等身大で楽しめるピュアスポーツ
ハスクバーナの新しいストリートバイク「ヴィットピレン701」の海外試乗会がスペイン•バルセロナで行なわれた。市街を抜け、高速道路で郊外に向かって30分余り走ると、そこには格好のワインディングが広がる。そこを走り抜けたら、パーキングのカフェで一服。これって、カフェレーサーの典型的な楽しみ方ということか…。
僕自身、海外試乗会で何度も経験してきたシチュエーションながら、なぜか特に今回はコーヒーがうまい。これは、ヴィットピレンのカフェレーサーらしいキャラのおかげで、健康的な疲労感と濃密な充実感に浸ることができたからに違いない。街中や高速道路をもっと快適に移動できるバイクは、このミドルクラスにおいてもいくらでもある。でも、少々は前傾姿勢を強いられても、適度にテンションが高まった気分に、ワクワクしてくる。それに、見かけほどはスパルタンでなく、シートは着座位置の自由度が大きいので、前に座れば上体の前傾度もきつくなく、意外にも苦痛でない。
また、エンジンは低回転域の粘りも抜群で、渋滞路でも神経質さがない。全域で鼓動感があっても、二軸バランサーのおかげで不快な振動がない。そして何より、ワインディングではコーナリングが楽しい。693ccのエンジンはやや高回転高出力化され、4000rpm以下ではややスムーズさに欠けるが、逆に5000〜8000rpmのトルクの高まりが強調されるだけに、回すのが楽しくなってくるマシンだ。コーナーに合わせてギヤを的確に選ぶ必要があるが、それも面白さだ。それに、オートシフターはアップダウン両効きで、スリッパークラッチも装備されるから、ミスもなく、楽にこなすことができる。
ハンドリングも、軽量スリムなシングルは、ヨッコイショ感やタイムラグもなく、意のままにマシンの方向を定めることができる。でも、あえて軽快感を前面には出さず、適度の重さと安定感が備わっていて、安心感たっぷりに自信を持って操ることができる。ここでは、腰を引いて前傾スタイルで身構え、ダイナミックに荷重コントロールしてやるのがいい。まさにスポーツだ。
シングルだからこそ使えて熱く楽しめる
それにしても、こんな気分の良い疲労感と充実感は、最近はあまり味わったことがない。これがビッグシングルの良さでもあるのだろうか。使いきれないほどのパワーに振り回されず、それもエンジンを回してパワーを引き出すのではなく、トルクでマシンを前に進めてやる特性だから、急き立たされることがない。
ミドルクラスとしても異例に軽量だし、特に寝かし込みでスリムなシングルは、余韻も少ないので、自分の感覚に対し挙動の遅延もない。この一体感の高いハンドリングは、四輪車で言えば、2シータークーペみたいなものかもしれない。しかも、こうした素性をマシンがひけらかさないから、ライダー主導で楽しめるというわけだ。
さて、今回の試乗会ではおまけがある。無事、会場のホテルに到着後、写真撮影のために一人で市内に繰り出しのだが、一方通行のうえ、多くの反対方向路が平行に走っておらず、迷子状態。また夕刻の渋滞にはまり、1時間ばかり市内をさまようことになってしまったのだ。それでも、無理のないライポジや低回転域の柔軟性に助けられ、難なくこなせる。足着き性があまり良くなくても、片足でマシンを支えるのに不安はない。右端に車両を停めると、右端が低くて跨ったままサイドスタンドを操作できなくても、一瞬、両足を浮かせたタイミングで、それをこなすこともできた。また、苦し紛れに、横断歩道を押して渡り、一方通行に対処したときも、車重が軽く、無理なくマシンを扱えた。災い転じて、街乗りに使えることを確認できた次第である。
気が向いたらどこでも楽しめることが、バイク本来の姿だと考えるが、その意味で、このヴィットピレンはまさに原点バイクと言っていい。実用性第一義でもなく、そのバランス加減も絶妙である。
SPECIFICATIONS
全長×全幅×全高 NA
ホイールベース 1434±15㎜
シート高 830㎜
車両重量 約157㎏(半乾燥)
エンジン形式 水冷4ストロークOHC4バルブ単気筒
総排気量 693㏄
ボア×ストローク 105x80㎜
圧縮比 12.8:1
最高出力 75PS/8500rpm
最大トルク 7.3㎏m/6750rpm
燃料供給方式 インジェクション
燃料タンク容量 約12L
キャスター角/トレール 65°/NA
変速機形式 6速リターン
ブレーキ形式 前・後 ディスク・ディスク
タイヤサイズ 前・後 120/70-17・160/60-17
DETAIL
RIDING POSITION(身長:162cm 体重:63kg)
基本的に上体の前傾度は強めであるが、前後の着座位置に自由度があり、写真のように前に座れば、一般走行での快適さを保つことができる。足着き性は数値よりも高く感じるが、車体が軽量スリムなため、バランスを保ちやすく、不安感はあまりない。
(文/写真 和歌山利宏)