受難続くマルティン
ディフェンディングチャンピオンのホルヘ・マルティン(Aprilia Racing)は、シーズン前に怪我をして開幕3戦を欠場も、第4戦カタールGPで復活を果たした。しかし、決勝では14周目に転倒。真後ろを走っていたファビオ・ディ・ジャナントニオ(Pertamina Enduro VR46 Racing Team)と接触してしまったため、胸部を負傷してしまった。
このアクシデントでマルティンは11カ所の骨折に加え、気胸も併発し入院。手術は成功し入院生活が続いていたマルティンだったが、今月20日にチームによりマルティンが退院したことが発表された。
マルティンは退院したものの、カタールで療養を続けている。復帰に関しては約3カ月ほどかかるとも指摘されており、チャンピオンにとって受難のシーズンとなってしまった。
今回は完治を待たず復帰を焦ってしまったマルティン。今シーズンは心身ともに万全の状態でサーキットに帰ってくることを心から願いたい。マルティンの代役はこれまで通り、ロレンソ・サヴァドーリが務めることが発表されている。
クアルタラロがポール獲得もM.マルケスがスプリント5連勝
ヨーロッパラウンドの幕開けとなる今大会。舞台は熱狂の地ヘレスだ。多くのファンが集結するラウンドでもあるスペインGPだが、予選から大きな盛り上がりをみせた。それはドゥカティファクトリーに加入した地元の英雄マルク・マルケス(Ducati Lenovo Team)の凱旋ではなく、2021年のチャンピオンであるファビオ・クアルタラロ(Monster Energy Yamaha MotoGP Team)が2022年以来のポールポジションを獲得したからだ。

オールラップレコードを更新するメガラップでポールポジションを獲得したクアルタラロ。
ヤマハと共に苦しい戦いが続いていたクアルタラロ。しかし、この第5戦でオールラップレコードを更新したマルク・マルケスを上回るタイムを記録してみせた。目下ランキング首位を独走し、地元に戻ってきたマルク・マルケスのサポーターの数は凄まじく、ヘレスは大いに沸いた。しかし、チャンピオン経験者のクアルタラロがここ数年勝てていなかったことをスペインのファンも理解していた。ゆえに、このフランス人の復活劇にスペインのファンは惜しみなく拍手を送るのだった。
そんなエモーショナルな予選後に行われたスプリント。クアルタラロがポールポジション、2番グリッドにマルク・マルケス、3番グリッドにはフランチェスコ・バニャイア(Ducati Lenovo Team)がつけた。
気温24度、路面温度45度のドライコンディションのなか、12周のスプリントレースがスタート。

注目が集まったスタートはM.マルケスが素晴らしい蹴り出しを見せた。
注目が集まったスタートではマルク・マルケスが見事な蹴り出しを見せてトップに立つも、ターン1へのブレーキングでクアルタラロがインに飛び込みトップの座を死守する。
クアルタラロとマルク・マルケスの2台は序盤から全開。オープニングラップで早くも抜け出し、3番手につけるアレックス・マルケス(Gresini Racing MotoGP)を引き離す展開に。
ハイペースで先頭を走る2台は2周目、バックストレートでマルク・マルケスが加速の優位性を利用し並びかけると、ターン6のブレーキングでインにつきトップに立つ。その瞬間、クアルタラロがブレーキング時に挙動を乱し転倒。ヤマハ、そしてクアルタラロにとって初のスプリント優勝の夢が序盤で潰えてしまった。
ライバルがいなくなったマルク・マルケスはトップを快走。2番手のアレックス・マルケス、3番手のバニャイアは1秒差で続き、バトルもなく淡々と周回を消化していく展開となった。
ペースをコントロールしたマルク・マルケスが2周目以降トップの座を明け渡すことなくトップチェッカー。スプリントでは開幕から5連勝を達成した。2位にアレックス・マルケス、3位にはバニャイアが入り、ヨーロッパラウンドに入ってもドゥカティによる表彰台独占が続いている。

マルケス兄弟のワンツーに地元ファンは大熱狂。
15番手スタートの小椋藍(Trackhouse MotoGP Racing)は順位をあげるも12位でフィニッシュしポイント獲得ならず。決勝での巻き返しに期待がかかる。
22万人が大熱狂! アレックス・マルケスがMotoGPクラス初優勝!

