高い実用性も兼備したGSX、Zはどこまでも個性的
ネイキッドスタイルのGSX-SとZはどちらもストリートユース前提で開発されているが、風を感じながらのんびり、というオートバイではない。「スーパーネイキッド」や「ストリートファイター」と呼ばれる高いスポーツ性を備えていることがポイントだ。
エンジンはGSX-SがSS用がルーツで、Zはオリジナル。
フレームやサスペンションといった車体構成もハードなライディングに対応したものだが、並べると雰囲気はずいぶん違う。独特のアグレッシブなフォルムで遠くからでも一目でそれと判るZに対し、GSX-SはGSX-Rからカウルを取り去ってアップハンドル化したのみに見えるシンプルさが特徴。それだけに、斬新さこそ薄いが、どんなライダーがどこで乗っても違和感はない。衣装ではなく普段着という感じだ。
写真で見ると似たようなライポジだが、実はGSX-SはZよりもハンドルがバー1本分ほど高くてステップ位置も前寄り。ライダーの体は腰を中心にして後ろ側に回転させた感じになり、ストリートや高速道路クルージングではGSX-Sの方がリラックスできる。
また、最近の大型車は足着き性向上のためシートが前下がりになっていることが多いが、GSX-Sのシートはほぼフラットで、腰が前側にずれてしまうことがない。これなら長時間ライディングでも快適だろう。取り回しで感じるのはGSX-Sの軽さ。
Zとの重量差は12㎏と、ガソリン満タン分相当の差があるから、引き起こしが軽いのは当然。さらにハンドル切れ角も大きく、Uターンや車庫への出し入れが楽。
気軽に走り出せるという点ではGSX-Sが優勢だ。
ストリートで光るのはGSX-Sの乗り心地。Zの前後サスペンションはハードな加減速を織り込んで硬めに設定されているため、良好な路面ではSSのように高いスタビリティーを発揮するが、市街地の荒れた路面ではゴツゴツ感があり、リアが跳ね気味。
こうしたシーンでは柔らかめにセットされているGSX-Sのサスペンションが快適。
ただ、タンデムも考慮してバランス的にリアが硬め。僕がストリートやツーリングで使うなら、両車ともリアのイニシャルを抜き、前後タイヤの空気圧も10%は下げたい。
意外なのはエンジンフィール。6000回転あたりからグッとパワーが盛り上がる味付けのZに比べ、GSX-SはSS用エンジンがベースとは思えないほどフラット。パワーバンドは7000〜1万回転あたりにあるが、ストリートで多用する4000回転程度でも充分力強い。
では、エキサイティングさが薄くて面白味がないのか? と問われれば答えは「ノー」だ。回転域を問わずに扱いやすいので、躊躇せずにスロットルを開けられ、車重の軽さと併せて豪快な運動性能を見せ付ける。
トラクションコントロールシステムをストリートなら2、スポーツライディングなら1にセットすれば、少々ラフなスロットル操作や路面の荒れたところでも不安なし。
対してZは明確なパワーバンドを感じながらコントロールするという、スポーツ派やベテランにはたまらない楽しみがある。
実用性に直結するメーターの表示機能は両車互角で、瞬間燃費や航続可能距離の表示機能もツーリングでは大いに役立つ。
ただ、Zの凝ったタコメーターは見やすいとは言えないし、ギアポジション表示がないのも残念。見やすさではGSX-Sが勝っている。
現実的な扱いやすさが魅力のGSX-Sと、独特なデザインと乗り味で強烈なオーラを放つZ。甲乙付けがたい魅力があるが、日常的な乗りやすさならGSX-Sに分があると感じた。(太田安治)
PHOTO:南 孝幸