エンジンの搭載位置を意識させるフィーリング立ちゴケの心配を忘れるくらいの安定感!
まずNC750Sで驚かされるのは、その価格の安さです! 税込69万ちょっとからで販売されていて、しかもグリップヒーターやETCも2016年以降は標準装備になっているんですね。ナナハンがCBR250RRより安い価格で買えるわけですから、それだけでこのバイクに文句を言えなくなります(笑)。そして最初に装着されているOEMタイヤはブリヂストンの「T30」。このタイヤ、アフターマーケットでは前後で3万円以上しますよね? 走りを支えるタイヤをケチらずにいい製品を使っているところも、素晴らしいと思いました。
今回試乗したのは、パールグレアホワイトのABS付きでしたが、カラーリングは黒と赤のツートーンのグラファイトブラックが好みですね。僕の年齢にはちょっと派手すぎるのかもしれないですけど、グラファイトブラックを選びたいです。NC750Sのスタイリングが好みじゃないという方もまわりにはいますが、僕はこのデザインがカッコ悪いとは思いません。
あえてあげるなら、メインフレームが車体の下側を通っているのがスタイリング的には気に入らないかな? でも通常燃料タンクがある場所を、ラゲッジスペースに使ったりなど、こういうフレームになるのは自然なことですから。
NC750SはNC750Xと比べると、エンジンが低いところに搭載されていることを、跨っていて強く意識させます。それはXでは、あまり感じることがなかってのですが……。とにかく、走っていて「恐怖感」を感じることがないバイクだと思いました。市街地を走っていても、バイクは立ちゴケすることがある……ということを忘れるくらい安定していて、超安全なバイクですね。ABS付きを選べば、さらに安全、みたいな。
クラッチもスーッと繋がってスムーズで、アイドリングからスタートできるバイク、という感じです。6000回転ちょっとで最高出力が出る、エンジン特性が4輪車みたいな感じなので、その発進のしやすさは非常に印象的でした。
NC750Sの2気筒エンジンは270度、450度の爆発なので、Vツインのようなドコドコ感があっていいですね。当然バランサーを使ってますが、適度に振動が感じられるのも良いと思いました。前傾角こそ違いますが、このエンジンの搭載の仕方はスーパーカブを思い出させます。その低重心な乗り味も、どこか似ていると思いました。燃料タンクがシート下にあるのも一緒ですが、お尻の下に重量物である燃料タンクがあると、トラクションを感じやすいんです。また、そこを支点にピッチングするので、ピッチングによるネガを感じにくい利点もあります。JSB1000を走るスーパーバイクレーサーとか、モトGPマシンなどは、それを意図して燃料タンクを下まで持っていく形状になっています。NCシリーズは通常の燃料タンク位置を収納スペースにするから、シート下に燃料タンクを持ってきたのですが、これが功を奏してトラクション感が出ているし、走っているときの軽さも出てますね。
NC750Sは218㎏の車重ですが、走ったり、取りまわししているときはあまりその重さを感じさせないです。ブレーキをかけたとき、実際の車重がそれなりにあることを忘れて軽くブレーキをかけてしまい、あ、効かないな、と思うことがありました。感覚よりは車重があることを忘れないように、気をつける必要があります。
気をつけるといえば、タイヤの空気圧管理も大事です。最初に走り出したとき、取材スタッフの手違いでフロントの空気圧がだいぶ低い状態になったいたのですが、かなりステアリングの切れ込みを感じて危ないくらいでした。リアはまだなんとかごまかせますが、NC750Sは若干フロントの分布荷重が多い印象で、キャスター角も少し寝ているので、フロントタイヤの空気圧が規定値じゃないと、悪い方に反応しやすいのだと思います。NCシリーズに限った話ではなく、バイクのタイヤは空気圧が規定値よりコンマ2以上ずれていたらアウトだということを、ライダーの皆さんには覚えていて欲しいですね。
