幾多の名車・ヴィンテージが生まれた昭和と
技術革新でオートバイが急速に進化を遂げた平成。
しかし、もうすぐ新元号。新しい時代に突入する前に
歴史に残る名車烈伝をお送りします。
いつまでも忘れない、今でも乗りたい珠玉の名車たち。
(※月刊オートバイ2018年8月号より)
RZとVTが出なければ250㏄はひょっとして…
RZ誕生前夜、世界のオートバイメーカーと自動車メーカーが環境対策に揺れていた。昭和45年、アメリカで成立した「マスキー法」は、アメリカで販売する自動車の排気ガスを90%も低減せよ、というあまりにも厳しい大気浄化法案だった。
もちろんこの法案はバイクにも適応されるもので、それは2ストエンジンの死を意味するものだった。ヤマハのアメリカ市場での主力商品は、YD1に始まる2ストスポーツ。ヤマハのエンジニアたちは2ストのヤマハ」として「最後の2ストスポーツを作ろう」とRZの開発をスタートさせたのだ。
冷却効率と燃焼効率を上げ、新技術を入れ込むこと。さらに振動を低減する水冷エンジンや、レーシングマシンTZを思わせる多段膨張室つきマフラー、モノクロスサスペンションも採用したRZは人気爆発。特に日本でも、2ストらしい軽量スプリンターぶりと、水冷、モノクロスサス、チャンバー「風」マフラー採用が受けに受け、注文しても納車が半年待ち、なんて状況さえ生み出した。
小排気量だけでなく、日本のスポーツバイクを変えてしまったRZの登場が、新たな敵を呼ぶ。それがホンダVT250F。ホンダは、2ストオンリーのワールドグランプリに4ストマシン「NR」で挑んだように、打倒RZを4ストモデルに託した。
VTは当時の最新メカ、水冷エンジンもV型エンジンもDOHCヘッドも、すべてを250㏄に投入。ストップ・ザ・RZを達成。もちろん、RZの速さとは種類の違う高性能だったが、誰にでも扱える、懐の広いスポーツバイクとして売れに売れ、発売34カ月で、日本で初めて販売累計10万台を超えるという、とてつもない大記録を樹立する。
250㏄は400㏄のおさがり——そんな風潮をひっくり返したRZとVTは、車検がなく維持費が安い、しかも高速道路にも乗れる250㏄の魅力に光を当てたと同時に、その後に巻き起こる250㏄レーサーレプリカブームを呼び込んだ。
RZがなければVTはない。VTがなければ、以降の魅力的な250㏄も生まれなかったかもしれない。
PHOTO:南 孝幸