なんだか後味の悪いレースになってしまいました。MotoGP第2戦アルゼンチングランプリ。土曜~日曜の予選~決勝で、スッキリしなかった天候が、スッキリしない結果を生んでしまったのでしょうか。今回のアップは長いですよ、心して読んでください。

ジャック・ミラー輝く 予選から決勝!

画像: 初優勝はアッセンだったでしょうか、ジャック! あのレースもこんな路面コンディションでした

初優勝はアッセンだったでしょうか、ジャック! あのレースもこんな路面コンディションでした

公式予選で輝きを放ったのが、今シーズン、プラマックドゥカティに移籍したジャック・ミラー。ウェット路面でスタートした公式予選で、ほとんどのライダーがスリックorレインタイヤか迷った結果、レインタイヤでの出走を決意していたというのに、ミラーだけは予選後半、つまりタイム出し本番でスリックタイヤを選択! コースにはあちこちにウェットパッチが残り、コース中盤には完全に水たまりまであったというのに、ミラーは暴れるマシンをコントロールし、それでも300PS近くを発揮するドゥカティ・デスモセディチに振り回され、なんとかかんとか予選を走り切ったのです!
 
Q2の、終盤の展開はこんな感じでした。
ラスト4分くらい、アレイシ・エスパルガロ(アプリリアレーシング・グレシーニ)が1分48秒509でトップタイム。次にアレックス・リンス(スズキエクスター)が1分47秒743でトップへ、かわってダニ・ペドロサ(レプソルホンダ)が1分47秒330で残り1分でトップ! しかし、この頃セクターベストタイムをマークしながら走っていたミラーが1分47秒859で5番手へ、さぁ残り10秒で最終ラップ、という局面でヨハン・ザルコ(モンスターヤマハテック3)もマルク・マルケス(レプソルホンダ)もバレンティーノ・ロッシ(モビスターヤマハ)もタイムを更新できないなか、ミラー劇場が開幕したのです。ほとんどのライダーがチェッカーを受けてタイムアタックを終了したのち、ミラーはアタックを続行! そしてミラーは1分47秒153でポールポジションを獲得!
この時の英語の実況が楽しかった^^
「チェッカーが出ました。さぁダニが13年のキャリア32回目のMotoGPポールポジション、ティト・ラバットがMotoGPキャリア初のフロントローを獲得しましたね……いやちょっと待って! ミラー? ジャックが来た! ポールだ! オー、ワーオ! なんてライディングだ! スリックタイヤで信じられない勇気! イッツ・ジャッカス・タイム! 2014年のマレーシアGP以来のポールポジションだね! あの時はMotoGPじゃなくてMoto3だけど!」

ミラーの計測タイムシートは、こんなです。
→レインタイヤでスタート
①1分49秒552 ②1分52秒706
→ピットインしてスリックに履き替え
③1分52秒920 ④1分49秒568 ⑤1分47秒859 ⑥1分47秒153
この最終タイムがポールポジションにつながったのです!

画像: 初ポールポジション! ドゥカティ向きだと言われていた本領、発揮するでしょうか

初ポールポジション! ドゥカティ向きだと言われていた本領、発揮するでしょうか

「ビッグギャンブルだったね。コースは結構乾いていたけど、7~8コーナーはまだ完全に濡れてたし! でもスリックでコースインするのはカンタンじゃなかったけど、自信があった。正しい判断だったのは、僕はこんなにうれしい、ってことでわかるでしょう!」とジャック・ミラー。予選3番手にラバトですね、ミラーの相方、ダニロ・ペトルッチは今回予選で沈んじゃったけど、サテライト・ドゥカティって、雨にめっぽう強いですね。
ドゥカティのサテライトチームのライダーがポールポジションを獲得するのは初めてで、2018年は開幕戦カタールのヨハン・ザルコに続いて、2戦連続でサテライトチームのライダーがポールポジションを獲得したことになります。

あのマルク・マルケスが、セッション終盤にスリックタイヤで出ていったものの、ほんの1周で危険と判断、レインタイヤ装着のマシンに交換して再コースインしたほどでしたもんね。そう、このアルゼンチンGPのもうひとりの主役は、このマルケス。その話は後半で。

決勝レース 開始前グリッドから事件が…

決勝レースは、またもミラーの「信じられない勇気」で幕を開けることになります。決勝日朝のウォームアップ走行も雨。しかし、MotoGPクラスに先立って行われたMoto2クラスのレースでは徐々に路面が乾いていき、MotoGPクラスの進行もスタート。「ウェットレース」宣言が出された進行で、おそらくこの時点で全員がレインタイヤでグリッドに並んでいたはずですが、サイティングラップを1周回って「あれ?スリックで行けるんじゃね?」と思い始めたようで、続々とピットへマシンを引き上げます。タイヤ交換orマシン交換ですね。