ハンドリングはリア側から回り込む感じで、フロント側から回り込む感じのスーパースポーツ系の操安性とは異なるフィーリングです。NC750Sのハンドリングは、以前ラインアップされていたCB750(RC42)に似ている感じがしました。ライディングポジションも似ていて、ともに大型免許の教習車に使われていますね。教習車に使われるだけのことはあって、どの速度域でもとても扱いやすいバイクです。
SPECIFICATION
全長×全幅×全高:2215×775×1130㎜
ホイールベース:1520㎜
シート高:790㎜
車両重量:218kg
エンジン形式:水冷4ストOHC4バルブ並列2気筒
総排気量:745cc
ボア×ストローク:77.0 × 80.0㎜
圧縮比:10.7
最高出力:54PS/6250rpm
最大トルク:6.9kg-m/4750rpm
燃料タンク容量:14L
キャスター角:27゜ 00′
トレール量:110㎜
タイヤサイズ(前・後):120/70ZR17・160/60ZR17
ブレーキ形式(前・後):φ320㎜ディスク・φ240㎜ディスク
価格:価格:74万880円(パールグレアホワイト)
昔は、安いバイクはネガな点があったのですが、最近はそういうことがなくなりました(伊藤)
高速道路は2人乗りでテストしましたが、全域トルクの塊のようなエンジン特性なので、高速のクルージングも快適でした。タンデムライダーを乗せていることを忘れるくらい安定していたのも、低重心な車体が効果を発揮しているのでしょう。なお大関さんもタンデムシートがフラットで座りやすく、グラブレールも掴みやすかったと、高評価でした。
冷え込む季節の東北のワインディングでの試乗だったので、バンク角が限界までどれくらいあるのかは試しませんでしたが、NC750Sは最高出力こそ大してありませんが、普通に速く走れちゃいますね。多分一般のライダーがリッタースポーツに乗っていても、僕が峠でNC750Sを走らせたら、まず負けることはないでしょうね……もちろん、そんなことはしないですけど(苦笑)。
要するに乗り手次第でそういう走りもできるくらい、基本性能がしっかりしている、ということです。昔は、価格の安いバイクはどこかしらネガな点があったものですが、このNCのように最近はそういうことがなくなりましたね。ホンダの高い社内基準を、しっかり満たしているからこそ、なのでしょう。NC750Sはこの内容で、この値段で販売して利益が出るのか、と心配してしまうほど、ユーザーにとってはお買い得な1台だと思います。
先ほども言いましたが、教習車に使われるくらい乗りやすい大型車ですから、初心者の方にも良いでしょうね。高速道路を走っても、他のライダーに置いていかれることもないと思います。また燃費は諸元表を見ると2名乗車で42.5㎞/hと非常に良くて、実際にツーリングしてみて実燃費の良さも体験しました。この燃費の良さは、日常的にバイクに乗る人にはありがたいでしょう。毎日バイクで通勤したい人や、通学に使いたい人などにとってもぴったりなバイクです。
もしも自分がNCシリーズから1台選ぶならXのDCTになるかな? 以前イベントで借りた1台で大阪の街中を走り回ったことがあるのですが、街中では本当に最高のバイクだと思いました。普段使いに向いているので、ガレージ内に複数台所有しているバイクの中で、一番出しやすい位置に置くことになると思います。使用頻度は一番高くなるでしょうから。
でも、70万円ちょっとの予算でバイクを1台だけ所有するという条件ならば、NC750Sを買いますね。同じ価格帯として考えた場合もCBR250RRではなく、NC750S選びますね。この価格であと自賠責と重量税、そして手数料などを払えば、ナナハンオーナーになれるのですから。ハンドル切れ角があって扱いやすく、走りに関しても何の不満もない。400クラスにおけるCB400SFのように、NC750Sは大型のスタンダードと呼べる存在だと思いました。珍しい、何の文句も出ないバイクですよ。
HONDA NC750S <ABS>
PHOTO:松川 忍