伝統のメカニズムが発するテイストも魅力のひとつ
モト・グッツィのV7シリーズはネオクラシックモデルの中でもかなり個性的。かつてモト・グッツィを欧州に冠たるブランドにしたスーパースポーツモデル「V7スポーツ」の雰囲気をスパイスにしているが、中でも、この「レーサー」は往年のクラブマンレーサー色を強く醸し出しているのが特徴だ。
しかし、中身はまぎれもなく現代のバイク。現代の技術とクオリティで造られたフレームに、同じく現代のVツインエンジンを搭載している。個性的…というのは、それにもかかわらず、この姿同様に、伝統的な横置きVツイン(縦置きクランク)のグッツィらしい、独特のハンドリングやエンジンフィールを濃厚に発散している事だ。これは古いというより「味」と言うべきだろう。
そんな「レーサー」が新型になった。今回は細部の見直しがメインという事もあり、外観的にはほぼ同じ。各部パーツの質感を高めているのと、カラーリングと部分的な外装材質の変更などが主役だ。ステアリングまわりを軽量化し、リアサスにはオーリンズのショックを採用して、走りも充実させている。
まるでレールに乗っているかのような高速安定性でありながら、身のこなしがそこそこ軽快で、バイクの動きと体重移動、スロットルワークがシンクロすれば、その安定感を常に維持した身のこなしでキレよく走れる操縦フィールだ。この「レーサー」はいいサスペンションと前傾姿勢のライポジの威力で、シリーズ中でも、特に旋回性と荒れた路面でのスタビリティが光る。従来型に対し、コーナリング時のフロントの応答性などが軽く、身のこなしが一層軽くなっていて、グッツィらしさは多少丸められているものの、独特の感触は健在。一度味わうと、なかなか忘れられない「テイスト」になる。
エンジンの最高出力は52馬力。数字だけで見れば、このクラスにしては大した事のないスペックだが、トルクは強い。2500回転ほどの低回転域からズババッと弾けるような音とパルスを発しながら力強く加速したり、4000回転ほどで軽やかな咆哮を発しながらクルーズするには十二分な力だ。カタログスペックが同じようなミドルクラスのモデルなどよりずっとダイレクトで力強く、排気量に見合った頼れる力量がある。
ちなみに100㎞/hの6速での回転数は約3600回転。これくらいの回転域からビックリするほど滑らかで、スロットルを開けた時だけ身震いしながら加速するフィーリングになる。面白いのは極低回転域で、ギアの唸る音や冷却フィンの共鳴など、ざわつくエンジンの躍動が楽しい。騒々しくはないが、ザワザワと騒ぐような感覚が、不思議と「動いているという実感」として伝わるのだ。
これをどう感じるかはオーナー次第だが、昔のエンジンを知る人間には、これがなんだか懐かしいザワめきに感じられる。不思議なバイクだ。
全長×全幅×全高 2185×740×1100㎜
ホイールベース 1463㎜
最低地上高 NA
シート高 770㎜
車両重量 213㎏
エンジン形式 空冷4ストOHV2バルブV型2気筒
総排気量 744㏄
ボア×ストローク 80×74㎜
圧縮比 NA
最高出力 52HP/6200rpm
最大トルク 6.12㎏-m/4900rpm
燃料供給方式 FI
燃料タンク容量 21ℓ
キャスター角/トレール NA
変速機形式 6速リターン
ブレーキ形式 前・後 φ320㎜ディスク・φ260㎜ディスク
タイヤサイズ 前・後 100/90-18・130/80-17
DETAIL
RIDING POSITION(身長:176㎝ 体重:68㎏)
車格同様、日本人の体格にも合うコンパクトなライポジ。ストーンよりステップを後退させ、ハンドルを低いセパレートにしてあるのでレーシーな雰囲気だが、現実的にはストリート用。下半身と上半身のマッチングが微妙で、戦闘的な操作では上体を支え難い。
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