画像: ミラーがポールポジション、他の23人は3列くらい後退という見たこともないグリッド

ミラーがポールポジション、他の23人は3列くらい後退という見たこともないグリッド

しかし、ここでひとりだけブレない男がいたんです。それがポールシッター、ジャック・ミラー! 最初からスリックでコースインしていて、タイヤ交換にピットへ向かう必要がないから、グリッドにひとりだけ取り残され、ぽつーん。なかなか珍しいシーンです。
スリックタイヤを履いたマシンに変更、またはタイヤ交換をして、再びコースインしようとするライダーは、本来ならピットレーン出口に整列、このピットレーン出口のラインから決勝レースをスタートしなきゃいけないんですが、ここでレースは「レース・ディレイ」ボードが出され、スタート進行やり直し! 理由は、24人中23人がピットに引き上げた時点で、この23人がピットレーン出口からスタートしなきゃいけないのは危険だ、ということ。
「なんだよー、みんなピット入っても正規の手順で始めてよー」とアピールするミラー。それ、正解です。結局、ミラーの決断、ムダになりました。気の毒! 本来ならひとり正規のグリッドからスタートして、ピットスタートの残り全員を置き去りにスタートできたはずなのに、さすがに23人がピットスタートはヤバいでしょ、と。
約30分後、バタバタしたスタート進行は再開され、24人全員が再びサイティングラップ。ミラーの決断は一応は尊重され、ミラーを除く23人は、ミラーの3列グリッド分だけ後方からのスタートとなり、いよいよ1周のウォームアップランを終えてレーススタートとなります。
しかし、ここでまたもハプニング。グリッドについたマルケスが、なんとエンストしてしまい、いきなりその場で押し掛けエンジンスタート! 2列目スタートのマルケスは、ラッキーにもミラーと他のフロントロー間にたっぷりスペースがあったおかげで押しがけ出来ましたが、エンジンがかかって後ろ向きに押し戻すかと思いきや、なんとエンジンがかかったマシンにパッとまたがって、なんとなんとコースを2~3列分逆走して自分のグリッドに戻ります。
うわぁ、MotoGPマシン押しがけかぁ、かかんないだろうな、おぉエンジンかかった! またがる身のこなしもスゴいなマルケス!と感心しちゃいましたが、いやいやダメでしょ、コース逆走しちゃ! あそこは正規の手順ではエンストした時点でピットレーンに出されて、そこでエンジン掛けて、全員スタートした最後尾からピットレーンスタートじゃないの?? いくつもハテナハテナが浮かんだまま、レースはスタート。みんな頭の中がモヤモヤしてたでしょうねぇ。

画像: マルケス、押しがけしてエンジンかかって、写真みたいに乗って帰っちゃいました そりぇねーよ

マルケス、押しがけしてエンジンかかって、写真みたいに乗って帰っちゃいました そりぇねーよ

ようやくスタート するとまたまた…

スーパーポールポジションからスタートしたミラーでしたが、そのアドバンテージもほぼ1周で帳消しとなり、2周目の1コーナーでは、ミラーの背後にマルケス! そのままマルケスがトップに立ちます。2番手にミラー、以下リンス、ザルコ、カル・クラッチロー(LCRホンダ)。予選2番手スタートのペドロサは、1周目にザルコにインに入られ、ラインを外したところでウェット路面に乗って大ハイサイド! ザルコがインに入ったムーブは、そう危険には見えませんでしたが、ビクッとラインを譲ったペドロサがレース開始早々のウェット路面に乗っちゃいましたからねぇ。

画像: 1周目の1コーナー、この1周後にはミラーの背後にマルケスがつけました

1周目の1コーナー、この1周後にはミラーの背後にマルケスがつけました

画像: スタート手順違反、ピットレーンのライドスルーペナルティを消化するマルケス

スタート手順違反、ピットレーンのライドスルーペナルティを消化するマルケス

この辺で、コースにはホワイトフラッグ提示。フラッグtoフラッグで、いつマシン乗り換えてもいいよ、のサインです。それでも、まだみんなスリックで走り続けます。
マルケスが2番手以下に1秒5強の差をつけてトップを独走し始めた頃、マルケスにライドスルーペナルティが下されます。これ、スタート手順違反ですね。「レーススタートで逆方向に走行したから」とサインは流れましたが、ペナルティにもいろんな種類があるうち、ライドスルーは軽い方ではありますよね……。アルゼンチンのピットレーン、短いし(笑)。
トップを走っていたマルケスが、ライドスルーで19番手までポジションを落としてレース再開。レースは再びミラーがトップに立ち、以下リンス、ザルコ、クラッチローが2番手集団。8秒ほど後方にアンドレア・ドビツィオーゾ(ドゥカティチーム)、ティト・ラバト(アビンティア・ドゥカティ)、マーベリック・ビニャーレス(モビスターヤマハ)、ロッシ、アンドレア・イアンノーネ(スズキ・エクスター)が続きます。