22万人が見守る中、トップを走るアレックス・マルケス。
迎えた決勝も天気に恵まれ、気温25度、路面温度は44度にまで上昇。スプリントでも転倒者が多かっただけに、25周の長丁場では、より過酷なレースになることが予想された。
スタートではクアルタラロがホールショットを奪い、バニャイアが一気に2番手に上がってきた。先行逃げ切りを図るクアルタラロの後ろでは、ドゥカティファクトリーの2台が激しいバトルを繰り広げる。
バニャイアとマルク・マルケスは時折接触しながらバトルを展開。ここはバニャイアに軍配が上がった。
チームメイトの思わぬ好走に計画が狂ったか、マルク・マルケスが3周目のターン9でまさかの転倒。オーバースピードによりフロントが切れ込み、スリップダウンを喫してしまった。マルク・マルケスはすぐにコースに復帰するも、最後尾に順位を落としてしまった。
優勝候補最有力が姿を消し、優勝争いはクアルタラロ、バニャイア、そしてアレックス・マルケスの3台に絞られる。
母国での初優勝の可能性が見えてきたアレックス・マルケスは、4周目にバニャイアを攻略すると、トップのクアルタラロに接近。しかし、すぐには抜けず、クアルタラロが優勝へ執念を見せる。
クアルタラロが首位の座を守っていたが、熱狂的な母国の声援を背に、アレックス・マルケスが動いた。11周目のターン1、ブレーキング勝負でついにトップに躍り出たのだ。
奇しくもターン1の先には、マルク・マルケスの応援団がいる場所である。このオーバーテイクにサーキットに訪れた22万人のファンは大熱狂。トップに立ったアレックス・マルケスは、大逃げを試みることはなく、タイヤの保ちを考えながら1秒のマージンを築きレースを引っ張った。

ペースをコントロールし、レースを引っ張るアレックス・マルケス。
2番手に落ちたクアルタラロにはバニャイア、そして前戦カタールで好走したマーベリック・ビニャーレス(Red Bull KTM Tech3)が迫ってきた。3者はコンマ5秒ほどの間隔でミスを犯せない緊張感のある走りが続いた。
最終的に2秒のギャップを築いたアレックス・マルケスがトップチェッカー。最高峰クラスでの初優勝を、地元スペインで決めた。
2位にはバニャイアのプレッシャーを跳ね除けたクアルタラロ。2023年インドネシアGP以来、560日ぶりの表彰台獲得となった。3位にはバニャイアが入っている。
レース序盤に転倒を喫したマルク・マルケスはコース復帰後、ダメージの残るマシンながら追い上げをみせ12位でゴール。ランキング首位の座を弟に譲ることになるも、貴重な3ポイントを獲得している。
15番グリッドスタートの小椋藍(Trackhouse MotoGP Racing)は、スタートで順位を上げると、その後も粘り強い走りを披露。転倒者が出たこともあり、8位でフィニッシュし、ポイントを獲得した。
次戦は5月9日から11日にかけて行われるフランスGP。苦難の時期を乗り越えて、表彰台を獲得したクアルタラロにとって、次戦が母国凱旋となる。
ヤマハは現在、V4エンジンの投入が噂されている。ハンドリングに定評のあるヤマハにとって好成績が期待できるサーキットといえたへレス。しかし、800cc、V4エンジン、そして現行車とリソースが細分化されてしまっている中での2位獲得は、これ以上ないと言っても過言ではないほどの成果と言える。
そして次戦のブガッティサーキットも過去ヤマハが好成績を残し続けてきたトラック。アレックス・マルケスがスペイン人を熱狂させたように、クアルタラロがフランス人を熱狂させる瞬間が訪れるのか、次戦も注目が集まる。
2025 MotoGP 第5戦スペインGP 決勝結果

ドゥカティ勢に割って入ったヤマハのクアルタラロ。次戦は母国であるフランスGPだ!

レポート:河村大志