとガソリンをバカ喰いしていたが、勝手にウイリーして大変…なんてことは無かった。腕のいいチューナーがイジった、Z2改・860ccに乗っていたガキの印象だが。

SUZUKI GT750
1971年
総排気量:738cc
エンジン形式:水冷2スト ピストンバルブ並列3気筒
驚いたのはGT750とTX750。両方とも友人が持っていて、よく乗せてもらった。GTこそ直線番長で、曲がるのは苦手だが低中域のトルクは怪物。低いギアなら右手だけでフロントが上がるほど。ダッシュ力は強烈のひと言だった。TXは振動がなく、非常に滑らかだが力もなく、つかみどころのない750だった印象がある。
1970年代当時、ビッグバイクたちは今よりもずっと高級だったし、それに見合う、手を掛けた念入りな造形でまとめられていた。美しいものはいつまでも美しい。
文:宮崎敬一郎