画像: 雨に強いスズキ、の復活か それともドライでも強いのか、真価が問われるスズキGSX-RR

雨に強いスズキ、の復活か それともドライでも強いのか、真価が問われるスズキGSX-RR

しかしこの頃、ファステストラップを連発して猛然と追い上げていたのがマルケス! 19番手から、18番手のアレイシ・エスパルガロをかわし、17番手の中上貴晶(LCRホンダ)に接近! この、アレイシをかわした時も、後方からドンと接触してパス、抜きざまに左手上げて「ごめーん!」てな抜き方でした。うーむ、レース開始早々も、チームメイトのペドロサにもこんな抜き方してましたねぇ……。予選でもビニャーレスとこんなんやってた。
案の定、中上をかわしたマルケスには「順位ひとつ落とせ」指示が出ます。フランコ・モルビデリ(マークVDSホンダ)を抜いたところで、いったんモルビデリを前に出して、ペナルティ消化。でも、直後にまたパスするんだから、あんまり意味ないような気はします。
トップ争いは、変わらずミラー×リンス×ザルコ×クラッチローの戦い。レース中盤には、なんとリンスがトップに浮上するシーンが何度もあり、雨とはいえスズキ今年はいいな、なんてスズキファン熱狂!のシーンもありました。
その後、トップをキープしていたミラーがとうとうザルコに首位を明け渡したころ、後方では、とうとう恐れていたことが起こってしまったんです。

画像: ゴメーンと振り返ったらバレ転んでた、の図

ゴメーンと振り返ったらバレ転んでた、の図

画像: motogp.com画面より ロッシ、怪我なくてよかった

motogp.com画面より ロッシ、怪我なくてよかった

下位集団で、ひとりだけ異次元に速いマルケスが次々とポジションを上げ、残り7周でロッシの後方へ。2~3周かけてロッシに接近したマルケスは、ついにパッシングへ動きます。ラップタイムも明らかにマルケスの方が速かったとはいえ、マルケスは進入でロッシのインへ。ちょっとオーバースピードかな、いやマルケスなら大丈夫か、と思った瞬間、マルケスはロッシにドーン!と接触。いや、衝突だな、あれは。そこでバランスを崩したロッシがよろよろっと大回りしようとしたら、運悪くそこは濡れた芝生のエスケープゾーン。フロントタイヤを取られたロッシはスリップダウンを喫してしまいました。
アレイシの時と同じように左手を上げて「ごめーん!」した瞬間、ロッシはごろん。あのコーナーがもっとコース幅広かったり、雨で芝生が濡れていなかったりしたら、ロッシは転倒しなかったでしょうが、結果的にマシンを起こして再スタートしたロッシは19番手までポジションを落とし、残り4周、ノーポイントは確定。6番手を走っていたから、どれだけポイントを削り取られたか……。

結局、マルケスは最後の最後に、今度はビニャーレスをかわして5位でフィニッシュ! しかしマルケスには、2回目のライドスルーペナルティが課せられ、ライドスルーする周回もなかったため、レースタイムに30秒加算のペナルティ。計算すると、18位……。転ばせてしまったロッシが19位です……。これはちょっと、ないよなぁ。
日テレG+の衛星放送でも、解説の辻本聡さんが「転ばせちゃったライダーよりポジションが上ってのはどうかなぁ」と言うほどでしたね。

画像: マネージャーと監督連れて「謝罪」っていわれてもね…

マネージャーと監督連れて「謝罪」っていわれてもね…

レースを終え、ピットに帰ると、すぐにロッシのピットに謝罪へ行くマルケス。チーム監督のアルベルト・プーチ、マネージャーのエミリオ・アルサモラと3人でヤマハのピットへ行きますが、ロッシのマネージャーであるウーチョ(苗字失念・失礼!)にスゴまれて退散。やりとりの声こそ聞こえませんでしたが、「何しに来た、おまえコノヤロウ」みたいな剣幕で、ロッシには会えずじまいでピットに戻ることになりました。
でも「あぁいいよ、じゃぁ帰るよ。謝りに来たのにそう扱うんだね」ってマルケスの態度、コメントは、そらやったらイカンでしょう。TVカメラいないところで、きちんとモーターホームに謝りに出向いて、ロッシもシブシブわかってくれた、なんて展開を祈ります!
いつだったか、これも犬猿の仲だったロッシとストーナーでも、こんなシーンありましたね。ただしあの時は、ドゥカティに乗っていたロッシが、ヘレスだっけなぁ、ホンダのストーナーに突っ込んでしまって謝罪に出向き、ストーナーに「どうしたのバレンティーノ? そうか、野心が才能を上回っちゃったんだね」なんてイヤミを言われるというひと幕もありました。

