4ストスーパースポーツという新たな概念を生んだ
60年代、日本のオートバイメーカーのスポーツモデルの中心といえば250ccクラスで、ホンダも61年にデビューした名車・CB72と、その後継モデルのCB250によってその名声を世界的に高めることに成功。
しかしさらなる高性能化を求める市場の要求に応えて、各メーカー共に60年代後半から大排気量モデルの開発に力を注ぐようになったために、70年代に入ると250ccクラスの注目度は低くなった。
そんな250ccクラスを再び活性化したのが、80年に登場したヤマハのRZ250。
パワフルな水冷2ストエンジンと俊敏なハンドリングという、オートバイの原点に立ち返った魅力によって人気が爆発、空前の大ベストセラーに。
そんなRZ250人気の対抗馬として、ホンダも新しいコンセプトの250ccスポーツを開発する必要に迫られる。
市販レーサー・TZのノウハウを取り入れた2ストスポーツのRZ250に対抗するために、ホンダも79年から世界GPへ挑戦、2ストマシン全盛の中で孤軍奮闘していた4ストGPレーサー・NR500譲りの最新技術をフィードバックした4ストスポーツ・VT250Fを82年にデビューさせる。
このVT250Fは、それまでのホンダ製250ccスポーツとは一切技術的なつながりを持たない、完全に新設計されたモデル。
DOHC4バルブヘッドを備えるコンパクトな248cc水冷Vツインは、各部にNRの影響を色濃く感じさせる贅沢な設計が特徴で、RZと同じ最高出力35PSを実現。
4ストとは思えない高いスポーツ性でRZと真っ向から勝負を挑んだことで開発競争が勃発、VTは毎年のようにモデルチェンジを繰り返して進化していく。
この争いが250ccクラス人気を牽引、スズキやカワサキからもニューモデルが続々とデビューするようになり、80年代のオートバイブームに火を付ける一因にもなった。
こうした異常なまでの盛り上がりの結果、250ccクラスも過激な性能競争に突入。
4ストマシンでも、85年にヤマハが超高回転型の4気筒エンジンを積んだFZ250フェーザーを投入したことで4気筒マシンの時代が到来し、ホンダも86年にCBR250Fを皮切りにCBRシリーズをデビューさせる。そして2気筒のVTの役割は性能の追求から、86年のモデルチェンジ以降は完成度の高さを活かしたスタンダードモデルへとシフトすることになる。
その後のVT系モデルは、88年にスリムでスタイリッシュなネイキッドスポーツのスパーダ、91年に大柄で快適性の高いゼルビスなどの派生モデルの登場を経て、98年に現在も販売が続くVTRへとモデルチェンジ。
熟成を重ね信頼性・スポーツ性を高次元でバランスさせたVT系の水冷Vツインを、スリムなトラス構造のフレームに搭載したネイキッドスポーツとして、乗り手を選ばないトータルバランスの高さを発揮。
ビギナーからベテラン、さらにバイク便までの幅広い層や用途のライダーに愛用されるようになった。
さらに熟成と改良を重ね、09年にはエンジンをPGM-FI化、13年にはハーフカウル仕様のVTR-Fを追加しながら現在も根強い支持を集めている。
まとめ:オートバイ編集部