サスに加わった「知能」が抜群の働きをみせる
ZXー10RSEは昨年試乗したZXー10RRのストリート用ハイグレードバージョン。
ホモロゲモデルのRRに対し、こちらは峠道からサーキットまで、幅広い走行条件下で上質な走りを目指したモデルだ。そのために、カワサキはサスに「知能」を与えた。
国産としては初になる、ショーワ製の電制セミアクティブサス・KECSの採用である。
このサス、ユニットのベースとなっているのは10R用のバランスフリーショック。
強力な減衰を無駄なフリクションがなくスムーズに発生させられる優れモノだ。
それが路面状況やモードに合わせ、リアルタイムで減衰力を変える。
「ロード」「トラック」といった各モードごとの設定減衰力を、路面からの衝撃の大小、車体のピッチングなども考慮して常に変化させている。この対応力がビックリするほど優秀だ。
「ロード」モードでは、これがSSの乗り心地か? と思わせるほどしなやかな動きをして、大きな凸凹でもツーリングスポーツのようにしなやかに乗り越える。
かと思えば、ローやセカンドギアで1万回転以上をフルに使うようなコーナリングでも、踏み抜けたり、不要なピッチングを誘発することなくこなす。
そんな走りをしている時に大きなギャップに遭遇してもウソのように安定した接地力を発揮してくれた。「トラック」モードは「ロード」より少し硬い乗り心地だが、切り返しが軽くなり、旋回性が明らかに増す。
カワサキはこのKECSにどういった制御を施しているのか公表していないが、動的な車体姿勢にまで及ぶ制御を巧みにやってのけている。
もちろん、サーキットだけでなく、荒れた峠道だって安心して楽しめるし、走っていて感じるスタビリティ、信頼感は他の電制サスを見渡しても群を抜いている。
そして10Rの203馬力は全く身構える必要がない。
フルパワーモードでもレスポンスは優しく、街中でも穏やかに使える。ビギナーでも、とは言えないが、ミドルクラスのSSに乗ったことがあればすぐに馴染めるだろう。
パワーバンドは1万〜1万3000回転。でも広く使えば8000回転から使えるし、流すなら6000回転以下でも必要十分なトルクを発揮する。
ZXー10RSEはKECSを手に入れたことで、どこでも使いやすいSSへと進化した。
戦闘力だけでなく、扱いやすさも最高レベルにある。
SPECIFICATION
全長×全幅×全高 2085×740×1145㎜
ホイールベース 1440㎜
最低地上高 145㎜
シート高 835㎜
車両重量 208㎏
エンジン形式 水冷4ストDOHC4バルブ並列4気筒
総排気量 998㏄
ボア×ストローク 76×55㎜
圧縮比 13.0
最高出力 203PS/13500rpm
最大トルク 11.6kg-m/11200rpm
燃料供給方式 FI
燃料タンク容量 17L
キャスター角/トレール 25度/107㎜
変速機形式 6速リターン
ブレーキ形式 前・後 φ330㎜ダブルディスク・φ220㎜ディスク
タイヤサイズ 前・後 120/70ZR17・190/55ZR17
RIDING POSITION 身長:176cm 体重:68kg
前傾度の強い戦闘的なライポジだが、着座位置は前後の自由度が大きく、上体を起こせば街乗りにも耐えやすい。
またスリムでホールドがしやすく、乗り手の体格に対する適応力が高いのも魅力だ。足着きもいい方だ。
DETAILS
基本フォルムはZX-10Rと同様で、2016年に登場した先代からのフォルムを引き継ぐ。
メタリックグレーにライムグリーンを部分的にあしらったカラーはシックで上質な雰囲気を醸し出している。
従来同様、印象的な鋭いマスク。ライトは右がハイビーム、左がロービーム。
魔法の足回り「KECS」を採用
走行中の車両情報を専用ECUで統括制御、前後サスのソレノイドバルブを駆動して減衰力を瞬時に調整するシステムだ。
SEに採用されているKECSは、スタンダードの10R用サスペンションをベースとしたセミアクティブサス。
減衰力はリアルタイムで最適に調整され「ロード」「トラック」、15段階の伸/圧減衰調整から好みのセッティングをメモリーできる「マニュアル」の3モードを備える。
SS離れした快適性も特筆ものだ。
PHOTO:森 浩輔 TEXT:宮崎敬一郎、本誌編集部