レースはクラッチローが今季初優勝

画像: 最後の最後で狙いすましてザルコをパス! 強い勝ち方でした、クラッチロー!

最後の最後で狙いすましてザルコをパス! 強い勝ち方でした、クラッチロー!

画像: 今季初めて優勝したホンダライダーとなったクラッチロー リンス(右)はMotoGP初表彰台

今季初めて優勝したホンダライダーとなったクラッチロー リンス(右)はMotoGP初表彰台

レースはクラッチローの今シーズン初優勝で幕。2位にザルコ、3位にMotoGP初表彰台のリンス! けれど、この表彰台の3人の喜びがかすむほど、後味の悪いマルケスのふるまい、レースぶりでした。これはもう、アグレッシブ、じゃすまされないと思います。
レースディレクションの決定は尊重しなければいけませんが、スタート手順違反→アレイシにブツけて→ロッシを転ばせたライダーへのペナルティとしては、ライドスルー→順位ひとつ落とせ→ライドスルー、って内容はちょっと軽かったんじゃないの?という意見が多いように思います。中の人も、そう思います。
レース中のペナルティはこれだけだけど、次戦の出場停止とか、チャンピンシップポイントからいくらか引いときますよ、なんてこともあるんでしょうか。もちろん、ペナルティをきちんと受け入れているマルケスも正解。あとはレースディレクションが追加措置をとるかどうか、ですね。なんにせよ、6位走行中で5位狙いだったのにノーポイント、そしてその加害者がオレのひとつ前のポジションにいるの??ってロッシが不憫でなりません。

「なんでもありあったら、このスポーツはすごく危ないんだよ。マルケスが、このスポーツをおかしな方向に導いている。マルケスは、他のライダーに敬意を払わなすぎだよ」とロッシ。感情的にならず、落ち着いてコメントしているのが不気味ではありますね。

「アレイシに接触したのは、速く走りすぎてしまっていて、ビッグミステイクだった。だからポジションを落とせって指示に従ったんだ。順位、安全にふたつも戻したんだよ。バレンティーノの時は、わかってよ、あんな路面コンディションで、ウェットパッチを踏んでフロントがロックして、リリースして接触しちゃったんだ。ごめんなさーい!って手を上げたんだけど……。ザルコだってペドロサとそうなっていたし、ペトルッチだってアレイシとそうやってたじゃない。レースでは100%だったんだ。他のライダーを転ばそうとしたことなんて、キャリアの中で一度もないよ……」とマルケス。さすがにしょげてるっぽいけど、本当にレースとなったら、勝つためだったら、集中しすぎちゃうライダーなんですね。

レースじゃないどんなスポーツでも、フェアにやったら臆病だって言われるし、アグレッシブに行ったら危険だ、って言われることは多いです。ズルいことを「マリーシア」なんて美化するサッカー文化だってありますし、そこは線引きですよね。他の競技者と信頼関係がなきゃスポーツなんて成り立たないし、レースじゃなおさら。マルケスの今回のやつは、何度もやりすぎて、合わせ技で一線を越えていた、という印象は残りました。
これが遺恨に残るのが、いちばんイヤなことですね。
みんなが納得するに近い裁定が下ることを願っています。

■MotoGP 第2戦 アルゼンチンGP結果
①カル・クラッチロー     ホンダ
②ヨハン・ザルコ       ヤマハ
③アレックス・リンス     スズキ
④ジャック・ミラー      ドゥカティ
⑤マーベリック・ビニャーレス ヤマハ
⑥アンドレア・ドビツィオーゾ ドゥカティ
⑦ティト・ラバト       ドゥカティ
⑧アンドレア・イアンノーネ  スズキ
⑨ハフィズ・シャーリーン   ヤマハ
⑩ダニロ・ペトルッチ     ドゥカティ
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⑬中上貴晶          ホンダ

次回MotoGP第3戦は4月22日 COTA(=サーキットof THEアメリカ)でアメリカズGPが行なわれます。ここ、よりによってマルケスが負けなしという……。

写真/MICHELIN motogp.com

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