バイクを操ること自体を堪能できる楽しい相棒
その車名と、オフロードモデルともオンロードモデルともつかないルックスのせいか、キワモノ的なイメージを持たれがちなトリッカー。
実はエンジンやフレームはセローと共通。セローと大きく異なるのは外装デザイン以外ではフロント19、リア16インチのホイールと舗装路向きのタイヤ、それを支える前後サスペンション。
と書き出すと、まるでオフ車ベースのモタードモデルのようだが、そうではない。
トリッカーのキャラクターは「ストリートからオフロードまで幅広く遊べるファンバイク」という、他車にはない唯一無二のものだからだ。
トリッカーが最も得意とするのはエクストリーム的なアクションライディング。
127㎏という軽い車重、特に低中回転域でスロットルワークに対する反応がリニアなエンジン特性、ピッチングモーションを積極的に使えるストロークの長いサスペンションを活かして、ウイリーやジャックナイフ/ストッピーといった小技の習得にはもってこいだし、スキルのあるライダーならウイリーサークルやバニーホップといった大技も決められる。
最近のオートバイはデザインが優先されているためか、凝った形状が多い外装パーツはちょっとした立ちゴケ程度の転倒でもあちこちが傷付いたり割れたりしてしまいがちだが、このトリッカーはハンドル回り以外のパーツが車体に沿っているので、ダメージを受けるのはハンドルバーと左右のレバー程度。
ビギナーが操縦技術を練習するときに余計なプレッシャーを感じず、思い切って操作できることも、最近のオートバイが失ってしまった大きな魅力だ。
とはいえ、実際は軽さと乗りやすさを活かし、通勤通学を含めたストリートコミューターとして使われていることが多い。
セローと共通のエンジンで発進加速の力強さは文句なしだし、衝撃吸収力の高い前後サスで乗り心地も上々だ。
軽二輪なので高速道路も走れるが、短めのホイールベースとセミブロックタイヤのため80㎞/h以上では直進安定性に不足を感じる。
都市高速程度なら問題ないが、高速道路を使った長距離走行は得意ではない。逆にオフロードの走破性は高く、左右48度のハンドル切れ角でトライアル的な走りもできる。
どんなレベルのライダーでも操る楽しさを堪能できるモデルを作り続けるヤマハの姿勢は素晴らしいと思う。
SPECIFICATION
全長x全幅×全高 1980x800x1145㎜
ホイールベース 1330㎜
シート高 810㎜
最低地上高 280㎜
車両重量 127㎏
エンジン形式 空冷4ストOHC2バルブ単気筒
総排気量 249㏄
ボア×ストローク 74x58㎜
圧縮比 9.7
最高出力 20PS/7500rpm
最大トルク 2.1㎏-m/6000rpm
燃料供給方式 FI
燃料タンク容量 7L
キャスター角/トレール量 25度10分/92㎜
変速機形式 5速リターン
ブレーキ形式・前 φ220㎜ディスク
後 φ203㎜ディスク
タイヤサイズ・前 80/100-19
後 120/90-16
PHOTO:森 浩輔、南 孝幸 TEXT:太田安治、本誌編集部