MotoGP開幕に世界中が沸いたこの週末、マレーシア・セパンサーキットではアジアロードレース選手権(=ARRC)も開幕しました。ARRCは昨年まで、スーパースポーツ(=SS600)、アジア・プロダクション(=AP250)、さらにアンダーボーン(=UB150)の3クラスの開催だったんですが、2019年からスーパーバイク(=ASBK1000)がスタート! 日本勢としては、ASBK1000にヤマハレーシングチームASEANから、伊藤勇樹がフルエントリー。チームメイトは、昨年はヤマハ・オーストリアから世界耐久選手権に参戦していたブロック・パークスで、そういえばパークスもオーストラリア人ですもんね。オーストラリアもARRC第2戦の開催地ですから、パークスもアジア人ライダー、と。
さらにAP250クラスには、19歳の九州選手権3年連続チャンピオン・井吉亜衣稀(いよし・あいき)も、マニュアルテックKYTカワサキレーシングからARRCデビュー! 全日本選手権はスポット参戦だけで、飛び級のアジアデビューです。つまり、日本人ライダーはこのふたりだけで、Webオートバイでもこの2クラスを追っかけますね。
アジア選手権は、土曜/日曜1レースずつの1戦2レース制。ASBKは、玉田誠が監督を務めるホンダアジアドリームレーシング、伊藤が所属するヤマハレーシングチームASEAN、そして藤原克昭が統括責任者を務めるカワサキタイランドレーシングがトップチームを参戦させます。さらに、世界選手権Moto2クラスに長島哲太を走らせるSTOP&GOレーシングが、アズラン・シャア・カマルザマンをライダーにBMW-S1000RRを走らせ、アクセスプラスレーシングというフィリピンのチームがドゥカティ・パニガーレV4Rを2台走らせます。んー、WSBK同様、スズキがいないか……。マシンは、世界選手権でいうストッククラスに準じたもので、ノーマルに近い、改造範囲の狭いSTK。タイヤはダンロップのワンメイク。
開幕戦のASBK予選は、カワサキタイランドのティティポン・ワロコンがポールポジションを獲得し、S1000RRを走らせるアズラン・シャアが2番手、フロントロー最後の席には、ホンダアジアドリームのゼクワン・ザイディ。実力的に一枚抜きんでているはずのブロック・パークスは、初日のFPで総合トップタイムを出しながら、予選では転倒を喫して2列目6番手で、伊藤は3列目7番手。全日本でもST600を走らせていた伊藤は初の1000ccマシンですね。
ASBKレース1は、ワロコンがホールショットからトップを走行し、後方にカザルザマン、アピワ・ウォンタナノン(ヤマハ)というオーダーから、伊藤は6~7番手でレーススタート。トップ2台がペースを上げる中、4周目にザイディがコースアウトし、パークスが3番手に浮上。この後方につけていた伊藤だったんですが、5周目に転倒。そのままレースをリタイヤしてしまいます。
結局レースは、アズランが逆転してASBK初ウィナーとなり、2位にワロコン、3位にパークスが入ったレースとなりました。開幕戦のエントラントが13台と、ひろーいセパンにまだちょっと寂しいクラスですが、BMWもドゥカティもいる選手権だけに、今後がちょっと面白そうです。
日曜に行なわれたASBKのレース2は、開始直前にスコールがザッときてのウェットレース。このレースでは、7番手スタートの伊藤がロケットスタートを決めて3番手あたりで1コーナーに入ると、コーナー3つくらいでトップに浮上! ここにウォンタナノンが続いて、このヤマハ1-2の後方にもう1台のS1000RRであるファリド・バドル・ヒシャム。ただ、セパンのスコールらしくコース前半はヘビーウェットの区間、さらにコース後半部分は乾き始めている区間となっていって、1周目の最終コーナーにはヒシャムがトップに浮上。
それでもトリッキーなコンディションのなか、なんとトップを独走していたヒシャムが転倒し、2番手につけていた伊藤が再びトップへ。このまま2番手以降との差を広げにかかるが、そうは上手くいかず、徐々に追いつかれて終盤にザイディ、そしてワロコンにかわされてしまいます。
しかし伊藤はそのまま粘り強く走り切り、ザイディ、ワロコンに続いて3位でフィニッシュ。開幕戦表彰台という幸先のいいスタートを決めました。
伊藤勇樹「レース1ではポジション取りでミスがあって順位を下げ、ペースを上げたところで転んでしまった。レース2では、YZF-R1での雨の経験がなかったので不安でしたが、雨は得意なのでコンディションが安定しないうちに飛ばしてトップに立てたんです。でも、後半はウェットタイヤでドライ区間もあったことでタイヤが消耗して順位を落としてしまった。それでも1000ccのデビューレースで表彰台に立ててよかったし、自信にもなりました。次のオーストラリア戦は、去年SS600で優勝しているので、今年はASBKで優勝したいです」
ARRCの最激戦クラスともいえるAP250では、これが海外デビューレースとなる井吉が、FP1=4番手、FP2=7番手、FP3=6番手でFP総合5番手を獲得するものの、マシントラブルが発生して予選に出走できず、最後尾9列目25番グリッドからのレーススタート。
しかし井吉は、1周で3台、2周目になんと10台をゴボウ抜きして、4周目にはなんと5番手に浮上! そこからStop&Goのレオナルド・クリッサント(ヤマハ)、ヤマハインドネシアのムハマド・ファエロ(ヤマハ)に真っ向バトルを挑み、なんとなんと6位でフィニッシュ。19台抜きの6位入賞を果たすことになります。
レース2でも最後尾スタートとなった井吉は、レース1同様のゴボウ抜きショーを見せ、今度は1周目から13台抜きを披露し、4周目には8番手まで浮上! さらにそこからも1台ずつ先行車を仕留め、表彰台まであと0秒07という僅差の4位でフィニッシュ! 予選不出場というハンディを追いながら、6/4位という上々のARRCデビューを飾りました。
ARRCは土曜、日曜ともにライブ中継があって、公式youtubeチャンネルにも残っているので、ちょっと見てみてください。マレーシアだからマレー語なのかな、その現地の言葉で、何度も何度も「イヨシ!イヨシ!」って名前を呼ばれまくっています。第2戦オーストラリアは、ちょっと注目してみたいニューフェイスですね。
井吉亜衣稀「(レース2)は最後尾から追い上げて、最終ラップの最終コーナーを3位で立ち上がって最後に競り負けました。今回得たものはとても多くて、すごく勉強になりました。次のオーストラリアでは全力でトップを目指します」
WSBK、そして全日本ロードレースで開催される1000ccスーパースポーツ最強決定戦ですが、アジア選手権という、もうひとつ楽しみな戦場が誕生しましたね。次戦オーストラリア大会は4月25日、ベンドモータースポーツパークで行なわれます。
写真/ARRC YAMAHA 文責/中村浩史