※オートバイ2017年6月号より
進化していないと、困るんです!
全日本ロードレース開幕直前の撮影となったこの日、伊藤さんの視線は真剣そのもの。「新型の市販車をちゃんと見るの初めてなんだよね…」と言いながら、CBR1000RRの素性を確認すべく試乗テストを決行。趣味のバイクとして、そしてレーサーのベースモデルとして、シビアに分析してもらいました!
予想していた以上の進化を果たしていたCBR、中でも足まわりのバランスは上々!
取材日(※2017年4月17日)の2日後から鈴鹿サーキットに行って、週末の全日本選手権でこの新型CBRのレーサーで走ることになっているのですが、ちょうどタイミングが良いですね(笑)。僕はロードレースでは2008年から旧型のCBRとずっと付き合ってきましたが、新型は旧型と比べてどんなものなのだろう? とずっと気になっていました。周囲からは、いつでもニューモデルや新型車に乗ることができると思われているみたいですが、決してそんなことはないですよ(笑)。
CBRとの付き合いが長いためか、新型を見てもそんなに新鮮味はありませんが、スタイリングはかなりカッコ良くなりましたね。試乗前は、構成部品が大幅に変わっていないと聞いていたので、旧型とそんなに変わったところはないのだろう、と思っていましたけど、乗ってみて旧型と全然違うのでビックリしました。ほとんど旧型と同じような構成部品なのに、新型は旧型とはまったく違う。その点が不思議に思えるし、面白くも感じます。
フレームやスイングアームは旧型から肉厚を変更するなど、剛性の最適化と軽量化が図られています。一般のユーザーの方はガラッと見た目が変わっていないので、旧型からのマイナーチェンジ程度の変化と考えるかもしれません。実は自分もそうでしたけど(笑)、走らせてみると全然違うオートバイだと驚かされますね。乗り味がこれだけ変わっているから、新型は単なるマイナーチェンジではなく、完璧な新型と言って良いと思います。同じような構成部品を使いながら、上手く商品価値を上げているモデルチェンジだと思います。
サスペンションが良くなっていることについては、後で触れるとして、フレームについてはあえて大きく変える必要もなかったのでしょう。90年代にホンダのエースとして世界ロードレース選手権で活躍したミック・ドゥーハンは、10年近く同じフレームを使ってました。最近ではモトGP王者のマルク・マルケスが、新型ではなく旧型のフレームを使ったりしていますよね。変える必要がないものは、やっぱり良いものは良い、ということなのだと思います。
新型の前後のサスペンションは、フレームを含めて旧型よりもバランスが良くなった印象です。旧型も悪かったわけではないですが、フロント側の動きに、リアが一緒に動く感じではない場面もあったりしました。その点で新型は、前後のサスのバランスがすごく良いです。何度も言ってしまいますが、旧型とは違うオートバイみたいですね。前後ともに作動がしなやかで、ギャップの突き上げも感じなかったです。どうしたの、こんなに良くなっちゃって、と思いました。公道のワインディングでも、すごく乗りやすくて楽しめる設定です。
他メーカーのオートバイは、乗り手にその車に合った乗り方を強いる例もあったりしますが、ホンダ車は万人向けと言われることが多いですね。新型CBRもある意味、普通に乗りやすいオートバイという感じでしょう。ホンダは品質管理としての、走行実験の評価がとても厳しいので、仕上がった製品が誰でも乗れると言われることが多いのだと思います。新型CBRもそうなのでしょうが、これだけの性能のバイクを、そういう風に誰でも乗れると思えるように仕上げられることは、すごいことだと思います。
ブレーキについては、レースで最高峰の製品に触れているので厳しい目でいつも見てしまうのですが、公道用のCBRのブレーキはレース用の最高峰と比べると当然見劣りします。ただ量産車としての必要性、コストのことを考えれば、最高峰のブレーキをつける必要はないですね。新型CBRのブレーキは公道用として、フレームとサスペンションとのバランスが取れている製品だと思います。
ロードレーサーのベースマシンとしても、確実に良くなっている!
