ヤマハYZ250FXをテクニクスが新たな思想でローダウン。その真意を探るべく、みっちりノービス目線のインプレッションを試みた
PHOTO/JNCC
オフロードバイクのディメンションを変更することについて
車高は昔からレーサーにとってセッティング項目の一つで、身長185cmのライダーであってもローダウンするモトクロストップライダーはいる。「低い位置で乗りたい」というライダーの意見もよく聞く。10年ほど前にハスクバーナのファクトリーを訪ねた時のこと、サスペンションだけでなくサブフレームで乗車位置を下げることが出来るオプションを、各ライダーで選べるようにしているのだと説明された。こういったセッティングの方向性は、時代と共にうつろうもので何が正解と言うことはないのだが、大事なことは車高の調整はセッティング項目の一つだということである。時折、メーカーが山ほどテストをして仕上げた仕様から変えるのはもったいない、という意見を聞くのだが、セッティング項目の一つなのだと理解できれば、コンプレッションアジャスターを回すがごとく、車高を調整することも視野にいれやすいのではないだろうか。
Technixの新ローダウンYZ250FX
テクニクスが2025年型YZ250FXを素材にして仕上げたローダウンモデルは、前後ショック長がフロントでノーマル比-20mm、リアが-7mmで、シート高は地面と平行に-20mm落ちている。なお、ベースとなった新型YZ250FX自体がYZ250Fから比べて-10mm下がっているため、およそ-30mmほどYZ250Fから下がっている計算になる。テクニクスの開発部小倉さんによれば「これまで我々が提供してきたYZ250FXのリバルビングレシピはしなやかにストロークし、ストロークで衝撃を吸収するものでしたが、今回のローダウン仕様は全ストロークの10%短くなるため、従来のコンセプトでは無理があると判断しアプローチの仕方を変えて『動き出しの瞬間にしっかり衝撃を吸収』する手法にトライしました。なお、私の知る限り、トップライダーの中にはギャップの衝撃吸収性能を捨ててまで、コーナー立ち上がりでの旋回性能を求めて10~15mmくらいの幅でローダウンする人が少なからずいました。ローダウンにも様々な方法がありますよね。私も身長が高くない方なのでいろいろ試してまして、シートなど5mm単位で削ってテストしたことがあるのですが、これだとハンドルとの相対的な位置関係が変わってしまう。それでは、とハンドルを下げても、やはり操舵性に違和感が残りました。ローダウンリンクによるローダウンは場合によってはレバー比が変化することで、メーカーが意図するサスペンション特性とはちがう動きになることがあります。ダンパーストロークで調整すれば、大きくディメンションを変えることなくメーカーが意図する操縦安定性を保つことができますね」とのこと。
筆者は身長180cmの万年ノービスライダーなのだが、実際このTechnixのローダウン車輌に乗ったところほとんど違和感を感じるところは無かった。最も顕著だったのは、ロールセンターが下がったような感覚で、僕にとってはノーマルよりも旋回しやすいと思えた。このロールセンターというのは後輪の接地点からフロントフォークに直角に交わるように引いた線のことを指し、このセンターを軸にバイクはロールしているという仮想的な概念だ。小難しい話を抜きにすると、要はバイクがリーンする時というのは前後タイヤの接地点を中心に円を描くのではなく、車高の中心あたりを通る軸でロールするということである。サスペンションが長いとこのロールセンターを感じづらいように思うし、YZ250FXのローダウン車からは明確に低いロールセンターを感じ取ることが出来た。バイクを曲げるときに、かなり低い位置でロールできる感覚がある。しかも、バイクを倒し込む時にハンドルが切れ込むような動きをすることがまったくなく、気を使わず適当に倒し込めるところがメリットだ。これは以前、トライアンフのTIGER1200を同じくTechnixでローダウンしてもらった時にも感じたことだが、サスペンションが長いせいかややシビアなハンドリングだったTIGER1200が、わずか30mm短くなるだけで落ち着いたハンドリングに変化した。
