世界を教えてくれたバイクという乗り物
—ウナギくん、大阪から自分のバイク持って来たらしいよ。なんとそれ、スーパーカブらしい!
スゴいな、アイツ!
そう教えてくれたのは、RGTCのリーダー、レイザーラモンRGさん。スーパーカブファンなのか、じゃ新型クロスカブに乗ってもらおう、と突撃取材を敢行。見ると、16年の「漫才師日本一決定戦」M1グランプリチャンピオンの鰻和弘さん、公式プロフィールに「趣味は原付ツーリング」とある。
鰻さんが原付免許を取ったのは16歳になってすぐ。家にこもりがちだった彼を外の世界へ導いてくれたのがバイクだった。
「小学校から中学校、ずっと家の中で漫画を描いているような子どもでしたね。外出たいな、って思ってもおっくうだし、バイクならラクなんちゃうか、って思って、高校1年生の夏に原付免許を取りました」
免許を取って最初の愛車はホンダ・ディオ。それから高校を卒業する頃までは、とにかくバイクで走り回ったのだそう。
「外を走るのが楽しくて楽しくて! でも、走り回ってたらすぐに距離が伸びて、トラブル起こしちゃう。次々と乗り換えて、いろんなスクーター、ギアつき原付に乗りました。もともと電車に乗るのがあんまり好きじゃないんで、どこへ行くにもバイクでしたね」
19歳で芸人の養成所入りして、バイト三昧の日々。親戚が大学進学で大阪を出るというので、もう乗らないから、と譲り受けたのがスーパーカブだった。
「衝撃受けました! ギアチェンジの仕方が独特だけど、各ギアとも力強い! いっぺんでファンになりました。行動範囲が広がったのもカブを手に入れてからですね」
大阪を拠点に、銀シャリ結成前も若手漫才師として活動していた鰻さん。この頃からは、どこへ行くにもスーパーカブ。
ただひとつ変わったのは、次々に乗り換えなくなったことだ。だって壊れないから!
「カブのすごいところは、乗っていて調子悪くなってこないってところですね。自分で手入れしないから、助かってます」
そして、スーパーカブを手に入れてから、鰻さんの運命も大きく変わってしまった。高校時代から原付免許だけでバイクライフを送っていた鰻さんが、クルマ免許や普通二輪免許から遠ざかってしまったのだ。
「ずっと原付に乗っていて、そろそろ普通二輪免許取ろうかな、クルマの免許も取らなきゃな、って思ってはいたんです。でも、カブが来てその必要がなくなっちゃいました(笑)。おかげで今も、原付免許だけです!」
—え? 高校1年で原付免許を取ったっきりですか?
「そうですよ。要らへんもん」
そうニコニコ笑う鰻さん、取材班が思う以上に原付好き、スーパーカブ好きなのだ。
カブを手に入れてからというもの、大阪から京都のラジオ局まで1時間半かけて通ったり、広島まで観光に出かけたこともあった。そして17年には活動拠点を東京に移したのに合わせて、愛車のカブも持って来たのだという。
「もちろん自走で持ってきましたよ! 東京まで走るのも2回目かな。休憩したり、仮眠とったりで24時間とかかかるんですが、カブってずーっと乗っていても腰もお尻も、ぜんぜん疲れない。広島に行ったときは300㎞くらいかな? ガソリン代1000円かかりませんからね! ホントにスゴい。走るたびにカブのこと好きになります」
スーパーカブでのロングツーリングは、高速道路にも乗れないのんびり旅。けれど、それがいいのだ、と鰻さんは言う。
「高速道路を最短距離で走っていたら、ぜったい発見できない名所とかあるじゃないですか。僕、そういうのが大好きで。ご当地ものを食べたり、神社に寄ったり、時間をたっぷり使って走ります。いつか時間ができたら、北海道から沖縄までカブで走りたい」
スーパーカブで走り出す。スピードが乗って回転数がシンクロしてくると、エンジンがキューンと鳴き出すのが好きだ、と鰻さんは言う。ジェット機で滑走路を走っているような錯覚を覚える瞬間が大好きなのだ。
「カブに新しく125㏄が出るんですよね? いま僕、それに乗りたいんです。そのためにまず、免許取らなきゃ! 小型二輪免許でも取りに行こうかな」
35歳の手習いが小型免許取得! おもしろい! 本誌もがんがんバックアップします! 次は本誌で、スーパーカブC125に試乗してくださいね!
