幾多の名車・ヴィンテージが生まれた昭和と
技術革新でオートバイが急速に進化を遂げた平成。
しかし、もうすぐ新元号。新しい時代に突入する前に
歴史に残る名車烈伝をお送りします。
いつまでも忘れない、今でも乗りたい珠玉の名車たち。※オートバイ2018年8月号より
スズキの突破力をヤマハとホンダが迎撃した
RZの登場で新しい局面を迎えた250㏄スポーツ。それは、それまでの「車検もなく維持費が安い」手ごろなアシ替わりから、250㏄ならではの小型軽量の車体にハイパワーエンジンを積む、扱いやすいコンパクトスポーツという新しい価値観だ。
RG250やZ250FTが「250㏄専用設計」とアピールしてからおよそ数年で、リッターあたり180PSという途方もないスーパースポーツが登場する。それがRG250Γだった。
Γは、RZとVTがスポーツバイクに火をつけた250㏄クラスに、レーサーレプリカという新しい方法論を持ち込んで席捲。市販車に認可されたばかりのカウリング、アルミフレームや16インチフロントホイールで、250㏄の高性能化に拍車をかけるのだ。
3000回転以下に目盛りのないタコメーター、デザインされていないテールカウルの採用理由を問われたスズキ技術陣が「だってレーサーのΓがそうですから」と答えたのは有名な話だ。
そして、このΓ登場がヤマハとホンダを目覚めさせる。一気に「市販レーサーと同時開発」を謳い文句としたTZR250とNSR250Rを発表するのだ。
TZRは、レーシングマシンTZそっくりのデルタボックスフレームや3本スポークホイールがまぶしかったし、NSRのクランクケースには、レーシングマシンにしか許されていなかったはずの「HONDA RACING」のネームが刻まれていた。Γが変えた潮目を、TZRとNSRが激流に育て上げてしまったのだ。
TZR、NSR、それにΓの進化版VΓの戦いは、プロダクションレースの戦績によって販売台数が決まる、といわれるほどで、間口が広かったはずの250㏄スポーツはどんどん先鋭化し、逆に乗り手を選ぶ乗り物になってしまった。
Γの衝撃、TZRの扱いやすい高性能、そしてNSRの戦闘力——。「行きすぎた先鋭化」のままではいけない、というメーカーの良心が、再び現代の250㏄スポーツの楽しさを作り出している。
PHOTO:長野浩之、南 孝幸、松川 忍