ローダウン車で感じたことはそれだけではない。小倉さんが「初期の動き出しを固めた」と言っていたビギニングの部分にとても好印象を受けたのだった。初期がしっかりしていることで、バイクのピッチングがほとんど感じられず、ブレーキング・旋回・脱出という一連のコーナリングが下手な筆者には「どこからでもだらりとルーズに曲がれる懐の深い」マシンに変貌した。この日、元全日本MXチャンプである成田亮向けにセッティングされたというハスクバーナTE250にも乗ったのだが、こちらはノーマルより遙かに柔らかいサスに仕上がっていて(そもそもこの事実にもびっくり)、ブレーキングギャップなどをほとんど無視できる魔法の絨毯のような乗り心地だったのだが、反面ピッチングは深く入る仕様になっていた。つまり、僕のような万年ビギナーが乗ろうとすると、サスペンションをしっかり沈めたまま旋回モーションに入ることができず、ぎくしゃくしてしまう。「柔らかいサスペンション」という言葉は初心者に向けたものとしてセットで考えられがちだが、見方を変えると常にそういうわけではないのだと理解できて目から鱗がぼろぼろ落ちた。ローダウンするために若干固めたサスペンションが、僕のようなビギナーにバチッとハマる場合もあるのだ。「これはすごいっすね!」と感動していると「そうだ! 明日のWEX(JNCCの簡易版でサンデーレーサー向け)にこのローダウンサスを使ってみてくださいよ」とありがたいお申し出をいただいた。ええ……でも、それっていつもみたいな生半可な走りが出来ないってことでは……。
2時間も乗り込んで確信できたこと
この日のWEXの舞台は埼玉県のオフロードヴィレッジ。なにげにオフヴィWEXは3年連続で出ているのだが、ゲレンデなど高低差が激しく難しいとされているコースよりもさらに苦手だ。なぜならフラットコーナーが苦手過ぎるから。あまりに下手過ぎてフルサイズに乗っていても4ストミニにつつかれてしまう始末。頑張って開けても滑っちゃうし、フロントが掬われないか心配すぎるし、かといってフラットトラックの練習をしにくるには億劫である(すいません)。また1年、フラットコーナーの練習を一度もしないまま、ここに来てしまった。ただ、今回はローダウンサスに加えて一応の打開策はある。リアタイヤにIRCのVE-33sゲコタを履いていることだ。ご存じの通りゲコタは非常に柔らかいコンパウンドでハードエンデューロライダーご用達なのだが、ロードのスリックタイヤよろしく柔らかさでハード路面に食いついてくれる(はずだ)。
いざレース本番。このセットアップが予想以上にぴったりハマった。というか、このゲコタを下支えしてくれたのがまさにテクニクスのローダウンサスだったのである。前述した通りピッチングモーションが少なく、ロードバイクのように扱えるので、(僕にとっては)スッとコーナリングでバイクを倒し込みやすい。おまけにYZ250FXは最もパワーを抑えたモードにしてあるので、身体が遅れることなく積極的にライディングポジションをとっていける。コースの後半では岩と丸太に何度もハマってしまったが、これはローダウンサスとは関係なく、単に僕のテクニック不足。いまこれを書いている最中に思ったけど、せっかくゲコタを履いていったんだからもっと果敢に激しいラインを選んでいけば良かったなぁ。
ちなみに小さめのブレーキングギャップが連続するところでは、若干ながらサスペンションの硬さが気になったのだが、これは前日に成田亮仕様のすさまじく柔らかいマジックカーペット仕様のバイクに乗ってしまったからというのもあるだろう。ともあれ、僕自身の得手不得手を抜きにすれば、今回のWEXオフロードヴィレッジにはぴったりハマったんじゃないかと思う。120分かけてしっかりレースで乗り込んで確信したのは、ほとんどのシチュエーションでこのローダウン仕様が有効だったということ。
リザルトは昨年から向上せずクラス33位。何人エントリーしたかは伏せておきたい。遠くから見てくれていた鈴木健二さんからは「走りがびびりすぎ笑、もっと大きく走っていいんだよ」とありがたいコメントをいただき、テクニクスの中木さんからも「あんまりサスペンションよくなかったですか? すごい苦労して走っていたように見えましたよ」と言われる始末。いえ、それは苦労している姿ではなく、僕の真実の姿です。