頑丈さより好燃費より出かけたくなる楽しさ
さて、愛車の01年型スーパーカブが走行5万㎞に届こうかという鰻さん。もちろん、クロスカブに乗るのは初めて。
「というか、こんなきれいなカブ、初めてです」とニコニコ。免許の問題で(笑)クロスカブ50のみ試乗してもらう。
「うわぁ、足べったりつきますね。そうか、これリトルカブのサイズなんやなぁ」とさすがはスーパーカブ好き。すぐに前後14インチホイールのサイズ感、足つきの良さに気づく。
エンジンをかけて、軽くブリッピングしてみてひと言。これ、静かすぎませんか、と。
「僕のカブ、もう少し音、大きいですよ。これ、静かですねぇ!しかも振動もぜんぜんない。うわぁ、新しいバイクって、こんなスゴいねや」
またがって、すぐにスイーッと走り出す。スーパーカブに乗り慣れない人だと、ややもたつく発進やギアチェンジも、実にスムーズ。さすがは15年来のスーパーカブオーナー!
「バネもふわふわしてて、乗り心地がいいです! えー、僕のカブも最初こんなんやったっけなぁ……。なんや、自分のカブがだんだんボロに思えてきた」
試乗はほんの数10分。けれど鰻さん、猛烈に好き好き光線を発射しだす。これまで、愛車のスーパーカブだけを見てきた鰻さんに、久々に刺激を与えたのがクロスカブ50だったのだ。
「色使いなんかな、サイズなんかな、まず可愛いですよね。僕のカブやと、ちょっと可愛さはないかな(笑)。あとは、まだ新車だからなんでしょうけど、なにもかも軽いです。押し引きも走り出しも軽いし、走っている時のエンジンの感触も軽い。僕のカブやとギュイィィン、って走りますけど、これはスイーッと。バネ(注:サスペンションのことでしょう・笑)も軽い。乗り心地がいいですよ。これやったら、遠乗りももっとラクかも知れへんですね。久々に、大阪とかまで走って帰りたくなりますねぇ」
巷間いわれるスーパーカブの良さといえば、頑丈さや好燃費のことが大きいが、鰻さんの場合はちょっと違う。
「カブがあるとね、出かけたくなるんですよ。僕のだってこのクロスカブだって同じ。本当は仕事の友かもしれないけど、こんなかわいいクロスカブだと、遊びに使うに決まってます」
SPECIFICATION
左:CROSS CUB 50
価格:29万1600円
全長×全幅×全高:1840×720×1050㎜
ホイールベース:1225㎜
最低地上高:131㎜
シート高:740㎜
車両重量:100kg
エンジン形式:空冷4ストローク単気筒OHC2バルブ
排気量:49cc
ボア×ストローク:37.8×44㎜
最高出力:3.7PS/7500rpm
最大トルク:0.39kg-m/5500rpm
燃料供給方式:PGM-FI
燃料タンク容量:4.3L
ミッション:4速リターン
ブレーキ前・後:ドラム・ドラム
タイヤ前・後:70/100-14・80/100-14
SPECIFICATION
右:CROSS CUB 110
価格:33万4800円
全長×全幅×全高:1935×795×1090㎜
ホイールベース:1230㎜
最低地上高:157㎜
シート高:784㎜
車両重量:109kg
エンジン形式:空冷4ストローク単気筒OHC2バルブ
排気量:109cc
ボア×ストローク:50×55.6㎜
最高出力:8.0PS/7500rpm
最大トルク:0.87kg-m/5500rpm
燃料供給方式:PGM-FI
燃料タンク容量:4.3L
ミッション:4速リターン
ブレーキ前・後:ドラム・ドラム
タイヤ前・後:80/90-17・80/90-17
PHOTO:松川 忍