マルク・マルケスがスプリントを制し5年ぶりのポイントリーダーに
レースウィークは晴天に恵まれたものの、東南アジア特有の高温多湿な気象条件により、スプリント開始時には気温37度、路面温度57度まで上昇。タイヤ、マシン、ライダーのみならず、関係者やファンにとっても厳しいコンディションとなった。
世界選手権でヴァレンティーノ・ロッシが保持している通算9度の世界タイトル獲得に並ぶべく、勝てる環境を再び手に入れたマルク・マルケス。念願のドゥカティファクトリー入りを果たし、最高峰クラスで7度目の栄冠を目指すマルケスがいきなりポールポジションを獲得してみせた。
2番グリッドにはテストからの好調をキープしたアレックス・マルケス(Gresini Racing MotoGP)が入り、兄弟でフロントローを独占。3番グリッドにはチャンピオン奪還を目指すフランチェスコ・バニャイア(Ducati Lenovo Team)がつけている。
最高峰クラスに昇格した小椋は予選でいきなりQ2に直接進出を果たすと、なんと5番グリッドを獲得。ホルヘ・マルティンが欠場しているとはいえ、アプリリア勢の中でトップタイムを叩き出し、土曜日から関係者やファンの度肝を抜いた。
灼熱のコンディションの中、13周のスプリントレースがスタート。マルケス兄弟、バニャイアが無難にスタートを決める中、MotoGPクラスで初めてのスタートとは思えない見事なクラッチミートを決めた小椋が4番グリッドスタートのジャック・ミラー(Prima Pramac Yamaha)を抜き4位に浮上した。
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5番グリッドスタートの小椋はアウトからジャック・ミラーをオーバーテイクし4位に浮上した。
トップのマルク・マルケスは序盤から快調に飛ばし早くもマージンを築いていく。その後ろをアレックス・マルケスとバニャイアが続く中、小椋は淡々と2度の王者に輝いたバニャイアについていく。
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アレックスとバニャイアという強力なドゥカティ勢についていく小椋。
大きな順位変動はなく、トップのマルク・マルケスが2位の弟に対して1秒以上のギャップを築きペースをコントロール。4位の小椋はバニャイアに離されるどころか、終盤にはギャップを詰める走りを披露する。小椋とバニャイアは選択したタイヤのコンパウンドがソフトとハードで選択が異なっていた。バニャイアはハードを選ぶも摩耗に苦しむ結果となってしまったが、3位をキープする。
先頭のマルケスはトップでファイナルラップに入ると、チェッカー前にはパフォーマンスする余裕を見せながらフィニッシュ。2025年のオープニングレースで早くも移籍後初のトップチェッカーを受けた。
2位はアレックス・マルケスが続き、3位にはバニャイアが入った。そして小椋が4位のままチェッカー! 目下最強と言われるドゥカティ勢に大きく離されることなく周回し、デビューレースでいきなり4位でのフィニッシュというこれ以上ない結果を出してみせた。
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圧倒的な強さを誇ったあのマルク・マルケスが帰ってきた!
この小椋のパフォーマンスに海外のジャーナリストやMotoGPの公式も「MVP of the day」と小椋を大絶賛。日本でも驚きをもって小椋の4位入賞のニュースが届けられた。
史上初! マルケス兄弟が最高峰クラスでワンツーフィニッシュ|小椋藍がデビューレースで5位入賞
迎えた決勝日は上空に薄い雲がかかりながらも、気温36度、路面温度49度まで上昇し厳しいコンディションとなった。
タフなコンディションの中、26周決勝レースがスタート。スプリント同様にポールシッターのマルク・マルケスが先頭を譲らずトップのままターン1を通過していく。
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スプリント同様、スタートを決めたマルク・マルケスがトップをキープしながらターン1へ。
一方、2番グリッドスタートのアレックス・マルケスがターン1でアウトに膨らみバニャイアが2位に浮上。小椋もインをつき3位に浮上するも、続く直線でアレックスが抜き返し、バニャイアからも2位を奪い返してみせた。
4周目、9位を走行していたペドロ・アコスタ(Red Bull KTM Factory Racing)がクラッシュ。その前では4位を走行していた小椋がフランコ・モルビデリ(Pertamina Enduro VR46 Racing Team)にパスされ5位に後退となった。
7周目に入るとトップのマルク・マルケスは2位以下に1秒以上のギャップを築き快調に飛ばしていた。しかし、ストレート区間で後ろを目視すると、アレックス・マルケスを先行させた。
実はこの交代劇はマルク・マルケスの思惑によって決行されたものだ。マルケスはオープニングラップからタイヤの内圧が規定値を下回っていることを確認。タイヤの内圧既定値を下回った状態で走行を続けるとタイムペナルティが科されることとなっているため、意図的にアレックスを先行させたのだ。
過去に同じペナルティを科された経験があるマルケス。ペナルティを避けるための戦略だが、今回のようにペースのある状況だからこそできた作戦である。
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弟アレックスの背後にピタリとつけ、タイミングを伺うマルク・マルケス。
タイヤが厳しくペースが落ちた弟の背後につき、2位で周回を重ねたマルケスは残り4周、ターン12のブレーキングでアレックスをオーバーテイクしトップに浮上。その後一気に後続を引き離したマルケスがトップチェッカーを受けポールトゥウィンを達成した。
ドゥカティファクトリーのデビュー戦を完全制覇したマルケスはチャンピオン争いにおいて最高のスタートを切った。2位は終盤バニャイアに追い詰められるもポジションを守り切ったアレックス。MotoGPの決勝で兄弟によるワンツーフィニッシュは史上初の快挙となった。
マルケスをチームメイトに迎えたバニャイアは3位でフィニッシュ。チャンピオン争いにおいて重要な表彰台を確保したバニャイアだったが、この完敗はかなりのダメージになりそうだ。
トップチェッカーを受けたマルケスから7.4秒後、小椋が5位でフィニッシュ。決勝でも安定したラップを刻みミスを犯さなかった小椋の走りは世界に強烈なインパクトを与えた。
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ルーキーがデビューレースでトップ5に入ったのはファビオ・クアルタラロ以来の快挙。
2025 MotoGP 開幕戦タイGP 決勝結果
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意外にもマルク・マルケスが開幕戦を制したのは2014年で11年ぶりの優勝となった。
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チャンピオンたちも無視できない小椋の輝き
世界最高のライダーたちがひしめく中、デビュー戦で見事な走りを披露した小椋藍。この鮮烈なデビューにチャンピオンたちも驚いているようだ。
スプリントレース終了後、優勝したマルク・マルケスと3位のフランチェスコ・バニャイアが4位に入った小椋について言及。
バニャイアは「レース終盤、彼が詰めてきた、信じられない」とコメントし、マルケスもこの活躍に驚いていた。
また、小椋自身はバニャイアの前に出たかったものの、タイヤを使ってしまうため4位キープすら危うくなるため仕掛けなかったとコメント。4位という結果は我々の想像以上のものだったが、ルーキーがデビューレースでこのような考え方ができることが何より驚異的である。
マシンとトラックの相性もあるだけに、今後ファクトリー相手に厳しい戦いが続くかもしれない。しかし、小椋が世界に与えた影響はチャンピオンたちも無視できないことだろう。
次戦は3月14から16日にかけて南米アルゼンチンで行われる第2戦。昨年開催されなかったアルゼンチンラウンドが復活する。
レポート:河村大志