新型CBRが旧型と全然違うオートバイに思える、一番の理由はスロットルバイワイヤでしょうね。燃料系がキャブレターからインジェクションになったとき、そしてワイヤ操作のスロットルから、スロットルバイワイヤになったときも、セッティングが色々難しくなりましたが、今では頭の中に燃料噴射の制御マップがあって、こういう風に燃料を吹いているんだろうなと、わかるくらいにまで熟成されています。
新型CBRの試乗を今回する前に、一番気になっていたのはスロットルバイワイヤの仕上がりでした。以前、RC213V-Sを試乗したときに感じたように、スロットルの「ツキ」がすごく滑らかで、非常に乗りやすくて安心しました。旧型では少しあった「ドンツキ」もないので……。RC213V-Sに乗ったときも、スロットルバイワイヤの感覚が抜群に良かったですが、新型も同じくらい良かったですね。
今回はオートシフターを標準装備するSPではなく、標準ではオートシフターを装備しないスタンダードに試乗しましたが、新型CBRはオートシフターみたいに、シフトペダルに触れるだけのような感触でポンとシフトアップできるんです。元々機械としてギアボックスの精度が良くないと、そういう風にはならないのですが、スロットルバイワイヤの操作でちゃんと駆動力がしっかり切れるから、オートシフターがついていると錯覚するくらい、スムーズにシフトアップができるんです。ロードレースで新型CBRを使うことを考えたときも、一番大事なのはスロットルバイワイヤです。これでいかようにもできる、というくらい今のロードレースでは重要なポイントなのです。
速く走るためにはスロットルの開け方も大事ですが、減速が一番重要なんです。MotoGPマシンのように「減速制御」が入っているオートバイと、入っていないオートバイでは、減速時に止まれる位置が30メートルも変わってしまうんです。実はMotoGPマシンって、メチャクチャ乗りやすいです。例えば600㏄のスーパースポーツ、1000㏄のJSB、そしてMotoGPのテストをしているとき、どれが一番安全かというとMotoGPです。
MotoGPマシンは構えることなく乗ることができます。まぁ速く走らせるには技術が必要ですが、突然ハイサイドして転ぶようなことはまずありません。MotoGPマシンからJSBに乗り換えると、ハイサイドしやすいから気をつけようと思いますね。600㏄スーパースポーツはどこでも全開みたいな……全開、全開、また全開、フルバンク状態でも開けるぞ、みたいな感じです。
新型CBRはスロットルバイワイヤの出来をはじめ電子制御が良くなっていて、旧型よりパワーフィールもフラットになっているのが良いですね。エンジンも基本構成はフレーム同様に変わっていませんが、新型は「燃え方」がいいですね。細部の見直しで、燃焼室内で綺麗に燃焼しているフィーリングがあります。公道車としての素性が良くないと、ロードレーサーとして仕上げたときも良くならないですが、新型CBRは旧型よりもロードレーサーのベースマシンとしては確実に良くなってます。
エンジンのモードは切り替えが可能で各モードを試してみましたが、プリセットで選択できるフルパワーのモード1が、一番出力の特性は良いですね。国内仕様のフルパワーのモデルに乗ったのは、この新型CBRが初めてなのですが、公道では扱いきれないほど馬力があるなぁ、と思うほど速いですね。これくらい馬力があると、オーナーになる方は嬉しいだろうなって思いました。
高性能さゆえの速さを、自分の技量と勘違いしないように!
評判を聞くと、多くのホンダファンが期待して待っていたこともあり、新型CBRは非常に売れているみたいです。顔つきが旧型からかなり変わってますが、機能的にも新型のLEDのヘッドライトが明るくて良いですね。旧型より軽量化されているみたいですが、乗った感じではそんなに車格とか、軽さやコンパクトさは、なぜか感じなかったです。ただ走らせると、バランスは確実に良くなっているので、軽量化は効いているのでしょう。そのほかにも新型CBRのいいところはいっぱいありますが、乾いたエキゾーストノートで、音が非常に良いです。
ひと昔前のリッターバイクに比べると、この新型CBRははるかに乗りやすいです。そして精度の高いABSやトラクションコントロールが備わっているので、スロットルを開けるときも、強くブレーキをかけるときも、安心して行うことができると思います。
ただ、新型CBRは気がつくととんでもないスピードレンジに入っちゃうこともあるので、乗るときは気持ちをきちんと持ってちゃんと制御しないといけません。まぁそれは、バイク全般に言えることですけど。それくらい推進力があるので、やっぱり乗るときには「気構え」が必要です。新型の高性能さゆえの速さを、自分の技量と勘違いすると危ないですね。一般のユーザーの方は、1、2、3速のギアポジションで全開で走ると、周りの景色に目がついていかないと思います。ABSも万能ではありませんから、本気で走りたいときは、サーキットに行きましょう。
レーシングマシンとして考えたとき、2008年以来のモデルチェンジというのは、世代としては2世代違うくらいの話になってしまいます。そういう意味では、僕のようにロードレースでCBRを使う人にとっては新型は待望のモデルでもあります。
でも、一般のユーザーの方にとっても、新型CBRは旧型とは全然違うオートバイなので、新型に乗るメリットは大きいと思います。そう言い切れるほど、新型CBRは良いモデルですね。他社の最新型リッター・スーパースポーツと並べたとき、旧型では古臭いと思っていた方も、新型CBRであれば皆新鮮に思うのではないでしょうか。
車体とエンジンを一新したフルモデルチェンジではないので、過渡期のマイナーチェンジと考える人も多いみたいですけど、これだけエンジン、電子制御、そして車体とサスペンションが旧型から進化しているわけですから、これはフルモデルチェンジと断言できるなと思います。
全長×全幅×全高 2065×720×1125㎜
ホイールベース 1405㎜
最低地上高 130㎜
シート高 820㎜
車両重量 196㎏
エンジン形式 水冷4ストDOHC4バルブ並列4気筒
総排気量 999㏄
ボア×ストローク 76.0×55.1㎜
圧縮比 13
最高出力 192PS/13000rpm
最大トルク 11.6㎏-m/11000rpm
燃料タンク容量 16ℓ
変速機形式 6速リターン
キャスター角 23゜20′
トレール量 96㎜
タイヤサイズ(前・後) 120/70ZR17・190/50ZR17
ブレーキ形式(前・後) φ320㎜ダブルディスク・φ220㎜ディスク
価格 204万6600円(ヴィクトリーレッド)
ライディングポジション
旧型よりも軽量・コンパクトになったのが、新型CBRの大きな特徴ですけど、パッと見で旧型よりも小さくなっていることがわかります。ライディングポジションは、僕が慣れ親しんだ旧型から大きく変化した印象は受けなかったのですが、基本レイアウトを大きく変える必要性がないという判断を、開発の人たちはしたのでしょう。